二次会? ……行きたくないなぁ

「こんな所でイチャイチャしないの! そういうのは帰ってからやりなさい!」


「ユア、そろそろ離れてくれないとまた誰か来ちゃうから」


「はーい、すんすん……」


「まったく! ……怪しまれるから早く戻りなさいよ?」


 そして呆れたような顔をして古江さんはトイレの方へと歩いて行った。


「……ヨウ、そういえば悪イケメン達が二次会の話をしてたけど、行くの?」


 えっ、二次会? ……行きたくないなぁ。


「ふふっ…… じゃあ終わったら家で二人きりの二次会をしましょ?」


「それってただ帰るだけじゃないの?」


「……あたしもヨウの家に『帰って』いいんだ! ふーん…… ふふふっ!」


「えっ!?」


 当たり前のように一緒に『帰る』と思ってしまっていた! 

 ユアと一緒に帰るのが当たり前…… ああ、もう手遅れなくらい絆されちゃってるな、俺……


「……うん、帰ってからのんびり二次会をしよう」


 自分の本当の気持ちに気付いたんだから、いい加減素直になろう。

 ビッチだろうが何だろうが、ユアが好きなんだから……


「ヨウ…… んふっ! んふふーっ! ……すんすん」


 ユア…… 嬉しいのは何となく分かるけど、いい加減すんすんはやめようね?



 そして、ユアと同時にトイレから戻るのは怪しまれそうだったので俺が先に席に戻ると、気分の良さそうに話をする鎌瀬部長と目が合ってしまった。


「大倉くん、楽しんでいるかい? いやー、君のおかげでオーナーさんも予算以内でイメージ通りの店が完成したと喜んでいるよ」


「いえ、先輩達に助けてもらいながら進めた仕事だったので、自分だけの成果ではないですよ」


 みんな自分の仕事で忙しい中、俺の手助けをしてくれたんだ、部長だって気にかけてくれて何度もアドバイスしてくれたし。


「謙虚な所も素晴らしい! 私が見込んだ通りだよ! はははっ」


「ありがとうございます」


 うーん…… そもそも鎌瀬部長は営業部、しかも部長ってだけなのに、何故店舗開発の事にまで口を出すんだろう……


 ユアの言っていた鎌瀬部長のイメージ、意外と当たっているのかもな。 


「おっ、そうだ! 大倉くんも二次会に参加してくれないか? 今回はオーナーの注文で予定が変更になったりと迷惑をかけたから、大倉くんにはお詫びも兼ねて良い店に案内するよ、もちろん私のおごりでね!」

 

 少し疲れたし、帰ってユアとのんびりと休んでいたい…… でも『お詫び』と言われて断るのも…… 楽しめはしなさそうだが、仕事だと思って割り切るしかないのか? 仕方ない、少しだけ顔を出して帰るか。


「分かりました、参加させて頂きます……」


 ユア、ごめん…… 少し帰るのが遅くなりそうだ。



 ◇



 んふふっ! こっそりヨウに甘えて元気になったわ!


 今日は肌を露出しない地味な服にしたのに…… 悪イケメンとその部下っぽい男達があたしの方をチラチラ見てきて気分が悪かったのよね!


 はぁ…… ヨウの良い香りをたっぷり吸い込んだおかげで気分も良くなった。

 不思議よね…… ヨウの身体からリラックス成分でも出てるのかしら?


 くっついていると幸せだし、ヨウと一緒に寝ると夜もグッスリ。


 そして触れられると熱くなって…… やん! 思い出しただけで熱くなっちゃう!


 また今日の夜も一緒に…… んふふっ! 


 ……あれ? ヨウがあの鎌瀬に話しかけられてるわ。


 なになに? ……に、二次会!? 参加しちゃダメよ、ヨウ! あたしとのんびり二次会するんでしょ? そして最後はまたベッドの中でお互いに『お礼』し合って……


 えっ! 二次会行っちゃうの?『お詫び』とかズルい言い方をして! そんな言い方をしたら頼まれ事を断るのが苦手なヨウなら首を縦に振っちゃうんだから!


 はぁっ、それなら今日はおあずけかぁ…… 残念。


 そしてヨウが自分の席に戻っていくタイミングを見て、あたしが席に戻ると……


「やあ、真野さん、楽しんでいるかい?」


 うげっ! なるべく鎌瀬の方を見ないようにしていたのに目が合って話しかけられてしまったわ! ……あたしのヨウを二次会に誘うなんて! 


「ええ、楽しんでますよ」


 ふん! 楽しいわけないでしょ? せっかくヨウ成分をチャージして最高の気分だったのに…… 適当に笑って誤魔化してやり過ごすわ!


「それは良かった…… パープルサウンドの皆さんの教育係、引き受けてくれてありがとう、大変かもしれないけどよろしく頼むよ」


「はい、頑張ります」


 ……あたしは店長に頼まれたから一ヶ月間手伝いに行くだけで、あんたに頼まれたから行くんじゃないの! ……ふん、営業部の部長ってだけなのに偉そうね! ヴァーミリオンとはそんな関わりないはずよね? ……全部自分の手柄だと思っているのかしら、この悪イケメンは。


「おぉ、そうだ! このあと二次会をするんだけど真野さんもどうだい? パープルサウンドの子も来るみたいだし、私の部下と…… あぁ、あっちに座っている店舗開発部の大倉くんっていう若い子も来るんだよ」


 ……行きたくない。

 けど、ヨウがいるから少し顔を出してから二人で帰れるかも!


 ふふふっ! そして二人でくっつきながら帰って…… 家で二人きりの三次会よ!

 我ながらいい計画ね!


「じゃあ…… 参加させて頂きます」


「おお! それなら後で店の場所を部下に案内させるから声をかけるよ、すぐ近くなんだけど分かりづらいかもしれないからね…… ところで全然飲んでないじゃないか、お酒は苦手なのかい?」


「いえ、そういうわけではないですけど……」


「なるほど…… じゃあカクテルなんかはどうだい? 甘くてアルコールが強くないものがあるから、それは飲みやすくておすすめだよ」


 あまり飲んだらヨウと楽しめなくなっちゃうからソフトドリンクでいいんだけど…… 


「じゃあ、それを注文してみますね」


 ちょっとお酒を飲んで、嫌な気分を紛らわそう。


「君、私の分と真野さんの分を注文してくれないか?」


「はい」


 





 …………

 …………





「真野さん、部長は二次会に参加せずに帰る人に挨拶してから来るみたいなんで、先に二次会の場所まで案内しますよ」


 うぅ…… あたし、やっぱりお酒が弱いのかなぁ…… 頭がふわふわするぅ……


 あれ? ヨウも一緒なんでしょ? 見当たらないなぁ…… あぁん、ヨウのお腹に顔をスリスリしたぁい! 


「さあ、行きましょうか……」


 さっさと帰って、スリスリするんだからぁ…… んふふっ。


 そして『ずいぶん人が少ないなぁ』と思いつつも、鎌瀬の部下だという二人に連れられて、あたしは二次会をするという場所まで歩いていった。

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