もしかしてサボってる?
『ヨウ、仕事は順調?』
『遅くなるんでしょ? あたしが晩ごはん用意しておくから』
仕事が始まって間もないのにユアからメッセージが来た。
アパレル関係だから仕事の始まりが遅いのか、もしかしてサボってる?
そんな事を考えつつ黙々と仕事をこなしていく。
最近は鬼島グループの傘下に入り、チェーン店化を希望する飲食店のリフォームなどの見積りを作る仕事ばかりで、外回りはしていないのでスマホをいじる時間が休憩の時くらいしかないんだ、だからすぐには返せない、ごめんユア。
心の中でそう詫びていたら、また新たなメッセージが送られてきた。
『なんかあたしのことチラチラ見てきて嫌な感じ! ヨウだったら良かったのに』
……何の話だ? お客さんにでも見られているのか? うーん、返したいけど返せない。
「大倉、パープルサウンドの見積りは完成したか?」
「はい、もうデータは送ってあります」
「そうか、その調子で頼むよ、今月は忙しくてまいったな、ははっ」
「そうですね」
今月に入って鬼島グループに関連する子会社の新店舗や古い店舗の改修、事業拡大による増築や増員など見積りや人員配置などで俺の所属する部署もすごく忙しくなっている。
時期的な問題もあると思うが、やはり営業部が頑張っているのが大きいんだろうな。
特に鎌瀬部長が率いるチームが群を抜いて仕事を取っているらしく、俺達の部署にもその噂は流れてきている。
さすがだな…… だからあれだけ部下に慕われているんだろう。
鎌瀬部長の周りには常に部下達が取り巻きのように居るし、尊敬されているのか、いつも鎌瀬部長を持ち上げるように……
いや、俺には関係のない話だし、余計な事は考えないようにしよう。
とにかくキリの良いところまで仕事を片付けて早くユアに返信しよう。
……あまり返信しないとまたセクシーな写真を送ってくるからな。
◇
「パープルサウンドの制服についてなんですが……」
「はい、こちらがデザイナーに依頼したデザイン画になります、候補はこちらで三種類まで絞っておきました」
「ありがとうございます、ではこちらは持ち帰って検討させて頂きます、では次に新店舗の件で……」
はぁ…… ヨウが良かったなぁ……
ヨウだったら…… ちょっとイタズラしたりして、からかっちゃうのに。
この人、一般的にはかなりのイケメンでモテるんだろうけど、どことなく自分に自信があるのを隠し切れていないのが…… あたしを『頼めばヤらせてくれる』と思って近付いてきた男達に雰囲気が似ていて嫌な感じ!
その点ヨウは…… ちょっぴりエッチな目で見てくるけど、ちゃんと『あたし』を見てくれるから…… ふふふっ。
あーあ、早くふわふわしたーい!
今日の朝も良かったなぁ……
ふわふわとした身体でギュっとされると、温かくて…… それに良い匂い。
柔軟剤とかそういう匂いじゃなくて、ヨウの匂いが…… すごく好き。
きっとちょっぴり汗の匂いもあるんだろうけど、あたしが好きなんだからいいよね?
それに…… あそこの匂いも。
クセになりそうな、あの……
はっ! ダメよユア! 思い出したら、ヨウにギュっとしてもらいたくなっちゃうから! 帰るまで我慢我慢!
……まだ打ち合わせ終わらないのかなぁ? 二人とも話に夢中だし、机の下でスマホを触ってもバレなさそう!
ヨウにメッセージ送っちゃおっと…… ふふっ。
むぅ…… 返って来ない。
仕事忙しいのかなぁ? つまんなーい。
「では、また決まりましたら連絡します」
「はい! お疲れ様でした…… 唯愛ちゃん?」
「……あっ、お、お疲れ様でした」
いけない、返信が来ないからついつい送り過ぎちゃって話を聞いてなかった。
でも、どうせ亜梨沙さんと嫌なイケメンで決めるんだからあたしが同席する必要なかったよね?
「ははっ、真野さんでしたよね? ではまた……」
またって…… あたしはもう必要ない…… っ!? 嫌っ、今あたしの身体をいやらしい目で見てた! あぁん! 助けてぇ、ヨウ!
そしてイケメンがいなくなった隙にあたしは急いでヨウにメッセージを送った。
◇
やっと休憩が取れたのでスマホを確認すると、未読のメッセージが増えていた。
しかも全部ユアからのメッセージで……
『あの鎌瀬って男には気をつけて!』
『あたしの胸をじっくり見てた!』
『帰ったらじっくり見て上書きして!』
……意味の分からないメッセージばかりだ。
適当にブタが手で丸を作っているスタンプで返すと、すぐにスマホに着信があった。
「……もしもし? 今仕事中じゃないの?」
『ああ、ヨウ! やっと連絡返してくれた! もう、聞いてよー! あのね、今日打ち合わせでAOフーズの人が来るっていうから……』
そこからユアの話は止まらなかった。
打ち合わせに俺が来ると勝手に思っていてガッカリした事。
鎌瀬部長に身体を舐め回すように見られて嫌だったという事。
そして、新しい下着を買うけど何色がいいかという事…… いや、それは俺に関係ないよね!?
あとは、仕事終わりの時間や、晩ごはんのリクエストは何かあるか、とか。
ふと思ったけど、これって友達同士の会話か?
『ヨウ! 寄り道しないで真っ直ぐ帰ってきてね、お願いよ?』
……出た、ユアの悲しそうな声を出しての『お願い』
「うん…… わかったよ」
『絶対よ? ふふっ、じゃあお仕事頑張って! 店長が睨んでるから切るね…… チュッ』
なっ!? 何だ今の音…… し、舌打ちか!? そうだな、きっと、多分……
うぅっ…… ここ最近、ユアに翻弄されっぱなしだよ、俺。
そして休憩を早く切り上げた俺は、なるべく早く帰れるようにと、その後の仕事も全力で取り組んだ。
◇
「唯愛ちゃん…… 何、その猫なで声」
「あ、亜梨沙さん!? 盗み聞きは良くないですよ!」
「嫌でも聞こえてきちゃったのよ…… それで? そんなにデレデレした顔をして、もうお付き合いを始めたの?」
「えっ? まだに決まってるじゃないですか! まだまだアピールが足りません!」
「えぇ…… 会話を聞いた感じ、付き合ってるというより夫婦…… ぎゃっ!!」
「やだぁ! 亜梨沙さんったら! まだ友達になったばかりですよ? ……これからゆっくり育んでいかないと」
「いたたっ…… 唯愛ちゃん叩かないでよ、力が強すぎるわ」
「ちょっと肩に手が触れただけじゃないですか! 大袈裟ですねぇ」
「…………」
やん! 亜梨沙さんにあたし達の会話聞かれちゃった! スピーカーにしてたから丸聞こえよね……
そして、ヨウとの通話で元気を取り戻した今日のあたしは、接客にも力が入りいつもよりも売り上げが良くて、褒められちゃった! ふふふっ。
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