ヨウ、お仕事頑張ってね!
「ヨウ、お仕事頑張ってね!」
「真野…… じゃなくてユアも気をつけてね」
「んふーっ! ……やだぁ、これ、お姉ちゃん達みたい」
可愛いけど少しだけ気持ち悪い笑い方だな、それにゴニョゴニョと何か言っているみたいだけど聞き取れない。
まあ、そんなことは口が裂けても言えないので黙っているが、とにかくユアは嬉しそうに俺の腕にしがみついていた。
「ほら、遅刻しちゃうよ」
「うん…… 分かった」
そう言うと名残惜しそうに俺の腕から身体を離したが、俺のスーツを指でチョンと摘み
「仕事終わったら連絡してね?」
「うん」
「休憩中、連絡してもいい?」
「うん…… 返せるか分からないけどね」
「…………」
「な、なるべく返すから」
「ふふふっ、ありがと! ……じゃあまたね!」
「ああ、いってらっしゃい」
「うん! ……ヨウもいってらっしゃい!」
……今日のユア、めちゃくちゃ甘えてきてすごく可愛いんだけど、どういうこと?
今日のユアの服装はベージュのジャケットに下はデニムと少し露出は控えめで、だけどギャルっぽい。
そんなユアの後ろ姿が見えなくなるまで見送った俺は会社に向かって歩き出した。
すると、いきなり後ろから声をかけられて、驚いて振り向くとそこには
「やあ、大倉くん」
「あっ……
営業部の鎌瀬部長が笑顔で立っていた。
俺の部署は店舗開発などをしているので直属の上司ではないのだが、新店舗の打ち合わせなど仕事上何度も顔を合わせている先輩だ。
「今日はどうしたんだい? いつもならもっと早く会社に来ているのに」
「あ、あぁ、今日はちょっと家を出るのが遅れまして」
いつも笑顔で部下にも優しいと評判の鎌瀬部長…… ただ、俺は少し苦手なんだよなぁ、『どこが苦手なんだ』と言われたら困るんだが、何となく。
「そうかい私はヴァーミリオンとの打ち合わせがあるから、ヴァーミリオンに向かう所だったんだ、それじゃあ今日も頑張るんだよ、大倉くん」
「はい、鎌瀬部長もお気をつけて」
ふぅ……
イケメンで仕事もできる、あと聞いた話だとモデル並に美人な奥さんと生まれたばかりのお子さんもいるらしい。
営業部の社員からは慕われているし…… 正直俺とは住む世界が違うんじゃないかとも思ってしまう。
まあ、俺は営業部ではないし、自分の部署でやれることをコツコツするだけだ。
そんな事を考えながら再び歩き出すと、スーツの上着に入れていたスマホの通知音が鳴った。
送信者は…… ユア?
そしてロックを解除して確認してみると
『お店に到着! お仕事頑張ろうね!』
というユアのメッセージと共に、ユアの自撮りが送られてきた。
仕事用の服に着替えたのか、少し露出の多い服になっているが…… 初めて会った時ほどではない。
さすがにあんなミニスカートとざっくりと胸元が開いた服は仕事中に着ないか、なんて思いつつ、健康的なユアの肌がとても良く映える服だなぁ…… と思っていると
『ヨウにだけ特別サービス♥️』
また写真が送られてきたのだが、今度は褐色のムニュリさんがどアップで写されていた。
慌てて画面を閉じて周りを確認する。
幸い誰もいなかったが、画面いっぱいにこれを表示されているから見る人が見れば分かってしまう。
『こんなの送っちゃダメだよ!』
『いいじゃない! これを見てあたしを思い出してね♥️』
ハートって何だよ、ハートって……
『とにかく! 送っちゃダメ!!』
『ヨウって意外と独占欲が強いタイプなのかしら? 分かったわ♥️』
本当に分かってるの? 独占欲って……
もし誰かに見られたら…… 俺だけが困るパターンか? もし会社で見られたら仕事中にそういうエッチなのを見てると思われてしまう! ……そうか! これも俺をからかうための作戦なんだな? ……一応保存しておくか、念のために。
……これよりも凄いのを肉眼で見ているんだけどな。
そして会社に着くと俺は営業部の前を通り過ぎ、自分の部署のある部屋の扉を開いた。
◇
「唯愛ちゃんおはよー!」
「あっ!
準備をしてバックヤードから店内に入ると、開店準備を進めている店長の亜梨沙さんが先に出勤していた。
「あら? 唯愛ちゃん最近綺麗になったような気がするんだけど…… 彼氏でもできた?」
「ほわっ!? えっ!? うっ……」
「ぷぷっ! ……見た目とは違って、唯愛ちゃんのそういう
「うぅ…… 亜梨沙さん、からかわないで下さいよぉ」
いつもあたしの恋愛相談に乗ってくれるのは嬉しいんだけど、初心だってからかわれてしまう。
初心じゃなくて…… 一途って言って欲しいなぁ。
「うふふっ ……あっ! 今日はAOフーズの人と新しいレストランの制服を決める打ち合わせがあるのよ、だから唯愛ちゃんも参加してね?」
え、AOフーズ!? ……もしかして、もしかするとヨウがここに来ちゃったりして!
ああ…… そうなったらもう『運命』と言うしかない! ど、どうしよう! ふふふっ!
「唯愛ちゃんったら急にニヤニヤし始めたわ…… また『例の彼』の事を考えているのかしら?」
ふふふっ……
…………
『わ、わぁー! ユアが何でここに!?』
『やん! ヨウったらそんなにあたしに会いたかったの? 職場まで来るなんて』
『い、いや、仕事の打ち合わせで……』
『じゃああっちの個室で、二人きりで打ち合わせ…… しましょ?』
『ダ、ダメだって!』
『お願ーい! 二人きりがいいの!』
『仕方ない、可愛いユアの頼みだからな……』
『ふふふっ……』
そして…… ヨウにギュっとしてもらって……
…………
「へへっ…… えへへっ……」
「また始まったわ…… 唯愛ちゃんの気持ち悪い笑い……」
ヨウ、ダメよ! それ以上するなら両親に挨拶をして、役所に届けてからじゃないと……
「AOフーズの鎌瀬です、今日はよろしくお願いします」
はっ? あ、あれ? ヨ、ヨウじゃ…… ないの?
「よろしくお願いします! ……ほら、唯愛ちゃんも挨拶して」
「よ、よろしくお願いします……」
あぁ…… ヨウじゃなかった……
そして、無駄な期待をしていたあたしのテンションは一気に下がってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます