やっぱり本物が一番ね!

 その後、ユアの実家でユアのお父さんの帰りを待つついでに晩ごはんをご馳走してもらうことになった。


「ふふーん! ここがあたしの部屋よ!」


 麻里愛さんは晩ごはんの準備を始めたし、リビングで待ってるのも暇だからと、二階にあるユアの部屋に案内された。


「ポゥさんグッズが多いね」


「うん! 小さな頃からコツコツ集めてるのよ」


 白やピンクが基調の整理整頓された部屋にはポゥさんのぬいぐるみやポスター、小物があちこちに置かれている。


 その中でも一際目を引くのが、大きなポゥさんのぬいぐるみ。

 大体一メートルくらいだと思うが、俺の上半身くらいの高さと幅があるんじゃないかな?


 古い物なのか、少し色褪せていたり何かを溢したのか少しシミになっていたりと多少クタクタになっているようにも見える。


「これがママの言っていたぬいぐるみよ! んふふっ」


 ああ…… 覚えてないが、引っ越しで離れ離れになった時に買ってもらったと言っていた…… じゃあ十数年前に買ったぬいぐるみなんだ、大事にされていたんだな。


「この子のおかげでヨウを忘れずに済んだのかもね! 抱き心地も良いし、ふわふわなのもヨウに似てる…… でもぉ…… やっぱり本物が一番ね! んふふっ」


 うぐっ! 急に力強く抱き締められたから変な声が出ちゃったよ。

 そしていつものように胸元に顔を擦り付け深呼吸したユアは、そのまま部屋の隅にあるベッドの方へと俺をグイグイと押していく。


「ユ、ユア?」


「んふふっ……」


「ちょっと、ダメだって」


「大丈夫、ちょこっと疲れたから添い寝してもらいたいだけだから!」


 大丈夫ではなさそうなんだけど……


「お昼寝よ、お昼寝、ねっ? いいでしょ? ヨウ、お願ーい!」


「……ダメだって」


「お願い……」


 うぅっ! 何でそんな悲しそうな顔をしながら『お願い』するんだよ…… 『お願い』のバリエーションを増やしてきたな?


「……添い寝だけだよ?」


 やっぱり俺はユアの『お願い』が断れない…… 可愛い彼女…… いや、お嫁さんになると言ってくれたユアの『お願い』は……


「やった! ふふっ、ありがと!」


 そしてベッドに横になると……

 横になった途端、覆い被さるように俺の上に乗り、キスをされ、ユアの手が段々と俺の下の方に……




「ただいまー!!」


 んんっ!? 女の人の声? 『ただいま』って聞こえたよ?


「んもう! お姉ちゃんが帰って来ちゃった…… せっかくヨウとこっそりイチャイチャしようと思ったのに!」


 やっぱり添い寝だけじゃなかった! ……危ない危ない、下に麻里愛さんがいるんだよ!? そういうのは帰ってからにしようよ。



「あれー? ママぁ、唯愛はー?」


「自分の部屋にいると思うわよー、あっ、ちゃんとノックして入らないとダメよ? 陽くんとお楽しみ中かもしれないし」


「そうなんだー、えへへっ、覗いちゃおっかなぁー?」


「やめなさい、咲希だって覗かれたら嫌でしょ?」


「冗談だよ! 唯愛ー、帰って来たよー」


 階段の下で話しているみたいだけど麻里愛さん、全部丸聞こえですよ!


「ママったら! お姉ちゃんを一時間くらい二階に上がって来ないように上手く引き止めておいてくれたら良かったのに!」 


 ユア…… 一時間も『お昼寝』くらいするつもりだったのか。


「んーっ…… 続きは帰ってからにしましょ? んーっ…… ねっ?」


 そ、それなら俺の上から降りて欲しいな…… 


「ヨウ…… んーっ…… ぷはっ、仕方ないからリビングに戻りましょうか」


 名残惜しそうに何度もキスをしてきたユアはようやく俺から離れ、俺達はリビングへと戻った。


 そして、リビングのソファーにちょっとダラけながら座っていたのは、ユアのお姉さんの咲希さん…… って名前だったよな?


