綺麗にしておかないと!

「えぇっ!? そう…… 鎌瀬がねぇ……」


 仕事を終え帰宅しユアに鎌瀬の話を伝えた。

 鎌瀬の話もそうだが、それよりも話したかったのは……


「というわけで、しばらく仕事が忙しくなって帰りが遅くなるかも」


「寂しい…… けど、ヨウの方が大変だもんね! うん…… 頑張ってね!」


「ありがとう…… ごめんね、ユア」


「ううん、逆にあたしはパープルサウンドの話が未定になって暇になったから、家の事は任せて! んふふっ、毎日ヨウの帰りを待ってるから」


 URANOの契約が白紙になったせいで、ユアがパープルサウンドの指導に行く話もなくなったらしい。


 一ヶ月間、ヴァーミリオンではユアが抜けた穴を補うために臨時の店員を雇う予定みたいだから、シフト的に人が余っている状態になってしまったらしい。


 だから出勤日が少なくなり、この一ヶ月間は休みが多くなってしまうみたいだ。


「んふふっ! とりあえず…… お風呂に入りましょ?」


 一緒に食事をして、風呂に入り、リビングでのんびりとして、夜は……


 うん、ユアと一緒にいられるだけで幸せだから仕事も頑張れそう。


「ふぅ…… あっ、明日お義母さんが来るみたいよ? だからお昼はランチに行くから」


 母さん…… ユアとは頻繁にやりとりをして、息子である俺には一切連絡がないんですけど。

 まあ、それくらいユアと母さんの関係は良好だということで納得しよう。


「もう、話してる途中なのにヨウったら……」


 だってムニュリがプカプカしていたから、つい……


「んふふっ…… じゃ、上がろっか」



 ◇



 今日も仕事に向かうヨウを見送り、早速部屋の掃除に取りかかる。


 寝室のシーツは洗濯して、換気に消臭…… 洗濯機を回している間に掃除機をかけて…… ふぅっ! お義母さんが来るし、いつも以上に綺麗にしておかないと!


 掃除洗濯が終わったらシャワーを浴びて、化粧と髪のセット…… んふふっ!


 お義母さんと直接会うのはこれが二回目。

 ただ毎日のように連絡を取り合っているから仲は良いと思う。


 あっ、お義母さんからメッセージだ!


『今から向かうわねー』


『はーい、待ってまーす!』


 ……よし! んふふっ、楽しみー!


 今日はあまり肌の露出が多くない可愛い服にしよーっと。

 露出の多い服はヨウとのデート以外では着ないつもりだけどね、んふっ、ヨウに『ダメ!』って言われてるから!


 あぁん…… ヨウはあんな事があって心配しているだけかもしれないけど『俺以外に見せるな!』って言われてるみたいで嬉しい……


 身も心もヨウのものにされちゃったし、ヨウの言う事はちゃんと聞かないとね!


 身も心もといえば…… 昨日の夜も…… はぁっ……


 なんて思い出しながらモジモジしていたら、インターホンが鳴った。

 モニターに映っているのは…… お義母さん!


「はーい!」


『来たわよー!』


「今開けますねー」


 急いで玄関へ向かいドアを開けると、両手に荷物を持ったヨウのお母さんで、あたしの未来のお義母さんでもある妃子きこさんが立っていた。


「唯愛ちゃんおはよう」


「おはようございます! あっ、荷物持ちますよ」


「ふふっ、ありがとう、唯愛ちゃん、今日は可愛らしい格好しているのね!」


「んふふっ、今日はお義母さんとデートですからね」


「もう! 唯愛ちゃんったら可愛いこと言うわねー!」


 あたしがそう言うと、ヨウほどではないけどムッチリ高身長なお義母さんに抱き着かれた。


 ヨウとは違うふわふわした感じ…… 特にムニュリとするムニュリに優しく包まれて…… 心地よくなっちゃう!


「さーてと! 唯愛ちゃんとのデートの前に…… あっ、この荷物は野菜とか調味料のおすそ分けだから二人で食べてね! ……それより唯愛ちゃん、本当にいいの?」


「……はい!」


「まだ二人とも若いでしょ? こんなに急がなくてもいいんじゃない?」


「……それでも、ヨウとずっと一緒にいたい気持ちは変わらないです」


「……陽ちゃんを任せてもいいの?」


「はい! 絶対に二人で幸せになります!」


 お義母さんが心配な気持ちは分かる…… 

 あたしの家族にはずっと前からヨウのことをそれとなく伝えていたから。


 でもお義母さんからしたら、突然現れた派手で遊んでそうな見た目の女が、大事な息子と結婚すると言い出してビックリしただろう。


 それでも…… あたしは一日でも早くヨウと一緒になりたいの。


 だってヨウは優しくてカッコいいし、その上可愛いから…… モテモテだと思うから不安なんだもん!


「……分かったわ唯愛ちゃん、陽ちゃんをよろしくね」


「はい! 任せて下さい!」


 やった! お義母さんに認めてもらえた! んふふっ


「それにしても、陽ちゃんにベッタリだった唯愛ちゃんがねぇ……」


「えっ!? ま、まさかお義母さんも小さい頃のあたしを覚えているんですか?」


「ふふっ、最初に会った時に気付いていたわよ、だから二人の同棲にも口出ししなかったし……」


 本人であるあたし達は覚えてなかったのに…… 


「唯愛ちゃんならずっとヨウと仲良くやっていけそうだから…… 大変なこともあると思うけど、二人で協力して頑張ってね」


「お義母さん…… ありがとうございます!」


「ふふふっ、それじゃあデートに行きましょうか」



 …………

 …………



 ◇



「はぁー! 誰かさんのせいで忙しい忙しい…… 大倉くん、はい、コーヒー」


「部長…… ありがとうございます」


 パープルサウンドの店舗を、トラブルにより鬼島グループの会長、鬼島虎雄きじまとらおさんが直々に経営管理することになった。


 そのおかげで完成したはずのパープルサウンドの店舗を店内を改装することになり、一から見積りや設計をし直すはめになってしまった。


 なんでも『パープルサウンド』という店名は鬼島会長のお孫さんにちなんで命名したらしく、問題が発覚後に会長は激怒して、簡単に言うと『孫娘の名を汚した奴らが考えて設計した店舗などそのまま使用出来るか! 一から作り直せ!』という命令がされたらしい。


 ……温厚で優しい会長って噂だから、実際にはどんな風に言ったのかは分からないけどね。


「でも会長が怒るくらいですから、URANOが酷い経営をしようとしてたんですかね」


「あははっ…… そうだねぇ……」


 んっ? 苦笑いしているけど部長は本当の理由を知っているのかな?

 ……言いづらいことなんだろうな、これ以上この話はやめておくか。


「ところで大倉くん、例のあの娘とはどうなったんだい? まだ恋人未満という感じだったけど」


「あの、実は…… まだ役所に届けてないですけど、婚姻届に記入して婚約という形になりました……」


「えっ…… えぇぇぇーーー!?」


 うわっ!? びっくりしたぁ…… 大声出さないで下さいよ! 

 

「えっ、あっ、こ、婚約ぅ!? えっ? まだあれから四日くらいしか経ってないよね!? それが婚約だって!?」


 ちょっ! 声が大きいですよ!


「なになに? 誰が婚約したんだ?」


「大倉、婚約って聞こえたけど」


 ああっ! 部長のせいで先輩達まで近寄って来ちゃったじゃないか!


 そして…… 隠していた訳ではないんだけど、部署内の全員にユアと婚約したことがバレてしまった。

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