サンドイッチになってる

 今日も結局断り切れずに真野さんと一緒に眠ることになってしまった。


 すぐ目の前には俺の身体に抱き着くように腕を回し寝息を立てている真野さん…… 柔らかな二つのムニュリが俺の腹辺りに押し付けられる形になっている。


 ポロンとなっていたのはさすがに直してもらったが、押し付けられているのはシャツ一枚越しの…… どうしても気になってしまう。


 うっ…… オークビッツが…… 真野さんの太ももでサンドイッチになってる。


「すぅ…… すぅ…… ヨウ……」


 んっ? ヨウって…… 俺?


 真野さんは一体どんな夢を見ているんだろう。

 しかし…… こうしているとまるで……


 ふぁぁ…… もう…… 考えてたら眠くなってきた。


 気をつけをしたまま横になっている体勢だからちょっと辛い…… でも腕を伸ばすと真野さんの身体を抱き締めているような形になってしまう…… 


 そんな事を思って悩んでいたら、いつの間にか俺も眠ってしまっていたようだ。


 …………


「んふっ……」


 うぅ…… んっ…… 暑っ……


「すんすん…… 大倉……」


 それに柔らかいものを抱き締めているような…… 抱き枕?


「ふふっ…… 幸せ……」


 でも…… すごく落ち着くというか、癒される感触だ……


「あっ…… もう…… 当たってるわ…… ふふっ」


 うっ…… な、何だ? ……あれ? あっ、これ、ヤ、ヤバっ


「こうするといいって確か……が言ってたよね?」


 ちょ…… ダメ……


「ヨウ…… ふふっ、ヨウって呼んじゃった ……寝てるしいいよね?」


 スベスベして…… あっ……


「あっ、これ……」


「っ! ……えっ?」


「んふっ、おはよ」


「…………」



 ……………



 とても刺激的な目覚めだった。

 何がとは言わないが、とにかく刺激的だった。


 目を開けるとニヤニヤしながら俺を間近で見つめる真野さんと目が合い、何やらゴソゴソと動いていた。


「えっ? どこを…… あぁっ! ご、ごめん……」


「大倉……」


「はい……」


「とりあえず…… ティッシュ取って?」


「はいぃぃ……」



 またやらかした…… しかも寝ている間に。


 真野さんはニコニコしながらまた朝から風呂場へと向かっていった。


 寝ている間にとは思わなかった。

 夢と現実の間でフワフワとした感覚の中、気付けば……


 朝からどっと疲労感が襲ってくる。

 だけどスッキリもしているような不思議な感覚だ。


 時間は…… 仕事に行くまでまだ余裕があるから先に朝食の準備でもするか。



 ◇



 大倉…… 朝から喜んでもらえたかな?

 お礼もまだだったし、こういう小さな積み重ねが相手をメロメロにするためには必要だって千和が言ってた。


『私は…… 好きな人には何でもしてあげたいタイプだから、ついついやっちゃうんだぁー、えへへっ』


 ……千和の真似は出来ないけど、これくらいなら大丈夫。

 もしどうしてもと言うのなら…… あたしの両親に挨拶してもらってからかな?


 ……ダメよ唯愛! 気が早すぎるわ!

 ゆっくりと仲良くなって、それからの話! ……でも、今出来るアピールはちゃんとしないとね。


 うわぁ、太ももがベトベトする…… これが大倉の……

 見るのは二回目…… 一回目はどうしていいか分からなかったから…… ゴクリ。

 別に大倉のだからいいんだけど。


 ……よし、サッパリしたし、からかい半分のアピールタイムね! 

 待っててね大倉、ふふふっ



 ◇



 朝食といってもトーストくらいしか用意出来ないんだけど、あとコーヒーでもあれば大丈夫かな?


 真野さんって意外と食べるからなぁ…… 昨日の焼肉も美味しそうにいっぱい食べてたし。


「あっ! それ朝ごはん?」


 おっ、真野さんが風呂から上がったみたいだ。


「うん、足りなかったらもう一枚焼く…… わぁっ!!」


 な、何でバスタオル巻いただけで出てくるんだよ! ……俺が着替えを用意しなかったから? いや、でも仕事に行くために何を着ていくとか知らないし…… とにかく!


「何回も言ってるけど服を着てよ!」


「えぇー!? だってまだ髪濡れてるし、少し汗引かないと着れないわよ」


 た、たしかに…… 


「んふっ、それともタオルも邪魔?」


「いえ! ぜひそのままでいて下さい!」


 危ない! 真野さんだったら本当に取りかねない。

 もう手遅れかもしれないけど、まだ友達程度の付き合いの真野さんの『あれこれ』を何度も見るのはいけない気がする。


「あーん、タオル取れちゃったぁー」


 真野さん!? う、うわぁぁっ!!


「……ふふふっ」


 恥ずかしがる様子もなく、男である俺の前で見せびらかす真野さん…… やっぱりビッチ!!


「じゃあ朝ごはんいただくね!」


 本当に自由だな…… もう好きにして……


 バスタオルを巻いた姿でトーストにバターといちごジャムを塗り、美味しそうに食べている真野さん。


 そんな姿を見ないようにしながらテレビを見ながらコーヒーを飲んでいると


「あっ…… えぇーっ…… どうしよう」


 スマホの通知音が鳴って、内容を確認した真野さんが何やら嫌そうな顔をしていた。


「ねぇ、大倉…… お願いがあるんだけど」


 またお願い? ……あまり変な事じゃないといいな。


「悪いんだけど三日くらい泊めてくれないかなぁ……」


「み、三日も!? ……理由を聞いてもいい?」


「……お姉ちゃんの旦那さんがあたしの実家に戻ってくるんだって」


 えっ? 真野さんのお姉さんの旦那さん…… って事は、義理のお兄さんだよね?


「真野さん、お義兄さんが嫌いとか?」


「ううん、あたしにもすごく優しくて、カッコいいお義兄さんだよ」


「じゃあ何で俺の家に泊まる必要があるの?」


「だって…… あたしが居たらきっと邪魔だし……」


 そう言って複雑そうな顔をしてうつ向いた真野さん…… 家庭の事情は分からないが、あまり居心地が良くない状態になるのかな? うーん……


「お願い! ……お礼もちゃんとするから」


 お礼……


「大倉ぁ…… お願い、お願ーい!」


 …………


「分かったよ、じゃあ…… はい」


「えっ? ……これって」


「この部屋のスペアキーだよ、今日仕事が遅くなりそうだからさ、多分真野さんの方が仕事終わるの早いと思うから、持ってて」


 大家さんから入居時にスペアキーも貰ってたんだけど、初めて役に立ちそうだな。


 本当は実家の両親に預けておこうと思ってたけど、後回しにしていて忘れてたんだ。


「い、いいの!? あたしが持ってて」


「うん、先に部屋に居ていいから、使って」


 三日間、俺が帰ってくるまで待たせるのも気が引けるし、別に盗られて困る物もないしな。


「ありがとう! 大事にするね!」


 うん、三日の間で失くさないでよ?


 そしてスペアキーを手渡すと、真野さんは満面の笑みでそのスペアキーを大事そうに両手で握りしめた。

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