ふむふ……む? (唯愛視点)

「仲良くなりたい、かぁ…… うーん、私って恋愛経験が豊富ってわけじゃないし、桃く…… 彼とは幼馴染だしねぇ……」


「でもでも! その恋愛対象にされてなかった彼をメロメロにしたんだろ? 絶対参考になるって!」


「そうですね、千和さんがどうやってメロメロにしたのか気になります!」


 メロメロ…… ごくりっ!


「えっと…… まず『女の子』として意識してもらうためにスキンシップを多めにしたり……」


 ふむふむ、スキンシップ……


「偶然を装ってお風呂に一緒に入ってみたり……」


 ふむふ…… むっ?


「寝ている布団に忍び込んで…… ○○○○を△△△△してみたり……」


 ○○○○!? えっ? あれを…… △△△△!? キャンディの話じゃ…… ないよね?


「あとは…… メロンを駆使してメロメロに…… えへへっ、桃くんメロンが大好きなんだぁー」


 メ、メロン…… なるほど…… たわわに実ってるもんね。


「ち、千和って大人しそうに見えて案外……」


「ええ…… ガツガツしてましたね」


 ガツガツどころじゃない! 肉食系よ! うぅ…… 参考にならないじゃない……


「でも必死にアピールして答えてもらえたら…… すごく幸せだよ? えへへっ」


 そ、そうなんだ…… 千和から溢れる幸せオーラは努力の結果ということかな。


「ゆ、唯愛、千和のは少し特殊というか……」


「はい、仲良くなる段階でそれをやるのは……」


「ありがとう千和! あたし、頑張ってみる!!」


「えへへっ、頑張ってね唯愛ちゃん!」


「聞いてない……」


「大丈夫ですかね……」



 そしてあたしは…… あたしは……



「お、大倉! お礼のクリームパンよ!」


 き、緊張する…… でも、これが仲良くなるための第一歩! まずはきちんとお礼をしないとね!


「へっ? お礼って…… よく分からないんだけど」


 何よ、まだとぼけるつもり!? あたし知ってるんだからね! 


「とにかく受け取って!」


 大倉がいつも売店でクリームパンを買ってるのは調査済みなのよ!


「は、はぁ…… あ、ありがとう」


 やった! 大倉が受け取ってくれた! ……これで少しは仲良しになれたわね!


