腕を引っ張らないで!

 カフェで少し休憩した俺達は、ユアの行きたがっていたポゥさんのグッズが売っているという店へと向かっている。


 結局あの後、三度くらい『あーん』をされた俺だったが、周りの目が気になってあまり休憩した気分にはならなかった。


 俺達の方を見てヒソヒソ話す客や迷惑そうに見つめてくる客、そして何故か俺達に対抗して食べさせ合っている家族など、落ち着いた雰囲気のカフェの空気を少し変にしてしまった。 


 ユアはそんな事を気にしてはいない様子で、相変わらずベタベタと俺にくっついていたし、俺も諦めていたから注意もしなかったのが悪かったかな? ……気にし過ぎかもしれないけど。


 カフェを出る時に店員さんが苦笑いしていたのを思い出しながら腕を組んで歩いていると


「ふふっ、ポゥさんショップ、楽しみー!」


「あっ、あの建物かな?」


「そうよ! 久しぶりに来たわ…… 早く行こ!」


「ちょ、ちょっと! 腕を引っ張らないで! イタタッ……」


 ポゥさんのショップを見つけたユアは、嬉しそうに俺の腕を引っ張って小走りし始めた…… ユア痛いよ、やっぱり力が強いな! 


「待っててね、ポゥさん!」



 ◇



「パパ、あーん!」


「あーん…… んっ、美味しいよ」


「うふふっ、ママもパパにあーんしちゃおっかなぁー?」


「ダメ! りりかがあーんするの!」


「えぇーっ? ママだってしたいのにぃ」


「ほら、二人ともケンカしない」


「「はーい」」



 ◇



「あぁん! ポゥさんがいっぱい……」


 ショップに入った瞬間、ユアはうっとりとした顔をしながら店内を見渡していた。


 主にポゥさんのグッズばかりで、あとは脇役のキャラのグッズもちらほらと売っている。


 なぜ脇役のキャラかと分かるかって? ……ユアが色々教えてくれたからだ。


「…………」


 そんなユアは真剣な顔をしながらじっくりと商品を見ている。


「ねぇねぇ! このバスタオル可愛くない?」


「うん……」


 ユアが見せてきたのはポゥさんの全身が大きくプリントされたピンクのバスタオルで、ブタのしっぽのような飾りの紐が縫い付けてあって邪魔そうだなと思ったけど、ユアが興奮気味に俺に見せてくるから口には出せなかった。


「ふふっ、じゃあこれを二枚…… あっ、コップ! あぁん、これも可愛いぃっ!」


 バスタオルを買い物カゴに入れたユアが次に見つけたのはコップで、ポゥさんの耳や鼻、しっぽが立体的に装飾されたプラスチック製のコップだった。


「ヨウ、これも買っていい?」


「ユアが欲しいなら……」


 んっ? バスタオルも二枚、コップも二つ手に取っているけど、お姉さんの分も買うのかな? でも、俺に聞くということは……


「やった! ふふっ、ヨウとおそろいー♪ んふふっ」


「俺の分もなの!?」


「今更何を言ってるの? 当たり前じゃない、ヨウの家で使う用に買うんだから!」


「えぇっ!?」


 ユアの私物も色々置かれて、更にお揃いの物を買って、これじゃあまるで同棲しているみたいじゃ……


「買ったらダメなの? ねぇ、いいでしょ? ヨウ、お願ーい!」


 ムニュリとお願いのコンボ…… いつものパターン……


「い、いいんじゃないかな……」


「ありがと! ふふふっ」


 これをされるとやっぱり断れないんだよ……



 そして色々と店を見て回った後、レジで会計を済ませて店を出た。


「ヨウ…… 買ってくれたのは嬉しいけど本当に良かったの?」


「うん、ご飯作ってくれたり掃除とかもしてくれたお礼だから」


「……ありがとう、大切に使うから!」


 最近は色々とお世話になっているし、それに…… うん、これでもお礼が足りないくらいだ、昨日だってあんな……


 ホットドッグを美味しそうに頬張るユアを思い出しちゃったよ…… あれは凄かったな。


「ヨウ?」


「あっ、あぁ、何でもない、それじゃあ行こうか」


「うん!」


 そして、丁度いい時間になってきたので俺達は予約したレストランへと向かって歩き出した。



 ◇



「千和さん、どうしましたの?」


「今日、ずっと好きだった彼とデートしてる友達からメッセージが送られてきたんだけど、上手くいってるみたいで良かったなぁって、えへへっ」


「ああ、あの夜景が綺麗に見えるレストランを予約した…… あの娘ですわね」


「葵さん、無理言って予約取ってもらってありがとね?」


「いいんですのよ、丁度わたくしの親戚があのレストランで食事をしたいと言っていたので、ついでに予約しましたから」


「ああ、最近見つかったっていう、従妹いとこと叔母さんだっけ?」


「はい、叔母さんの息子さんの誕生日会をするみたいですわ、お母様に頼まれましたの」


「そっかぁ…… あれ? きぃちゃん?」


「ちぃ! あお! 子供達が泣いてるぞ、きっとおっぱいじゃないか?」


「分かった、今行くね」


「まぁ! 紫音しおんもですの?」


「えへへっ、桃和とわ、ちょっと待っててねー? 今おっぱいあげるから……」



 ◇



「うふふっ! そーくん、楽しみねー」


「はい…… うわぁっ、高級そうな店ですね」


「店の中は凄くオシャレだけど、値段的にはそうでもないらしいわよ?」


「さぁ、入りましょ? うふふっ」




 ◇



「浦野社長、お疲れ様です」


「おお、鎌瀬くん、ご苦労さん」


「それでは早速、来週の件ですが……」


「ああ、鎌瀬くんのおかげでいつも先方には喜んでもらってるよ、ただ…… 次は簡単に潰れないものにして欲しいな、取引先の重役達が多少無茶をしても……」


「はい…… 次はしばらく遊べそうな商品だと」


「はははっ、それは良かった、約束の報酬は期待していてくれ」


「ありがとうございます」


「それじゃあ…… とりあえず乾杯しようか」


「はい……」

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