ユア!!
「あっ、大庭竹さん!」
「あー、古江さん、結局挨拶できずに慰労会が終わっちゃいましたね」
「久しぶりってわけでもないですし、いいじゃないですか? うふふっ」
「そうですね、そういえばこの間ご主人と出かけた時……」
慰労会もお開きとなり出口付近で皆それぞれ別れの挨拶をしている中、大庭竹部長とヴァーミリオンの店長、古江さんが親しげに話していた。
この二人、なんでこんなに仲が良さそうなんだ? まさか! 二人とも人には言えない関係なんじゃ……
「……大倉くん、変な疑いをかけないでくれよ」
「うふふっ、私の娘と大庭竹さんの息子さんが同級生で、親同士でも顔見知りなのよ」
「そう、ついでに古江さんの娘さんの旦那さんが私の息子と親友で、そっちでも家族ぐるみの付き合いがあるからね」
そういうことか…… たしか大庭竹部長の息子さんって俺より四歳くらい年上だったよな? 古江さんって若々しいからそんな大きな娘がいるようには見えない……
「私には愛する旦那様がいるし、それにもうおばあちゃんだから、大倉くんの想像しているようなことはないわよ、うふふっ」
お、おばあちゃん!?
「お孫さん、もう五歳くらいでしたよね」
「そうなんですよ! 本当に可愛くてねぇ…… 娘はそろそろ二人目を、とか言ってますけど」
ひぇぇ…… こんなおばあちゃんがいるのか? というくらい若くて綺麗だな……
「じゃあ大倉くん、二次会頑張って」
「部長は行かないんですか!?」
「私は誘われてないしね…… あははっ」
部長…… 顔に『行きたくない』と書いてありますよ?
……はぁっ、仕方ない、ちょっと顔出してユアと帰るか。
…………
あれ? ……ユア、どこに行ったんだろう?
「どうしたんだい? キョロキョロして」
……気付けば鎌瀬部長達もいない! 二次会の場所は後で教えるとか言ってたのに。
『あの鎌瀬って男には気をつけて!』
ふとユアが前に送ってきたメッセージを思い出してしまった。
それにいやらしい目で見られたとか言ってたな、何だか嫌な予感がする……
「鎌瀬部長達に置いていかれたみたいで、それにユ…… 真野さんも居なくて」
ユア…… そういえばお酒っぽいのを追加で頼んで飲んでいたような……
『んふふっ……』
……っ! 酒の勢いで他の男を誘っているユアを想像してしまった。
いや、ユアはきっとそんな女性ではない…… 一緒に過ごしていたら分かる。
それじゃあ……
『……いやぁっ! やめてぇぇぇ!』
酔わされたユアが鎌瀬部長や部下達に…… そんな事になっていたら絶対に許さないぞ!!
とにかく……
「ユアを探さないと!!」
俺が一人で焦ってユアを探そうと動き出したその時、古江さんが俺の腕を掴んできた。
「…………待って」
「えっ?」
「大庭竹さん」
「……古江さん、彼も連れて行くつもりですか? 危険ですよ」
「いざという時のためよ、それに尾行は『大沢』さんに任せているから」
……何の話だ? よく分からないけどそんな事よりもユアが心配なんだ! 早く探さないと……
「大倉くん、理由は聞かずに私達に付いてきてもらってもいい? 予想が当たっていたら唯愛ちゃんもそこにいるはずよ」
理由が話せないことって…… 気になるが今はどうでもいい! ユアに何もなければそれだけで俺は……
「……分かりました」
そして、俺はスマホを見て何かを確認しながら早歩きで進む古江さんの後を付いていった。
◇
連れてこられた二次会の会場は、路地裏にある一軒の怪しげなバーだった。
中に入ると内装はおしゃれだけど薄暗くて、他にお客さんは居なかった。
「お待ちしておりました、奥のVIPルームをお使い下さい」
鎌瀬の部下二人がバーのマスターと何か会話しているわね…… それよりもヨウはどこ?
