はぁ……大倉の匂いがする (唯愛視点)

 サッパリした後に大倉の使っている広いベッドに倒れこみ、枕に顔を埋め大きく息を吸い込む。


 はぁ…… 大倉の匂いがする……


 親しくなれた喜びと、あたしの事を少しでも意識してもらうために実践した事を思い出し、少しだけ恥ずかしくなる。


 でも効果は抜群…… 大倉ったらあんなに凝視して…… ふふふっ。


 そして大倉の匂いを感じながら、あの頃の事を思い出していた。



 …………

 …………



 大倉との出会いは高校生の時。


 大倉を初めて見た時の印象は…… 『大きく丸々として可愛い』だった。


 あたしとお姉ちゃんが大好きなキャラクターの『ブタのポゥさん』にちょっと似ていて少し気になっていた。


 まあ、だからといって話しかけたりするわけではなく、視界に入れば『可愛いな』と思う程度だった。


 高校二年の時に同じクラスになり、卒業まで会話したのは二言か三言くらいだと思う。


 でも…… あの時大倉に助けてもらってからあたしは…… ずっと大倉を目で追うようになっていた。



 高校三年の時のある日、あたしは別のクラスの男子にしつこく口説かれていた。

 高校時代、少しギャルっぽい見た目と当時されていた変な噂のせいであたしは軽い女と思われていたみたいだ。


 誰が言い出したのかは知らないが『頼めばヤらせてくれる』とか言われていたみたいで…… そんな簡単に身体を許すように見られていたのはショックだが、興味のない人達に何を言われようがあたしは気にしなかった、だけどしつこく言い寄ってくる男達にはうんざりしていた。


「なぁ、真野、俺と遊びに行こうぜ? ……満足させるからよ」


「…………無理」


 その日、下校中にしつこく誘われたのだが、あたしは相手にしないようにしていた。

 満足って何? 身体をジロジロと見て…… いやらしい! あたしはそういうの、結婚する人にしか許さないんだから!


 そんな事を言っても諦めてくれないのは知ってるから、うんざりしながらも相手にしないように冷たく返事をして、後は無視するようにしていた。


 だが、その日はいつもと違って……


「……あまり調子に乗ってると、どうなるか分かってるんだろうな?」


 あたしの腕をグッと掴み、脅してきた名前の知らない男……


「……離して!」


 ……男と女じゃ力の差がある、振りほどこうとしてもガッチリと捕まれ振りほどけなかった。


「チッ…… 面倒だな…… オラ、来い!」


「や、止めて!! 離して!!」


 急に力強く引っ張りあたしをどこかに連れて行こうとする男。

 いきなり乱暴なことをされてあたしは恐怖で身体が動かなくなってしまった。


「仕方ない、アイツらに連絡して車を出してもらうか、あとは……」


 アイツら? 車? ……一瞬何の事か分からなかったが、すぐにあたしが今どういう状況なのかを理解した。


 あたし…… このままじゃ……


 怖いよ…… だ、誰か…… 


 助けを呼ぶために叫びたい、けど恐怖で声が出ないよ…… どうしよう…… どうしよう……


 そして強引に手を引かれ、誰も来ないような裏道に引き込まれてそうになった時……


「わっ! わわっ!! あ、危なぁぁーい!!」


 いきなり裏道の方から大きな塊が飛び出してきた。

 そしてその塊はあたしの手を引いていた男と衝突して……


「ぎゃあぁぁぁぁー!! チンが! タマがぁぁぁー!!」


「だ、大丈夫ですかー!? きゅ、救急車! 救急車ー!!」


 その大きな塊は…… 何か慌てたように、走って裏道から飛び出してきた大倉だった。

 

 走っていた大倉の膝が丁度…… 男の大事な所にクリティカルヒットしたようで、男は大声で叫びながらのたうち回っていた。


 その後、救急車で運ばれていった名前も知らない男…… そして騒ぎになってすぐ、警察も到着していた。


 大倉は事情を聞かれていてあたふたしていたが、どうやらぶつかった事で通報されたのではなく、あたしが強引に連れて行かれそうになっていたのを『誰か』が通報していたみたいで、あたしも事情を聞かれた。


 偶然だとその時は思っていて、大倉が悪くならないよう正直に警察に事情を話し、大倉はその日は解放され、あたしは近くの交番まで警察の人と一緒に向かった。


 その後、男は別の所で事件を起こしていたらしく、その容疑者として捕まり高校を退学になったと聞いた。

 あたしも腕を強く掴まれたことで痣になり一応被害届を出すように言われて、その後に示談となったのだが、それよりも……


 あたしが乱暴されそうになっていた時、通報したのは…… 大倉だったようだ。

 本人は知らないふりをしていたが、後日そういう噂が耳に入ってきた。


 じゃあ大倉は身体を張ってあたしを?


 その事実を知ったあたしは……



美々みみ、麗菜、相談があるんだけど……」


「唯愛が相談なんて珍しいな」


「相談ですか?」


 大倉と仲良くなるためにどうしたらいいか、放課後の誰もいない教室で友達に相談した。

 

「そりゃ…… 普通に話しかけて仲良くなるしかないよな」


「はい…… それしかないと思いますよ?」


「うぅ…… だってぇ…… 何を話していいか分からないよ、それに…… 恥ずかしくて顔もまともに見れない!」


「あらら、これは重傷だ」


「うふふ、そうですね」


 大倉と仲良くなりたい…… でも、ポゥさんみたいに可愛いのに、あたしを救ってくれた王子様だよ? 恥ずかしくどうしたらいいか分からないでしょ!?

 だから彼氏のいる二人に相談したのに! どうしてそんなにニヤニヤしながらあたしを見てるのよ!!


「あはは! あの唯愛がねぇー」


「恋、ですか…… ふふふっ」


 こ、恋ぃ!? そ、そんなんじゃないよ! ……でも、大倉にならあたしのすべてを捧げてもいいかなぁーって気持ちには…… なっちゃうかも。


「はいはい、これは重傷どころじゃないな」


「ふふっ、私達では治療できないですね」


 だから! ただ、仲良くなりたいだけだから…… 


「で? 上手く仲良くなる方法はないの?」


「うーん……」


「そうですねぇ……」


 二人とも顔を見合わせてニヤニヤしながら悩んでいる。

 ……本当に真剣に考えてくれてる?


 すると、教室の扉が開き


「あれー? 三人ともまだ帰ってなかったの?」


 もう一人の友人の千和ちわが教室に入ってきた。


「あっ、千和! 委員会は終わったのか?」


「うん! ……で、何の話をしてたの?」


「丁度良かった! 千和ちゃんの意見も聞きたいんですが……」


「えー! なになにー? えへへっ」


「ほら、唯愛! 千和に聞いてみろって」


「私達よりも千和ちゃんの方が上手いやり方を知ってるかもしれませんよ」


 千和…… たしか幼馴染の男の子にぞっこんで、尽くしてハートを射止めたとか…… うん、千和の話なら参考になるかも!


 そしてあたしは…… 


 思っていたのと大きく違うアドバイスを受けることになった。

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