お願ーい! ギュッとして?

「あー美味しかったぁー…… んふふっ」


「……大丈夫?」


「何がー?」


 少し酔っ払っているのか上機嫌で横から抱き着いてくるユア。

 レストランのある建物から出た瞬間、周りの目も気にせずにベッタリくっつきっぱなしだ。


「さあ、早くヨウの家に帰りましょ?」


「うん…… じゃあ抱き着くのをやめて? 歩けないから」


「えぇー!? ……じゃあギュッとしてくれたら離れる!」


 そう言いながらユアは俺の正面に来て抱き締めてくる。


「ユア、ちょっと……」


 夜も遅くなってきたし、飲食店や飲み屋などが沢山ある場所からは少し離れているから人は少ないけど、それでも通行人はいるし、チラチラと俺達の方を見られているから……

 

「ヨウ…… お願ーい! ギュッとして?」


 ……ああ、もう! 本当にユアはズルいなぁ。


 ユアに満足してもらえるよう、少し力を入れて強めに抱き締める。


 ユアの柔らかな身体、ふわりと香るお気に入りと言っていたシャンプーの香りと……


「ふふっ、ヨウの匂い……」


 フローラルな俺の家にある柔軟剤の香り。

 

 俺の家にいつの間にか置かれていたユアの服が、いつの間にか同じ香りがするようになっていた。


 でも…… 上手く言えないが『良いな』と思ってしまった。


「…………すんすん、んふふっ」


「すんすんしないでよ……」


「だって…… 同じ匂いがして嬉しいんだもん」


 嬉しい…… ユアそう思っているの?

 


 しばらく道端で抱き合っていた俺達。

 人に見られようが気にしないで俺の胸元の匂いを嗅ぐユアに少し困ったが


「ふふっ、満足満足! ……じゃあ今度こそ帰りましょ!」


「う、うん……」


 満足したのかユアは抱き着くのやめて、そしてまた来た時と同じように…… 腕を組んで帰宅した。


 


 ◇



 最初は歓楽街の方へと歩いて戻ってタクシーを拾って帰ろうかと思ったのだが、ユアはそのまま歩いて帰りたかったらしく、少しゆっくりとしたペースだが徒歩で帰宅していた。


 俺の家へはここからだと徒歩三十分くらい、歓楽街へ戻ると少し遠回りだし、上手くタクシーを拾えなかったら逆に時間がかかっていたかもしれない。


 ……じゃあレストランがある建物からタクシーに乗れば良かったんじゃないか、って思うだろ?

 俺もそう思ったけど、ユアが許してくれなかったんだ。


「ふふっ、涼しくて気持ち良いわぁ」


 こうして二人きりで歩くのも『デート』らしい。


「はぁぁっ、明日は仕事かぁ…… ヨウは?」


「俺も仕事だよ、帰ったらすぐ風呂に入っちゃわないと寝るのが遅くなりそう」


「そうねぇ…… あっ! 時間を短縮するために一緒に入った方が良いんじゃない?」


「えぇっ!? そ、それはマズいよ」


 色々と…… うん、確実にオークキングビッツに進化するし。


「大丈夫よ、お風呂くらい…… もう何度も見たでしょ?」


「いや…… 見ちゃったけどさ、それとこれとは別というか、やっぱりダメだよ」


「ぶぅー! ヨウがそう言うなら諦めるわ……」


 おっ、すんなり諦めてくれた! 良かった。


「あっ! もう閉店してるけど、ここが千和の家よ」


「ん? 『吉備団子店』…… 今人気の店じゃなかった?」


 名前は忘れちゃったけど、たしか元グラビアアイドルの人がこの店のCMに出てたはず。

 特に若い女性に人気の店とか…… こんな近くにあるなら今度買ってみようかな。


「千和から聞いた話だと、二番目の奥さんが雑誌とかCMで積極的にお店の宣伝をしているらしいわよ」


 に、二番目!? さっき四番目とも言ってたよな…… ひぇぇ…… 旦那さん、お団子じゃなくてハーレムでも作ってるのか?


「開店前から並んでいる時もあるらしいから、買うなら早めに行かないとね!」


「そ、そうだね……」


 高校の同級生の私生活も気になるが、そんな人気の店ならお団子の味も気になる…… うん、絶対買いに行こう。


 そして、少しゆっくりとしたペースだが二十分ほど歩き、二人で俺の家に帰宅した。



「はぁぁっ、ただいまー!」


『ただいま』って…… 家の鍵もユアが渡してあったスペアキーで開けて、当然のように下駄箱に自分の靴を片付けてるし…… あっ! よく見たらユアの靴が他にも収納されてる! いつの間に……


「今日は沢山歩いたわねー! ふぅー!」


 そう言いながらすぐに服を脱ぎ、これまた当然のように洗濯カゴに入れていた。

 ……もう自分の家のように生活してるな。


 図々しいと普通なら思うかもしれないが…… 本当に、『ユアならいいか』と何故か受け入れてしまっている自分がいる。


 むしろ…… 『ユアだからいい』とまで……

 えっ? ……いやいや! 絆され過ぎだろ、俺!


 ……勘違いしちゃダメだよな。

 きっとユアは誰にでも……



『ふふふっ…… ヨウ……』



 誰にでも…… 


 もしも俺にだけだったら?


 …………


「ヨウー? あたしの着替えをそんな熱いまなざしで見つめてどうしたの? ふふふっ」


「わ、わぁぁっ!! い、いつの間に! し、下着は!?」


「何よー! いつも部屋では着けてないでしょ? 分かってるくせにー、ふふっ」


「だ、だからって目の前で脱がなくても……」


「そんな事言って…… ちゃんとじっくり見てるじゃない、今だって…… エッチ! んふっ」


 そりゃ見ちゃうよ…… 男だもん。


 慌てて目を逸らしたが、形の良い巨大まんじゅうに褐色プリンはバッチリ見てしまい、ついでに…… 髪と違って金色じゃなくて黒なんだね……


「もう! 好きなだけ見ていいからヨウもさっさと着替えちゃいなさい! ……あっ、そのままお風呂入っちゃったら?」


「はぇっ!? あっ、そ、そうするかな…… はははっ」


 見たのがバレちゃったよ…… 隠しはしてなかったけど。


 大胆というか、羞恥心がないのか平気で俺の前で着替えちゃうんだから、まったく…… なんて思いつつも、ユアの着替えを見た俺は…… まあ、そうなっちゃうよね。


 服を脱ぎ、風呂場に入り蛇口をひねりシャワーを出す。

 一日歩き回って汗をかいた身体を綺麗に…… する前に、ユアにバレないうちにササッとしちゃうかな? この状態を放置したまま寝るのは厳しい。

 きっと寝る時にはユアがそばにいるから…… うん、ササッと……


「ヨウー? 入るわよー!」


「えっ!? ちょっ! ユ、ユア!?」


 オークビッツの調理をしようとしていたら…… ユアが風呂場に入ってきた!!


 いや、服! ……風呂だから着ないか、じゃなくて! なんで入ってきちゃうの!?


「背中流してあげる…… って、あっ……」


「あ、あの、こ、これは……」


「…………」


「ユ…… ユア?」


「んふっ…… 仕方ないなぁ……」


 そして…… 


 茹でたてのビッツを…… ユアは美味しそうに頬張った。

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