なーに? あたしの顔を見つめて

「はい、焼けたよ」


「んふっ、ありがと大倉! ……んー! おいひい」


 真野さんは本当に美味しそうに食べるな。

 おすすめのお肉盛り合わせを注文して、七輪で次々と焼いては真野さんの皿に入れていく。

 俺は肉を焼きつつ食べているが、隣で美味しそうにモリモリと食べている真野さんを見ていると……


「大倉も食べなよ! ……ここのお店のお肉美味しいね! 連れてきてくれてありがと! ふふふっ」


 真野さんの笑顔のおかげで焼肉がより美味しく感じる。


「はふっ、次はねぎ塩牛タンが食べたいなぁー、タン、タン、ターン! ふふっ」


 今日もご機嫌だな…… 時々美味しさをアピールするためか、寄りかかりながら笑顔で俺の顔を見つめてくるのも…… 可愛く見える。


「はい、タン焼けたよ? レモンはかける?」


「わぁぁ、ありがと! うん! 大倉、レモン搾ってぇ、お願ーい」


「はいはい……」


「んふふっ、大倉優しいー」


 ここでも他のお客さんにチラチラ見られているが、焼肉に集中しよう…… うん。


 俺達ってバカップルのように見られてないか? ……思い上がりかな?


 釣り合わないのは分かってる…… だけど知り合って間もないのに、真野さんと居ると楽しいと思い始めている自分がいる。


 ……俺がチョロいだけか? 彼女なんていたことないし、女性と親密になるなんて経験もないから……


『大倉…… はい、お礼のクリームパン』


 ……あれ? 高校生時代、数少ない真野さんとの会話…… 今思い出したが、何故『お礼』だったのか。


 お礼されるようなことをした記憶は…… ないぞ?


「なーに? あたしの顔を見つめて…… あっ! またこの間の事を思い出し……」


「ち、違うから! ……高校生の時、真野さんと話したのを思い出して」


「……ふふふっ」


 な、何? その意味深な笑いは……

 ま、まさか! あのクリームパンも俺をからかっていたのか!?


 ……いや、クリームパンでからかうってなんだよ。

 うーん…… お礼をされるようなこと…… 思い出せない。


 そして必死に思い出そうと考えていると、気が付いたらすぐ目の前に真野さんの顔が近付いていた。


「わっ!! な、何してるの!?」


「えぇー? だってジッと見つめてくるから…… キスしたいのかなぁーって」


 キ、キ、キ、キスぅぅ!? そんな! 俺はただ考え事を…… 


「んふふっ…… 大倉なら…… いいよ」


 どうして!? しかも俺ならいいって…… うぅっ、勘違いしちゃうからそういう事言わないでよ!


「ぷぷっ! 冗談なのに…… 大倉って本当に可愛いね」


 や、やっぱりからかってた!! 

 くそぉ…… もう騙されないぞ!


 そう思いつつ、俺の方にもたれかかってくる真野さんを遠ざけることが出来ない俺……


「次はサガリ! あっ、ハラミも焼いてー!」


「分かったよ…… はぁ……」


 そして、真野さんが満足するまで肉を焼き、食べ切れなかった肉は俺が全部食べた。


「ふぅー! 満足、満足! じゃあ大倉んちに向かいましょ?」


「本当に泊まるつもりなの? 明日も仕事でしょ?」


「職場まで大倉んちからなら実家と大して距離が変わらないから大丈夫よ! ……それとも何? あたしが泊まったらマズい事でもあるの?」


「ないよ! ……真野さんがいいならいいけど」


「それなら…… ふふっ、行きましょ?」


「うん……」


 こんな事になるなら早めに客用布団を買っておくべきだったなぁ…… また一緒に寝ようとは言わないよね? 


「大きなベッドー♪ ふふふっ」


 やっぱり言いそう…… 


 でも今日はもう遅いし、真野さんだって仕事終わり、あとは寝るだけだ。


「お邪魔しまーす! ふふふっ、四日ぶりかな?」


 家に着くと真野さんはスタスタと歩いてベッドの方へ向かっていった。

 そしてベッドの前でしゃがみこむと、四つんばいになりベッドの下に手を伸ばしている。


 うわわっ! 今日はピンク! じゃなくて


「真野さん!? いきなり何をして……」


「んー? ……あったあった! この間隠しておいたあたしのお泊まりセット! ふふっ、気付かなかったでしょー?」


「い、いつの間に置いていったの!?」


「日曜日の朝、大倉がシャワーを浴びている時よ、ふふっ……」


 日曜日の朝…… か! 気付かないよ、そんなの……


「明日の服と下着、部屋着はまた大倉に借りるからいいとして…… あっ、先にシャワー借りちゃおっかな? 焼肉の匂いが凄いもんね」


 あぁっ! 分かったからここで服を脱がないでよ! 


「今着ている服は…… 大倉、洗濯機貸してー?」


「分かった! 好きに使っていいから、だからせめて洗面所で服を脱いで!」


 もう下着姿だし、上を取ろうと手をかけている!


「何よー! ……あっ、一緒にお風呂に入りたいとか?」


「何でそうなるんだよ! いいから早く洗面所に行って! 着替えは用意しておくから!」


「ふふっ、じゃあ入りたくなったらいつでも来てねー?」


 まったく…… 一緒になんて入れるわけないだろ、反応しちゃうし。


 そして真野さんの着替えを用意して、次にシャワーを浴びるために俺の着替えも準備しておく。


 仕事用のカバンとかも焼肉臭くなっちゃったかな? 消臭スプレーをかけておこう。

 あとスーツも…… 一応ベッドにもしておくか。


 ついでに真野さんの脱いだジャケットにもかけて…… よし!


「大倉ー? 着替えはー?」


 あぁぁっ! また何も着ないで出てこようとしている! 


「足元に置いてあるでしょ!?」


「あっ、本当だ! ……ふふふっ」


 分かってたよね!? タオルすら巻いてないし…… あぁ、あとは寝るだけだと思ったのに、なんてものを見せてくれちゃってるんだよ…… デッカ……


「んふっ…… エッチ」


「ご、ごめん!! み、見てないから!」


「見てないのに謝るなんておかしいわね…… ふふふっ」


 くぅ…… ついバレバレの嘘をついてしまった。

 

「もういいから早く服着て!」


「ふふっ、はーい」


 はぁ…… どうしてそんなに見せ付けてくるの? ビッチだから? 見せて喜ぶタイプの人とか…… 分からん。


「ふぅー! サッパリしたぁー、大倉、次いいよ!」


「うん…… あっ、冷蔵庫に飲み物あるから好きなの飲んでいいからね」


「ふふっ、ありがと」


 そして入れ替わりで洗面所に入ると……


 わざわざ目立つように、洗濯カゴの一番上に、ピンクの上下が並べて置いてあった。

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