「真野さん、他の皆さんが来る前に入って待ってましょう」
……イヤな視線ね、身体をジロジロ見られているような、まるであの噂が流れて以降、高校時代に廊下ですれ違う男子に見られていた時と同じような…… ふん、まあいいわ! ヨウが合流したら、ヨウにたっぷり見てもらうんだから!
◇
「ほう…… 今店に入っていったのが今回の…… 気の強そうな女で少々遊んでそうな印象だが、ああいうのが長く使うには良いかもしれないな」
「気に入って頂けたようですね」
「ああ、気の強い女を服従させて遊ぶのも面白そうだ…… じゃあ準備が出来たら呼んでくれたまえ」
「はい、それでは早速部下達に指示を…… ところで浦野社長、もっと面白くなるような提案があるのですが……」
「……何だ?」
「実はあの女、彼氏がいましてね…… ちょうど今、その彼氏も慰労会に参加していたんですよ」
「……くっくっ! なるほど、鎌瀬くんの考えていることが分かったよ…… では、その彼氏くんにはあの女が壊れていく様子を特等席で見てもらおうか」
「はい、ふふふっ…… もしもし、では
始めてくれ」
さて、私も頃合いを見て加わるか……
◇
「……っ!? 急がないとマズいことになりそう! ……走るわよ!」
古江さんのスマホに何か連絡が入ったらしく、古江さんは俺達に声をかけ急に走り出した。
凄く慌てていたけど、まさかユアに何かあったのか!?
「こっちよ!」
はぁっ、はぁっ、はぁっ……
ユア…… ユア!!
何があったのかは分からない、でも、きっとユアが危険な状況にあるのは様子を見ていれば分かる。
そして、後に付いて走っていると、古江さんは人通りの少ない路地裏へと入っていった。
「……あの建物みたいよ!」
古江さんが指差した方向にあったのは、少し怪しげなバーだった。
雰囲気からしてとても二次会をやるような場所ではなさそうに見えるが……
たしかこの辺は女性が色々なサービスをしてくれる店が立ち並ぶ場所の外れの方だったよな……
そんな怪しい場所にユアが連れて来られたということは…… 危ない状況って、そういう事なのか!?
ユアが……
『いやぁぁぁっ!! ヨウ、助けてぇぇぇっ!!』
酷い目にあってる想像をしてしまった……
そんなの…… 絶対に嫌だ!
もしユアが本当に危ない目に合っていたら…… 俺がどうなろうとユアだけは絶対に助ける!!
「ちょっと待って! 連絡が…… あっ! 大倉くん!?」
ユアを危険な目に合わせたくない……
奪われたくない……
俺の大切な人なんだ!!
古江さんに止められたような気がするが、一秒でも早くユアの無事を確認したいという気持ちが勝り、勢いよくバーのドアを開けて店内へと入っていった。
「だ、誰だ! ……こんな時に!」
格好からしてバーの店員か? 何か慌てているようだけど、そんな事はどうでもいい!
「ユアはどこだ!!」
「ぐっ! ……」
凄みながら近付くと、店員らしき男はチラリと奥を見るように俺から目を逸らした。
……あっちにいるのか!
「か、勝手に入るんじゃな……」
んっ? 何か大きな物が倒れたような凄い音がしたぞ!? 大丈夫なのか?
そして走って奥に向かい、『VIP』と書かれた個室らしき部屋のドアを開けると……
「ユア! 大丈夫か…… あっ!!」
勢いよくドアを開け個室に侵入すると……
部屋に入った瞬間、店内より薄暗くなっていてよく分からなかったが、俺に何かがぶつかって、更に膝に『ムニューン』という感触が…… そして何にぶつかったのかと目を凝らして確認してみると目の前には……
「……っ!? ぎゃあぁぁぁぁ!!」
床に倒れ…… 股間を押さえながらのたうち回る…… 鎌瀬部長がいた。
あれ? ……前にもこんな事あったよな?
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