 師匠とも呼べる千和のアドバイスを時々受けながら大倉と会話するタイミングを図っていたが、やっぱり恥ずかしくて大倉を遠目から見守る学校生活が続いてしまった。


 そして見守っていて気付いたことがある。

 大倉はとにかく誰にでも優しくて、だけどそのせいで頼み事をされると上手く断れないみたいだ。


 ちょっとした頼みがほとんどだが、酷い時にはクラスメイトにクラスの面倒事を押し付けられていたこともあった。


「この回収したプリントを先生に持って行けばいいのか? ……はぁっ、大変だな」


 何種類ものプリントを分別してまとめ、職員室に持って行くみたい……


 大変そうだな、と思いつつ離れた場所からいつものように見守っていたら


「……唯愛ちゃん」


「ひゃあっ! ……ち、千和? ビックリしたぁ」


「手伝ってあげたら? 今がチャンスだよ?」


 チャ、チャンス!? ……でもぉ、恥ずかしい。


「ほら! 恥ずかしがってたらいつまでもこのままだよ! アドバイス通りに……」


 う、うん……


 そしてあたしはブラウスのボタンを一つ外して、ドキドキしながら大倉に近付いていき……


「大変そうだね、手伝おうか?」


 アドバイス通り少し前屈みで、黒糖おまんじゅうの谷間が見えるように…… 大倉に話しかけた。


「えっ? あっ、い、いいの?」


 あっ…… チラっと見た……

 やだぁ…… 大倉があたしの……


 チラっとだが、その熱い視線にゾクっとしてしまった。

 気になる人に、こうして見てもらえるのって…… 嬉しい。


 何となく千和の言ってることが理解出来たかもしれない。


「職員室まで運ぶの手伝うわ…… あっ、そうだった…… ふぅー、今日は暑いわねー!」


 こうしてブラウスの胸元を指で掴み、風を送るようにパタパタと動かしてみる。


 背の高い大倉なら上から見えるはず…… あっ、ふふふっ、見てる見てる……


「そ、そうだね……」


 チラチラと見られていることに気付かないふりをして、大倉にあたしのおまんじゅうアピール…… 廊下の曲がり角からひょっこりと顔を出している千和がこちらを見て笑顔で頷いている! ふふっ、アピール成功ね!


 ただ……


「真野さん、またなの? 髪もまた明るくなってるしブラウスのボタンもちゃんとしなさい! 校則違反よ!」


 目的地は職員室…… 入った途端、生活指導担当の先生が居て、めちゃくちゃ怒られた。


 そして……


「大倉…… 卒業おめでとう」


「あっ、おめでとう」


 結局…… 高校生活ではこれしか話せなくて、毎日大倉を遠目から見守るだけで終わってしまった…… 


 大倉は高校卒業後、就職するみたいだし、勤務地もこの地域内…… またいつか会える日が来る。


 そう思いながら、実家のあたしの部屋にある、巨大ポゥさんのぬいぐるみに抱き着く。


 これを大倉に見立て、あんなことやこんなことをして…… 自分磨きしてきたんだ。

 再会した時には…… 今度こそメロメロにしちゃうんだから!


 まずは大倉の勤め先を調べてみようかな? あと通勤ルートも…… 


 よし、明日から忙しくなるわ!

 その前に…… ポゥさんで千和から学んだことをおさらいしながら予行練習よ!



 そして少しずつ調べた結果、大倉は就職先から近い場所で一人暮らしを始めたらしい。

 しかもあたしの実家の近所だった!


 これは運命だと思い、大倉の通うスーパーの前で、自分の持っている中でもとびきりセクシーな服を着て待ち伏せをして……


 はぁ、ドキドキする…… 卒業してもう一年くらい経っちゃったけど、あたしのことを覚えているかなぁ?


 あっ! 大倉がスーパーに入って行った!


 待っててね、大倉……


 …………

 …………



「ふぅ…… あれ? 真野さん…… って寝てるし」


 ……大倉が風呂場から出てきた。

 今までのことを思い出しながら枕をスンスンしていたらいつの間に! 


 寝てると勘違いされたみたいね、危なかったぁ……


「仕方ない…… 今日はソファーで寝るか」


 ダメっ!! 大倉もベッドで寝て!

 でも、寝ているふりしちゃったから…… あっ、そうだ! ふふふっ……


「う、うぅーん……」


 寝返りを打つふりをして、シャツをペロン…… おまんじゅうをポロン…… ふふっ。


「…………」


 大倉、気付いたみたいね…… 

 薄目を開けて見てみると、あたしのポロンを凝視している。


 そして大倉は足音を立てないようにあたしに近付いてきた……


 ほら、一緒に寝てくれたら見放題、触り放題よ? ……これは前払いだよ? ……後でしっかりと請求するんだからね。


「んっ…… 大倉ぁ……」


「ちゃ、ちゃんと布団をかけないと!」


 ふふっ、あくまで布団をかけるつもりで近付いたんだって言いたいのね? ……可愛い。


「寂しい…… 一緒に寝てぇ……」


 甘えた声でおねだりすると断れないのを知ってるんだから……


「お、俺はソファーで……」


「おねがぁい…… 大倉ぁ……」


「うっ…… わ、わかったよ……」


 ふふっ、おいで? ……捕まえた! ……絶対離さないんだから。


 あぁ、ポゥさんよりふかふかぁ…… 

 それにポゥさんよりも癒される……

 そして、愛しい人のぬくもりを感じながらあたしは深い眠りについた。

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