ヨウのために選んだ服なんだから

「天気が良くて良かったぁー、ふふふっ」


「少し暑いくらいだけど歩いていて気持ち良いね」


「そうね!」


 今日は朝からユアとお出かけ…… いてっ! いや、デートだ。


「ふふっ!」


 俺の考えていることに気付いたのか脇腹を摘まんできたが、機嫌が良さそうに笑顔で腕を組んできたユアと二人で並んで歩いている。


 周りから見たら俺達はカップルに見えるのかな? あまり釣り合ってるようには思われないだろうけど。


 ちなみにユアは朝起きた時からこの調子で、ニコニコと笑いながら準備をしていた。


 白のVネックのカーディガンにピンクの小さめなショルダーバッグ、あちこち破れたように穴の空いたデニムパンツと、いつもに比べたら派手さはなく露出も少ないが、バッグの紐でスラッシュした胸元やデニムの穴から見える褐色の健康的な肌が何とも言えない色気を醸し出している。


「そんなに見つめてー、ヨウのエッチ! んふふっ」


「ご、ごめん」


「もう! 冗談だからすぐに謝らないの! ……好きなだけ見ていいのよ? ヨウのために選んだ服なんだから」


「そう言われると余計に見づらいよ……」


「なんでよー! ……ヨウったら恥ずかしがり屋さんなんだから!」


 そう言いながら俺の腕に更にギュッとしがみつく。


 いつも通りというかなんというか…… ムニュリと当たる感触に反応しないように歩くだけで精一杯なんだ、見てしまったら反応してしまうよ。


「ふふっ…… あっ! 可愛いー! この店入ってもいい?」


 んっ? ああ、おしゃれで可愛らしいインテリア雑貨がたくさんあるな。


「うん、俺も見たいから入ろう」


 俺の部屋はシンプルというか物があまりないから、こういうちょっとしたおしゃれな小物を置いたら少しは良く見えるかな? ……といっても遊びに来るのはユアくらいなんだが。


 高校時代に仲良かった友達の大半は就職で上京しちゃったし、良くしてくれた先輩は…… 今、彼女とその母親と同棲していて大変みたいだしな。


「見て見て! ……可愛い」


 ユアが指を差して見ているのは…… 間接照明として使う筒状のスタンドライト。

 複雑な網目模様に一部小さな丸い穴が開いたの筒になっていて、電気を点けると……


「わぁ…… ねぇヨウ、これ良くない? ベッドの脇に置いて二人で…… きっと素敵よ?」


 暗い部屋で見てみないと分からないが、網目模様から漏れる光が何となく星と月に見えるようになっているのかな?


 寝室に置いてあったらおしゃれだろうが…… んっ?


「おしゃれだけど…… 置くのはユアの寝室だよね?」


「何言ってるの? ヨウの部屋の話に決まってるじゃない!」


 決まってるんだ……


「ふふっ、荷物になっちゃうし、また後でいいかなぁ…… じゃあ次に行きましょ?」


 買うんだ…… 

 まあ値段もお手頃だし、こういう小物が部屋に少しでもあった方が気分的にも楽しくなるし…… それにユアが欲しいみたいだからあとで買うか。


「あっ! この靴良いわね……」


「この服、ヨウに似合うんじゃない?」


 その後もゆっくり二人でウインドウショッピング…… これ、本当にデートみたいだな。


 女の子と二人きりで遊びに行った経験もないし正直どうしようかと思っていたが、ユアがリードしてくれて……


「あっ、セクシーなランジェリーも売ってるわよ? ヨウはどんなのが好み?」


 ……連れ回されているだけかもしれないが、なんだかんだ楽しく過ごせている。


「ふふふっ…… 楽しいね」


「うん、俺も楽しいよ ……じゃあ次は映画館だね」


「うん! んふふっ!」


 今日どこに行くかを二人で色々話し合った結果、ユアが観たい映画があるらしく、とりあえず昼前は映画を観ようと決めていたので、腕を組んだまま離れないユアと一緒に次は映画館へと向かった。



「ガラガラね…… 人気ないのかなぁ?」


「そんな事はないと思うけど……」


 ここより二駅くらい離れた、もっと栄えた街に行けば最新設備もある大きな映画館があるのだが、今日来たのは少し古く小さな映画館だ。


「でもここでしか上映してないから仕方ないわよね」


 ユアが観たいと言った映画はその大きな映画館では上映していなくて、ここに来るしかなかったんだ。


「でも、二人きりで大きなスクリーンで観られるのは良かったかも! ふふふっ」


 いや、前にちらほらとお客さんがいるから…… 三、四組くらい。

 

「楽しみー! ……『超大工姉妹ちょうだいくシスターズ』、ふふっ!」


『超大工姉妹』とは俺達が今日観る映画のタイトルだ。


 あらすじとしては大工として働く姉妹が、悪者に誘拐されてしまった母親を助け出すために大工道具を駆使して戦うバトル物の映画になっている。


 ただ、途中に魔法のタケノコを食べて変身したり、ロボットに乗って戦ったりとハチャメチャで賛否両論ある問題作としても話題になっていたのだが、何故そんな映画をユアが観たいと言ったのかは見当がついている。


「ポゥさん早く出てこないかなぁー? んふふっ!」


 ユアのお気に入りキャラクターの『ブタのポゥさん』が友情出演という形で出てくるらしいから、それを観たかったんだと思う。


 ……エプロンもポゥさんのやつだし、バッグにもポゥさんのキーホルダーを付けてるくらいだから相当好きなんだろうな。


「どうしたの? あたしの太ももばっか見て…… 触りたいの? 我慢できないならいいわよ?」


「ち、違うから! キーホルダーを見てただけ!」


「またまたぁ! 朝からデニムの穴ばっかり見てたじゃない、ふふふっ」


「そ、それは、見てたけどさ…… 今は違うから! あっ、ほら、照明が暗くなってきたよ?」


「んふっ、エッチなんだから…… 本当だ! ふふっ、始まるわね」


 そして、暗くなったと同時にユアは俺の手を、指を絡ませるようにギュッと握ってきた。


「ユ、ユア?」


「こうしてた方が一緒に観ている感じがしていいでしょ?」


 ……映画が始まってしまったから何も言えなくなっちゃったじゃないか。


 まあ、いいか……


 スクリーンの光でうっすら見えるユアの顔が、とても嬉しそうに見えたので、何も抵抗せずに俺はユアの手を握りながら映画を観ることにした。

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