おかえりの……

「ただいま」


「あっ、おかえりー」


 仕事から帰るとユアがいる。

 三日間だけ泊めてくれという話はどこへいったのか……


「もうご飯出来てるからいつでも食べられるわよ」


 しかもエプロン姿で出迎えてくれて、ご飯まで作ってある…… どういうこと?


「もう! ボーッとしてないで、手洗いうがい!」


 そしてオカンのようなことも言ってくる…… 


 先週の木曜日に泊まりに来て、日曜日にデート、月曜日の朝にお互い出勤するために別れたはずだが帰って来たら居て、そして今日は木曜日…… 約一週間泊まりに来ているんだが。


 そして二週間前の土曜日に高校以来久しぶりに再会して土日は泊まっていったから…… えっ? この約二週間、ほぼ一緒に生活しているといっても過言ではない!


 ……宿泊代のつもりなのか日用品や食材をユアが自腹で買ってきてくれて、俺も食べたり日用品を使っているからあまり文句は言えないんだけど。


 どうしてこうなった……


「お疲れ様、お腹空いたでしょ? ほら、早くご飯にしましょ!」


 笑顔でテーブルにご飯を並べるユア…… 付き合ってるを通り越して、まるで夫婦…… 


「なーに? あたしの顔を見つめて…… あっ、わかった! はい、おかえりの…… ぎゅうーっ! んふふっ」


 ここ最近、出掛ける時と出迎えの時に必ずといっていいほどハグをされる。


「……ただいま、ユア」


「んふー! ふへへっ……」


 最初は恥ずかしかったけど、今はなんというか…… なぜか安心するというか……


 ユアの柔らかな身体、香り、そして甘えるように抱き着いてくる仕草が…… 


 そしてついに自分の気持ちに気付いてしまった…… いつの間にかユアが好きになっていた事に。


 きっとユアも俺のことを…… 最初は『からかわれているだけだから勘違いするな』と自分に言い聞かせていたけど、鈍い俺でもさすがに分かる。


「すんすん……」


 からかうためにここまではしないだろう。

 じゃあ何故ここまでするか……


「すんすん…… すんすん…… はぁん…… 濃厚……」


 きっとユアも俺のことを良く思ってくれている…… って!!


「……ふふっ、こっちはまたあとで」


「ど、どこ触ってるの!!」


「えー? ヨウのおち……」


「わーっ!! 色々と怒られるから言ったらダメ! じゃなくて、やめなさい!」


「ふふっ、でも昨日は怒らなかったのに……」


  それは…… そうだけど、しょ、食事前だから!


 日曜日から毎日続けて『お礼』をされている。

 もちろん最後まではしてないが…… うん…… 


『ヨウ! んんっ……』


 うん…… そしてついに『お礼のお礼』も…… 


 す、少し触っただけだよ? どことは言わないけど…… 


「じゃあご飯食べてから…… ねっ?」


「う、うん……」


 情けないが抗えないんだよ…… 欲望ってやつには。


 より大胆になる『お礼』、対抗するように『お礼のお礼』…… これはもう時間の問題かも。

 でもその前にちゃんとケジメをつけるために俺から告白しないと。


 テーブルに並べられた、ケチャップで大きなハートを書いたオムライス、横にはサラダ、これもマヨネーズが器用にハートマークになっているものを眺めながら、俺は近いうちにユアに告白しようと決意した。


「んふっ! じゃあ…… いただきまーす」


 いつものように隣にピッタリくっついて食事を始めたユアを見て、俺も


「いただきます」


 一生懸命作ってくれたことに感謝しながらスオムライスを一口食べた。


 

 ◇



「はぁぁ…… 明日はパープルサウンドの慰労会かぁ……」


 来月オープン予定のヴァーミリオンの姉妹店、パープルサウンド。


 子供服から中高年くらいの若い人向けの商品を多く取り扱うらしく、店内の装飾なども可愛らしい感じに仕上がってたな。


 予算オーバーすることなく工事も終わりひと安心していたのだが、この慰労会だけは憂鬱だった。


「あたしもヨウがいなかったら行かなかったわ…… 駅前の居酒屋で集合だったわよね? ふふっ、一緒に行こうね!」


「うん…… でも一応仕事の延長だと思ってるから店でベタベタするのは禁止ね?」


「……はーい、ふふっ、いいもーん! その分今ベタベタするんだから!」


「ちょっ! お湯が溢れるから暴れないで!」


「暴れてないわよ! 失礼ね…… 身体の向きを変えただけなのに…… あら? んふふっ…… 今日も元気なんだから!」


 ……何故か一緒に風呂にも入っている。

 ユア曰く『一回入ったんだから、二回も三回も一緒よ!』と、謎な理由で毎回風呂場に押し掛けてくるんだ。


 さすがに二人で狭い風呂場でシャワーだけだと身動きも取りづらいからと、今日は湯船にお湯を溜めたのだが……

 狭い湯船に一緒に入ったら溜めた意味がないような気がする。


「んふふー! ……はぁ、気持ち良いー!」


 でも、気持ち良さそうに風呂に入っているユアにそんな事は言えなかった。


 俺は身体が大きいから、ユアは胡座をかいた俺の太ももに座る形に…… ということはプリンがプリン! となってプリンプリン。

 そして向かい合うように座り直すもんだから、更にムニュリプリンだ。


 何を言ってるか分からないって? 要約すると、刺激的だということだ。 


「んっ、ふっ…… ヨウ……」


 それから密着するように抱き着いてくるもんだから心臓バクバクだよ!


「あっ…… ヨウにぎゅってしてもらうと、凄く癒されるわ……」


 それでもユアが抱き着いてきたら、抱き締め返すくらい出来るようになった俺を褒めて欲しい! ……ユアのおかげで色々成長出来ていると自分でも思っているんだ。


 そして、あと一歩踏み出す勇気があれば…… 今の関係もより進むような気がする。


「…………」




 そして、しばらく無言で抱き合っていた俺達は少しのぼせ気味になってしまい、急いで身体を洗い風呂場から出ることになってしまった。








 そして夜、デートで買い忘れていて、昨日二人で改めて買いにいった、あの間接照明だけが点いた寝室……


「ヨウ? じゃあ、明日の分もまとめて…… 『お礼』するね? ふふふっ……」

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