千和のアドバイスのおかげよ
◇
「チッ! 何で大沢が我々を探っているんだ!! ……マズい事になったな」
「すいません、まさか尾行されているとは…… 気付きませんでした」
「大沢が探っているという事は『鬼島の虎』に勘付かれたかもしれないな」
「…………」
「鬼島グループの傘下に入っている会社の重役に女を宛がって仕事を奪っているのがバレたら我々もタダじゃ済まない、しばらくは大人しくしていた方が良さそうだ」
「はい、では私はどうすれば……」
「……新しい客探しのためにAOフーズに居てもらったが潮時かもしれん、人事に手を回して君を私の会社に出向した扱いにしてもらえるよう手配する、そして君には地方に…… いや、海外の支店に異動したという事にして、しばらく隠居生活をしてもらうか」
「分かりました……」
…………
クッ! ……しくじった!
日曜日で誰もいない営業部のデスクに座り舌打ちをする。
まさかヴァーミリオンの店長と大沢が繋がっていたとは…… 浦野も隠居をさせると言いつつ頃合いを見て私を切り捨てるつもりなんだろう。
……まあいい、浦野も鬼島に目を付けられて潰される可能性があるから、こちらも潮時だろう。
しばらくは浦野からの援助を受けながら生活出来るし、浦野に頼まれている面倒な女探しもしなくて済みそうだ。
もう別の仕事を探すしかないか…… 兄貴に連絡して……
……うぐっ! ……大倉のやつ!
まだ痛む股間を庇いつつ、誰にも見られないよう会社にある自分のデスクの中身を整理した。
◇
約束通り、ユアの実家に挨拶をしに行くために俺達は午前中に家を出た。
そして柴田さんの家であるお団子屋でユアの両親への手土産を買いに来た。
高校以来久しぶりに柴田さんに会ったが、まさかもうすぐ二歳になる子供がいるなんて…… ビックリした。
「千和、あたし達付き合うことになったの! 千和のアドバイスのおかげよ、ありがとね」
「えへへっ、おめでとう唯愛ちゃん! ……オーくんも良かったね!」
オーくん…… 久しぶりにそのあだ名で呼ばれたな。
高校のクラスメイトにはそう呼ばれる事が多かったなぁ…… ユアは『大倉』だったけど。
「オーくん……」
「えへへっ、高校生の時、唯愛ちゃんったら『どうしよう! 恥ずかしくてオーくんなんて親しげに呼べないよー』って、私達にいつも言ってたんだよ?」
「ちょっと千和、それは言わないでよー! ……ヨウ、今のは聞かなかったことにしてね?」
「あ、あはは……」
だからちょっとツンとした感じで『大倉』と呼んでいたのかな? あまり話自体してなかったけどね。
「ノートに『オーくん♥️』って書いて呼ぶ練習をしたり……」
「わぁー! 千和!? もういいからお団子を早くちょうだい!」
「はーい、今準備するからベンチにでも座って待っててね? えへへっ」
…………
「……ヨウ? 分かってるわよね?」
「うん…… 俺は何も聞いてないよ」
『ビッチ』という噂は誰が流したんだ! ……こんなに可愛らしいのに!
ユアのことを知れば知るほど愛おしくなっていく。
こんな可愛い女性が俺の彼女、かぁ……
「なーに? あたしの顔を見つめて、んふふっ、もしかしてまたシたくなっちゃったの?」
「ち、違うって!」
「じゃあどうしたの?」
「……可愛いなぁ、って見てただけ」
「んふっ、ありがと…… ヨウも可愛いしカッコいいわよ」
そして…… 見つめ合う二人の顔が徐々に近付き……
「えへへっ、おまたせー! ……あっ、邪魔しちゃった?」
「へっ? あっ! 柴田さん、だ、大丈夫…… んぐぅっ!?」
「んー…… ぷはっ…… あっ、千和、ありがとー!」
「二人ともラブラブだねー、えへへっ、作りたてだからきっと美味しいよ、早めに食べてみてね!」
ユア!? キスしている所をガッツリ見られちゃったじゃないか! ……柴田さんはあまり動じずにお団子を手渡してくれたけど。
そして柴田さんにお礼を言って店を出て、お土産を持ってついに…… ユアの実家に到着した。
「ただいまー!」
「お、お、お邪魔します!」
「あっ、唯愛おかえり! ……あらぁ、初めましてぇ…… よね?」
「は、初めまして! ユアさんとお付き合いさせて頂いてます、大倉陽です! よ、よろしくお願いしましゅ……」
「唯愛の母の
「ぷぷっ! 『しましゅ』だって…… 可愛い……」
ユア、緊張して噛んだだけだから笑わないでよ!
それにしてもユアのお母さんか…… 目はユアと違ってタレ目だが、他の顔の輪郭やパーツはユアとよく似ている。
色白でほんの少しムチっとしているが、ユアが百六十センチもないくらいだから背丈もだいたい同じくらいかな?
並べば姉妹にも見えるくらい若々しいお母さんだ。
「さぁ、上がって上がって!」
「お邪魔します…… あっ、これお土産です」
「あらぁ、ありがとねー…… あっ、
あっ…… さすが親子、笑った顔はそっくりだ。
「ヨウったら、なにママに見惚れてるのよ! 彼女のあたしを見なさい!」
えぇ…… 親にまで嫉妬するの? ……あぁ、わ、分かったから抱き着かないで!
「ふふっ、仲良しさんなのねぇ…… あら? 何だかこの光景…… んっ? 大倉……」
「ユア? 靴が脱げないからちょっと離れて……」
「……やっ! ……すんすん」
「どさくさに紛れて匂いも嗅がないで」
「…………すぅぅぅー!! っ、はーい、んふふっ」
……そんな、吸いだめしなくてもいいじゃないか、帰ってからユアの好きなようにしていいから、今は挨拶するのが先!
「大倉…… 大倉…… うーん……」
リビングに案内された俺は、大きな四人掛けのソファーに座るよう促された。
そして、ユアのお母さんは目の前あるテーブルにお茶と買ってきたお団子を並べていたのだが、さっきから何か考え事をしているようで、うーん、と唸っていた。
「古い家だけどここが実家なのよ、パパはお仕事だからまだ帰って来ないけど…… あれー? ママー、お姉ちゃんはー?」
「うーん……」
「ママ?」
「……あっ!
「ふーん…… ならそんなに遅くならないわね! ……ママ、さっきから唸ってるけどどうしたの?」
ああ、いつもスマホでメッセージのやり取りをしているユアのお姉さんか。
新婚で、夫婦の新居を建てているから居候しているとか言ってたもんな。
……ところでユア、何で俺の膝の上に座っているの? しかも顔が向かい合っているからね?
「んふっ!」
「笑って誤魔化さないで」
「別にいいじゃない! いつも通りでしょ?」
二人きりの時ならいいけど、今日は挨拶に来てるから遠慮して欲しいんだが…… くっ! 抱き着いてきて、このまま座っているつもりだな?
「…………」
ほら! ユアのお母さんが無言で俺達の姿を見つめてるから、離れて…… 相変わらず力が強いな!
「あ、あははっ、すいません…… 今離れてもらいますから……」
「……思い出したわ!!」
わぁっ!! ユアのお母さんがいきなり大きな声を出したからビクっとしちゃったよ!
「んふぅ……」
コラッ! ユア、変な声を出すんじゃない!
「陽くんって、もしかして大倉さんちの陽くん!?」
…………はい?
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