 ユアはクールな印象の美人だが、お姉さんはどちらかというと童顔で可愛らしい美人さんだった。


 目元と色白な肌は麻里愛さんに似ているが、少し丸顔でぷっくりとした少し厚めの唇が印象的だ。

 身長もユアより低そうだしスラッとした体型をしているから、ユアの方がお姉さんに見えてしまうかもなぁ……


 それよりも挨拶をしないと!


「……は、初めまして、ユアさんとお付き合いさせて頂いている大倉 陽で……」


「あぁー! 隣に住んでいて、唯愛がいつもしがみついて離さなかった陽くんよね!? えへへっ、大きくなったね」


「お姉ちゃん、覚えてるの?」


「うん! だって唯愛が『ヨウくんとあそびたいからついてきて!』って毎日毎日私を引っ張って連れ出すんだもん、覚えてるよ」


「……うぅっ、ごめんねヨウ、あたし覚えてない」


「いや、俺も覚えてなかったからお互い様だよ」


「そんな二人が今こうして結婚の約束までしちゃうんだから、二人は結ばれる運命だったのね!」


「運命!? ……確かに! さすがお姉ちゃん! んふふっ、あたし達は運命の赤い糸で結ばれていたのよ!」


 あの…… 姉妹で盛り上がってますが、挨拶はいいのかな? 


「唯愛が毎日のようにメッセージを送って来るから、陽くんとは久しぶり、って感じがしないねー」


「写真も送ってるしねー」


「そういえば唯愛、結婚おめでとう! 急だったからお姉ちゃんビックリしちゃったよ! えへへっ、でも良かったね!」


「ありがとうお姉ちゃん! あたしもお姉ちゃん達みたいに幸せになるからね!」


「私達だって負けないくらい、もーっと幸せになるもん!」


 うん…… 挨拶はもういいみたい。

 結婚もすんなり受け入れられているし…… 本当に大丈夫?


「ただいまー」


「あっ! ヨウ、パパが帰って来たわ! パパー、おかえりー!」


 お、お父さんがついに帰って来た! ……さすがにキチンと挨拶しないと!


『お前なんかに娘はやらん!』って言われた大変だ! き、緊張してきたぁ……


「はっ、初めまし……」


「唯愛! 結婚おめでとう! いやぁー、唯愛を貰ってくれる人が現れるなんて、パパ嬉しいよー、高校生の頃に格闘技を習い始めた時は将来どうなるのかと本気で心配してたんだから! ……ああ! 君が陽くんだね! 唯愛から君の事は聞いてるよ! 唯愛が『ヨウ以外とは結婚しないから! もしフラれたら修行の旅に出るわ』と聞いていたからヒヤヒヤしてたんだよ! ああ、良かった良かった…… ママ、今日の晩ごはんは何ー? めでたい日だから今日はビール二本飲んでもいいかな? あっ、陽くんはお酒飲めるのかい? 息子と酒を飲める日を楽しみにしてたんだが、うちは娘二人だからねー、ママと頑張ったんだけど、あははっ! ……イテッ! ママ、叩かないでよ! 『子供達の前で恥ずかしいからやめて』? あははっ、恥ずかしがってるママも可愛いよ!」


 ユ、ユアのお父さん、めちゃくちゃ喋るなぁ! しかもお父さんまですんなり結婚を認めているし……


 本当に大丈夫なんだろうか…… この家族。


「ヨウの良い所は全部皆に伝えてあるから心配しなくても大丈夫よ!」


 ユアちゃん…… 外堀という外堀を既に埋め終わってたのね。

 あとは大将を残すのみだったと…… 策士ユア、見事なり……


 あははっ…… 俺、愛されてるなー!


 …………


 はぁ…… ユアを幸せにするため全力で頑張ろう……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る