ポゥさん!
映画が始まるとお互いスクリーンに集中する。
ただし手はしっかりと握られたままだ。
時々大きな音に驚いたユアが手を強く握ってきたり、面白いシーンでは楽しそうに手をニギニギとしたりして、手からも感情が伝わってくる。
そしてユアお待ちかねのポゥさんが登場すると
「……ポゥさん! ヨウ、ポゥさんよ!」
俺の耳元まで顔を近付け、興奮気味に小声で話しかけてきた。
敵に追い詰められ山へと逃げ込んだ主人公のマリエ、ルイ姉妹、そして道に迷い歩き続けていると、ポツンと一軒だけある山小屋を発見して、道を訪ねるためにその山小屋のドアをノックすると……
『こんな山奥に来てどうしたんだい、お嬢ちゃん達』
やたらと渋い声の二足歩行のブタが一匹、ドアを開けて小屋の中から現れた……
……えっ? ポゥさんってもっと可愛らしいキャラクターじゃないの!? 想像していた声とかなり違う!
「はぁん! ポゥさん、可愛い……」
これが可愛いのか? 見た目は凄く可愛らしいけど声に違和感があるよ……
『私たち、拐われた母を救出に来たんですけど、敵に追い詰められてこの山に迷い込んでしまって……』
『ふぅん…… お嬢ちゃん、もしかしてその敵っていうのはビビンバファミリーか?』
『そ、そうです!! 知ってるんですか!?』
『ああ、俺様もアイツらに用があってな…… ふぅ……』
ポ、ポゥさんって自分のこと『俺様』とか言っちゃうタイプのキャラなのね。
そして、何だかよく分からないけど姉妹とポゥさんが共闘することになって……
『す、凄い!! 山小屋がロボットに!!』
……急展開過ぎない? さっきまでハンマーとかノコギリとかノミで戦ってたのに…… ロボットなの!? しかもポゥさんの居た山小屋がロボットに変形するなんて……
「頑張って! ポゥさん!」
……ユアはめちゃくちゃ前のめりで観てるし。
……ただ、ここからが凄かった。
山小屋から変形したロボットが無双し、姉妹の母が囚われている敵のアジトまで辿り着いたはいいが、敵のアジトにあった巨大ビーム砲が山小屋ロボットに向けて発射された。
直前にポゥさんは姉妹を逃がすためにロボットから脱出させていたのだが、ビームが山小屋ロボットに直撃し、ロボットは大破……
「いやぁぁーっ! ヨウ! ポゥさんが! ポゥさんがぁぁっ!!」
俺の手も破壊されるんじゃないかってくらいユアに握り潰されそうになって……
『よ、よくもポゥさんを…… よくも……』
『私たちは怒ったわーーー!!』
ポゥさんを失った怒りで姉妹は覚醒し、更にポゥさんに託されていた幻のタケノコを食したことにより、姉妹は超人的な力を手に入れて……
敵のボスとの熱いバトル。
囚われていた母親まで覚醒しての親子での共闘…… 最後は……
『お嬢ちゃん達! これを使え!』
生きていたポゥさんが姉妹に手渡したカラフルなベルト、それを装着した姉妹が更に変身して空高くジャンプした。
『これで終わりよ!!』
そして空から急降下して、光を纏いながら超高速の飛び蹴り、最後は飛び蹴りによってボスの身体を貫いて勝利した……
いや、最後に一気に詰め込み過ぎて情報量多すぎ!
「うぅっ! ポゥさん、良かったぁ……」
ユアはポゥさんが生きていたことに大号泣……
頭がこんがらがってしまいそうになったが…… 何だ、この不思議な満足感は……
そして映画が終わり、照明が明るくなった。
「…………」
「…………」
「面白かったわ……」
「うん……」
確かに賛否両論ありそうだが、俺的には面白かった。
ユアも小さく拍手していたし、ユア的にも面白かったんだと思う。
売店にあった映画館限定ポゥさんクリアファイルを二人分買い、映画館を出て少し休憩するために近くのカフェに入ることにした俺達。
「ヨウ、凄かったわね! あたし興奮しちゃった! ふふふっ」
「俺も…… あんなに面白いと思わなかったよ」
「そうね! でも、やっぱり一番良かったのはポゥさんの可愛さね! 原作とは違うけど、映画版の3Dアニメーションでもポゥさんはやっぱり可愛かったわぁ…… ふふっ」
可愛い…… のかは俺には分からなかったが、良いキャラしてたよポゥさん。
もしかしてユアの持っているグッズはデフォルメされたポゥさんなのかな? それともこの映画が特別? 可愛いというよりはどっちかというとカッコいい寄りのキャラだったような印象が…… ブタだけど。
「お姉ちゃんにもおすすめしとこっ、と……」
ああ、お姉さんも好きなんだっけ? 大丈夫かなぁ? ……ユアのお姉さんだから大丈夫か。
俺と腕を組みながら器用にスマホを操作しお姉さんにメッセージを送るユア。
当たり前のようにカフェでも隣に座って腕を組んでくるし…… 何を言っても無駄だからもうさすがに諦めたけどね。
そうしている間に注文した物が席に運ばれてきて、俺達は一息ついた。
「はぁ…… つい力が入っちゃったわ、手、大丈夫?」
「うん…… ポゥさんが撃たれた時はさすがに痛かったけどね」
「だってポゥさんが死んじゃったと思って…… ごめんね?」
「あははっ、大丈夫だから心配しないで」
女性にしては握力が強いんじゃないか? とは思ったけど、怪我をするほどではなかったからな……
そして俺が頼んだアイスコーヒーを一口…… すると
「お詫びにあたしのショートケーキを一口あげるから……」
そう言ってフォークでショートケーキを一口分すくい、俺の顔の前に近付けてきた。
……えっ? た、食べろってこと? 『あーん』ってやつじゃない? これ。
「お願ーい、これで許して?」
怒ってはいないんだけど…… 仕方ない。
「あむっ…… うん! このショートケーキ美味しいね」
特に生クリームの甘みとスポンジの甘みがちょうど良くて、イチゴの酸味が引き立っている…… ここのカフェのケーキ、美味しいな、今度買って帰ろう。
「んふふっ、良かったぁ…… あーむっ、ふふっ」
コラッ! フォークをペロペロしないの! まったく……
悲しい顔をしてたかと思えばイタズラっぽく笑い出したユアを見て、俺も自然と笑顔になっていた。
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