ついにこの日が来た
俺の実家に二人で挨拶に行ってから約三ヶ月経ち…… ついにこの日が来た。
白のタキシードを着た俺は、小さなチャペルの中央の壇上に立っている。
壇上のやや右側には大庭竹部長が緊張した顔をして立っているが、今は笑ってしまいそうだから見ないようにしよう。
だって今日は俺達の結婚式なんだから……
俺の両親の大事な話とは、俺のために貯金していたお金を、俺達二人の結婚式に使わないか? という提案だった。
『今は籍を入れるだけでいいと思っているみたいだが、二人には末永く幸せでいて欲しいからな……』
と、親父は言っていた。
母さんは……
『結婚式をしなかったことをあとになって後悔しても遅いのよ? それに今が一番ラブラブな時でしょ? そんな時にみんなに祝福されたら凄く幸せで、一生の思い出になるわよ』
生活の事もあるし、二人とも貯金もそれほどないから、いずれはしたいとは思っていたが、正直今すぐ結婚式をする予定はなかった。
だけど俺の両親に援助してもらえることになり俺達は結婚式をやることに決めた。
そして色々二人で話し合った結果、俺達は人前式という形で結婚式をすることにした。
牧師さんなどは居なくて、お互いの両親や友人、会社の人達などみんなに協力してもらい作りあげる俺達の結婚式……
式の打ち合わせや招待状など、準備は大変だったけど、それも含めて凄く楽しくて幸せな時間だった。
既に俺の両親は俺から見て左側の先頭のベンチに座っていて、その後ろには俺の親戚、更に後ろには高校時代からの友人や先輩夫婦、会社の同僚や先輩などが座っている。
一方右側のユアの関係者が座っている方は、ベンチの二列目にユアの姉、咲希さんと旦那さんの夏輝なつきさんがユアの登場を今か今かと待つように後ろをキョロキョロと見ていた。
その後ろにはユアの親戚、更に後ろには高校時代からの友人である仲良し三人組の内の一人の柴田さん、あとはヴァーミリオンの店長である亜梨沙さんの姿もあった。
……それに小さな子供もチラホラ。
親戚の子や世話になった俺の先輩、
それぞれみんな、小声だが楽しそうに話す中、司会を頼んでいた大庭竹部長が緊張しながらアナウンスを始めた。
「そ、それでは…… 新婦の入場になります」
すると、後方にある大きな扉が開き……
純白のウエディングドレスに身を包んだユアが現れた。
あれは二人で選んで決めたウエディングドレス……
ハートカットのビスチェにふんわりとひらひらしたお姫様のようなスカート。
試着した姿は見せてもらったが…… 元々ショートカットだったが、結婚式に向けて少し伸ばした金色の髪を可愛くセットし、いつものギャルみたいなメイクではなく大人っぽい女性のメイクをしてもらい、更に純白のドレスから見える褐色の肌が……
ユア…… 凄く綺麗だ……
そしてユアの両隣に立っていたユアの両親、右側にいた麻里愛さんに顔を覆うようにベールを下ろしてもらい、左側にいる優次郎さんと腕を組みバージンロードをゆっくりと歩いてくる……
ウエディングドレスのスカートの長い裾は、ユアの友人である美々さんと麗菜さんが二人で後ろから持ってくれている。
本当は柴田さんにも持ってもらいたかったそうだが、まだ二歳になる息子と一緒に来るからと断念したみたいだ。
そんな美しい花嫁姿のユアを、みんなが大きな拍手をしながら見つめていた。
そして………
「……唯愛を頼んだよ、陽くん」
「はい、任せて下さい」
「んふふっ」
短いやりとりをした後、ユアは優次郎さんの手から離れ、俺の隣に並び立つ……
ああ、もう泣きそう…… いや、まだ式は始まったばかりだから、我慢我慢……
「えー…… 今回の結婚式の司会を務めさせて頂きます、新郎、陽くんの上司の大庭竹です」
部長…… 今日はありがとうございます。
身近な人達だけで進行させる結婚式、しかも色々と都合があってかなり急いで式の準備をしたから、快く引き受けてくれた大庭竹部長には感謝しかない。
「ヨウ……」
いつもとは違い、腕にそっと手を添えるように組んできたユア。
だけど、ベールで覆われたその顔は今まで見た中で一番幸せそうな顔をしていた。
「綺麗だよ、ユア」
「んふふっ、ありがとう……」
見つめ合う俺達…… そして自然と顔が近付き……
「……この素晴らしい日を迎えることが ……って、大倉くん! 誓いのキスはまだ先だよ!?」
おっと! いつもの癖というか、ユアがキスして欲しそうに見つめてきたから、つい…… ベールがあるとはいえ、危ない危ない……
クスクスと笑い声と共にカメラのシャッター音なども聞こえてきた。
「えー…… 新郎新婦の気持ちが高ぶっているみたいなので、お二人の夫婦の誓いをいたしますので、両家のご両親や友人にも協力していだだきます」
そう…… 家族や友人に誓いの言葉を考えてもらって俺達が答える、こういう形にしたくて俺達は人前式を選んだんだ。
「それでは…… 新婦の父親、優次郎さんからお願いします」
「新郎陽くん…… 私達の娘、唯愛は少しワガママで気が強いところがありますが、それでも愛し続けることを誓いますか?」
「はい、誓います」
心配しなくても大丈夫です、ちょっとワガママなところも可愛いんですから。
「続いて新郎の父親、
「新婦唯愛さん、私達の息子、陽はのんびりとした性格で少し頼りないと感じるところがあるかもしれませんが、それでも愛し続けることを誓いますか?」
「はい、誓います」
頼りないかもしれないが、誰よりもユアを幸せにするために努力を続けるよ。
そう思いながらユアをチラッと横目で見ると、ユアもこちらを見て笑っていた。
「新婦の母親、麻里愛さん……」
「陽くん、唯愛は寂しがり屋で甘えん坊なところがあります、構ってもらえないと駄々をこねるかもしれませんが、それでも愛し続けることを誓いますか?」
「……ふふっ、はい、誓います!」
ちょっと笑ってしまったじゃないですか! ……甘えん坊なところも可愛いんですよ、それとユアが寂しくならないように努力します。
「では新郎の母、妃子さん」
「唯愛さん、陽は身体が大きくて汗かきで、ちょっぴりイビキもうるさいけど、それでも愛し続けることを誓いますか?」
「……ふふっ! はい、誓います」
か、母さん! イビキは今は関係……
「……ユア、俺のイビキはうるさい?」
「んふふっ、大丈夫よ…… たまーにだから」
う、うるさいんだ…… ゴメン。
そして…… ユアの姉、咲希さんや友人代表として俺の方は高校の友人、
「それでは、新郎新婦、結婚指輪の交換を行います」
この日のために二人で用意した指輪を…… ユアの左手を取り、薬指に指輪をはめる。
「んふふっ……」
続けてユアが俺の左手の薬指に指輪をはめた。
みんなの前で夫指輪を交換して…… ようやく夫婦になるんだという実感が湧いてきた。
「では、誓いのキスを」
ユアがベールを上げやすくするために少し頭を下げてくれた。
そしてベールを上げて……
「ヨウ…… あたし、凄く幸せよ……」
「うん、俺も幸せだよ……」
みんなに見守られる中、俺達はこれからどんなことがあっても二人で手を取り合って乗り越え幸せになるために…… 誓いのキスをした。
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