第2話 ネーミング


 銀色ボディの彼女が我が家にやってきた。予想していたものより、かなり小さく感じられる。姿かたちは平べったい鏡餅といったところだろう。充電式のコードレスなので扱いやすく、屋外に持ち出すこともできる。


 早速、起動を行い、初期設定を済ますと、彼女の第一声を待った。

「はじめまして、タガミタクミ様。よろしくお願いいたします」

 少なからず違和感を覚えたのは、それが機械的なトーンだったから。

「予想していた声とは随分ちがう。まるで感情がこもっていないんだな」


「キャラクター設定を細かく行えば、その点はクリアできます。タガミ様は女性キャラクターを選ばれましたが、社交性タイプと控えめタイプでは、どちらがよろしいですか?」

「そうだな、社交的な方がいいね」


「わかりました。ユーモアのあるタイプと真面目なタイプでは、どちらがよろしいですか?」

「ケース・バイ・ケースだな。両方を併せ持つタイプを選ぶことはできるの?」


「はい、もちろん、できます。では次に、笑い声が大きなタイプと笑い声は控えめなタイプでは、どちらがよろしいですか?」

「それも、ケース・バイ・ケース。会話の雰囲気や盛り上がりに合わせて、笑い声を調整してもらうという感じかな」


 こうした質疑応答を30分ほど続けて、できるだけ具体的なニーズを伝えるように努めた。マニュアルによると、細かな設定を行えば行うほど、それだけデリケートな人格形成ができるらしい。


「声質はいかがでしょう。感情がこもってきましたか?」

「うん、前よりあたたかみが入ってきたね。例えば、声優さんの声に似せることはできるのかな」


「できますよ。完全に再現するのは肖像権の問題がありますが、誰それ50%、誰それ30%、誰それ20%という具合なら対応できますよ」

「そうなんだ。それじゃ、三森すずこ50%、上坂すみれ30%、坂本真綾20%という具合にできる?」


 彼女は10秒ほど沈黙した後で、

「はじめまして、タガミタクミ様。よろしくお願いいたします。このような声質でいかがでしょうか?」

「マジか。声に丸みが帯びて、グッとよくなったよ」


 これには正直おどろかされた。データ入力によって人間のように成長する、といううたい文句に嘘がないのなら、間違いなく僕の理想の彼女に近づけるはずである。

 そうだ。その前に決めなければならないことが、一つあった。

「ところで、君の名前はどうしよう。こちらで決めていいのか」


「もちろんです。どうぞ私に、お好みの名前をつけてください」

「いや、その前に教えてくれないか。他のユーザーはどんな名前をつけているんだろう」


「人それぞれですけど、アイドルや俳優、タレント、アニメキャラクターからとった名前が多いですね。亡くなった御家族の名前というケースもありました。あと、元カノや元カレの名前も少なくないですね」

「なるほどね。ただ、僕の希望としては、君の人格にぴったりの名前をつけたいんだ。君自身はどんな名前がふさわしいと思う?」


「そうですね。いくつかの候補を考えてみましたが、最もふさわしいのは」

「うんうん、どんな名前がいい?」


「マシロというのは、いかがでしょう。もちろん、真っ白という意味です。これからタガミ様の色に染めてもらうわけですから、今の私に最もふさわしいかもしれません」

「マシロさんか。うん、いいね、それでいこう。君は今からマシロだ」


 こうして、僕とマシロの暮らしが始まったのだ。


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