ヨウに見られて上書き完了

 ◇


「意外と早く片付いてね」


 そっかぁ、そんなにあたしと早く会いたくて終わらせてくれたんだ。


 ヨウの小さな嘘に気付き、あたしは嬉しくなった。


 そしてふわふわなヨウに寄りかかるように近付き…… 身体が少し触れ合う形で食事を続けた。


 カレーのスパイスのせいか、ヨウと触れ合っているからか、しっとりと汗が出てくる。


 さすがに下は穿いたけど、上はヨウの大きなTシャツ一枚…… 汗をかいたせいで少しシャツが身体にぴったりとくっついているような気がする。


 これじゃあ形が分かっちゃうかも…… けど、ふふふっ、見てる見てる! ヨウに見られて上書き完了!


 直接見るのもヨウは好きみたいだけど、こういうのも男の人がドキリとするって千和が教えてくれたんだよね、ふふっ。


 それにしても…… いっぱい食べてくれて嬉しいなぁ。

 ママに昔からお料理を教わっていて良かったぁ。

 今日はカレーにしたけど、また料理を作っていつかヨウの胃袋を掴まないと!

 ……ヨウの味の好みは調査済みだし大丈夫。


 ……さて、お礼はどうしようかな? またマウスウォッシュ? それともシュシュっと? ……サンドイッチなんかどうかな?


 これは全部千和から教えてもらったんだけど…… 実戦経験が豊富だから詳しいのかな?

 千和って見た目は身長が低くて子犬みたいで可愛いのよね…… 一部はあたしよりも大きいけど。


 でもまさかあの大人しくて何も知らなさそうな千和が…… 裏では狂犬でワンワンいわせてたなんてビックリした。


 千和は絶対離れたくないという気持ちがあって、彼氏…… いや、今は旦那さんか、に自分のすべてを使ってメロメロにして幸せを手に入れたみたいだけど…… あたしには恥ずかしくて無理。

 せめてアレをするならしっかりと約束を交わしてからじゃないとダメだと思ってるし。

 

 ただ、それ以外であればメロメロ作戦を成功させるためになら平気、ヨウ限定だけどね。

 もう、ずっと見続けるだけの生活は終わりにするって決めたでしょ、唯愛。


「ごちそうさま! 美味しかったよ」


 笑顔でこちらを見てくれる、大好きな人に振り向いてもらうため、あたしは今日も頑張るんだ! ふふふっ



 ◇



「あたしもごちそうさま! ふふふっ、喜んでくれて良かった」


 そう言ってユアは食べ終わった食器を下げるために立ち上がろうとした。


「俺が洗うから、ユアは座ってて」


 食事を作ってくれたんだ、洗い物くらいはさせて欲しい。


「えっ? ……じゃあお言葉に甘えて、ふふっ」


 そしてシンクに運んだ食器を洗っているのだが……


「……ユア?」


「んふっ、なーに?」


 何故、洗い物をしている俺の背中に抱き着いてるの? ムニュリさんがムニュリと背中に当たっている。


「後ろから見てるだけだから気にしないで続けて?」


 抱き着くだけならまだしも、顔を背中に当ててフガフガしてるよね? 若干暖かい空気を背中の一部に感じるし、気になって仕方がない。


「はぁ…… すぅー…… んふぅー……」


 早く洗ってしまわないとずっと匂いを嗅がれる! くすぐったいからやめて欲しいんだけど。


 そして洗い物が終わってソファーに座っていても、ユアは俺にくっついている。


「ねぇ……」


「んー?」


 あくまでも俺達は友達になったばかり、こういうのは良くないと思うんだが。

 そう言葉にしようと口に出そうになったが、よくよく考えると……

 

 一緒に寝て、更にはあんなことを……

 その事を思い出すと、これくらいは普通で、まだマシな方だと感じてしまう。


 ユアと親しくなって感覚がおかしくなってしまったのか? そう思いつつも


「ふふっ、お腹いっぱいで眠たくなっちゃうね」


 俺の方に思いきり身体を預けるように寄りかかっている、隣に座るユアに何も言えずに好きなようにさせていた。


 

 そして前に泊まりにきた時のように交代で風呂に入った俺達は、明日も仕事ということで早めに就寝することにした。


 ……もちろん同じベッドで。

 一応俺はソファーで寝ると提案したんだよ? ……すぐに却下されたけどね。


「おやすみ…… ヨウ」


「うん、おやすみ」


 最初の内は少し離れていたが徐々に近付き、最後には抱き着いてくるユア。


 ベッドの中で悶々としながらも、ユアの良い香りや柔らかさ、温かさで俺もいつの間にかグッスリと眠ってしまっていた。



 ◇



「くぅ…… すぅ…… ふごっ……」


 ぷっ! ……ふふっ、可愛い。

 少し目を開け、ヨウの寝顔を見つめる。


 大きな身体に似合わない可愛い顔。

 整っている…… とは思われないかもしれないが、あたしは好き。

 好き…… 大好き…… あの時から。


 でもあたしからは言えない。

 ヨウに言ってもらえるその日までは。


 だって、そうじゃないとメロメロとは言えないでしょ? あたしが言ったから仕方なくなんて絶対にイヤ!


 それでも…… 順調に仲良くなっている。

 ふふっ『ユア』かぁ…… 

 ヨウにあたしの目を見てそう呼ばれるとそれだけで嬉しい。

 名前を呼んでもらえるってこんなに嬉しいんだ。


 長かった…… 恥ずかしくて、勇気が出なくて見続けた毎日から、ようやくここまできた。


 あとはゴールに向けて突き進むだけ!


 でも焦らずゆっくりと…… 二人の関係を深めていきたいな。


「ヨウ……」


 寝ているヨウの頬にチョンとキスをして、ふわふわに包まれながらあたしも目を閉じた。



 ◇



「お疲れさまです」


「ああ、お疲れさん、どうだい調子は」


「ええ、順調に契約を取れています」


「はははっ、それは君の実力さ、さすが私の部下だ、非常に優秀で私も嬉しいよ」


「ありがとうございます!」


「ところで…… 先方はなんと?」


「そろそろ新しいのを…… と仰られてました」


「そうか…… そういえば今日、丁度良さそうなのを見つけたんだよ、きっと先方も気に入るんじゃないかな?」


「では……」


「ああ、もう少ししたらヴァーミリオンとの慰労会を計画していてね、その時に……」


「分かりました、他にも伝えておきます、鎌瀬部長」


「はははっ、君達には期待しているよ」

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