今日も泊めてよ

 その後、数日は何事もなく、ただ仕事に行っては家に帰るの繰り返し。


 職場は超ホワイトで、残業もなく毎日定時に帰れてはいるのだが……


 はぁ…… 今日もスーパーの弁当でいいか。


 一人だとどうしても料理するのが面倒で、ついつい買って済ませてばかりになっている。


 節約したいのなら自炊した方がいいんだろうけど、ここのスーパーの弁当は安いし買って帰った方が楽でいいと思ってしまい、今日もスーパーに来てしまった。

 今日の晩ごはんは何にしようかなぁ……


 すると後ろからいきなり背中を叩かれ、振り向くと


「まーた弁当買ってるー!」


「……えっ? あっ!」


「やっほー、日曜ぶりね、大倉」


 真野さん!? またこのスーパーに来てたの? あれから連絡もなかったし、しばらくは会わないだろうと思ってたのに。


「ふふっ、そんな驚いた顔をして…… あたしから連絡がなくて寂しかったの?」


「いや…… お互い働いてるし、そんな頻繁に連絡を取り合う仲でも……」


「ああ! そういうこと言っちゃうんだー! せっかく寂しい大倉のためにまた泊まらせてもらおうと思ってたのに、ねぇ、大倉ぁ、今日も泊めてよ」


「えぇっ!? ま、真野さん!? 俺は一人暮らしだからマズイって、この間も……」


「あたしは気にしないから、いいでしょ?」


「俺が気にするんだよ……」


「お礼にしてあげるから、ねっ? お願い……」


 うっ! また悲しそうな顔をして上目遣いでおねだりしてきた! ……いや、ダメなものはダメ! ちゃんと断れるような男に……


「大倉ぁ……」


 う、腕にしがみついてムニュリとしないで! ……ああ、もう!


「わ、分かったよ、分かったから離れて! 他のお客さんに見られてるから!」


 ほら! 買い物中のおば様方が俺達を見てヒソヒソ話してるから!



「……ああやってベタベタするの流行ってるのかしら?」


「まあ! 人前で恥ずかしくないのかしらねー?」


「……でも晴海ちゃんの所もあんな感じよね」


「あぁー、あそこは特別というか、ちょっとアレだから……」



 と、とにかく! 泊まりに来ていいから…… ムニュリさんがぁー!!


「ふふっ、やった! ……じゃあ大倉、焼肉食べに行こうよ! あたし今日は焼肉が食べたい気分なのよねー」


「分かった! それなら早く行こう! ほら、真野さん」


 一刻も早く店を出たい! 真野さんのムニュリを楽しんでいると思われていそうで恥ずかしくなってきた!


「やん! そんなにグイグイされると…… 飛び出ちゃうからぁ」


 確かに飛び出そうなくらい谷間が見えてるけど! どうしてそんな服で出歩いてるの!?


「ふふっ、だってあたしの働いているお店の宣伝も兼ねて格安で売ってもらってるんだから、着ないともったいないでしょ? あっ、それとも…… あたしが他の男に見られるのが嫌なの? ふふふっ」


 そんな、彼氏とかじゃあるまいし、嫉妬や独占欲なんてない…… うん、ない。


「へぇー…… ふーん……」


 何でそんなに不満そうな顔をしてるの? ……うん、それでも腕にしがみついたまま離れないのね。


「ほら、焼肉食べに行くんでしょ? 早く行こう」


「ふふっ、はーい」


 ここからだと…… 近所の焼肉屋でいいか。

 そこの店、人気のチェーン店のような焼肉屋ではないけど美味しいんだよな。


 そして、真野さんと二人で焼肉屋を目指して歩いていると


 うぅ…… すれ違う人達に二度見される!

 真野さんが美人でセクシーなのが一番だろうけど、隣にいるのが俺だからかなぁ……

 真野さんは気にせずニコニコしながら腕にムニュリとしながら歩いているけど。


 どうしてこんなに距離が近いのかは怖くて聞けないが、少なくとも俺に対して好意的だからこうしてるんだと自分を納得させている。


「焼肉ー♪ 焼肉ー♪」


 ご機嫌だな…… 

 それにしても真野さんも仕事帰りかな? 

 ふわりと甘くてフローラルな良い匂いがしてきてドキドキする…… あっ、真野さん用に買ったトリートメントと同じような匂いも…… って! 真野さんの匂いを嗅いでドキドキしてるなんて変態みたいじゃないか!


「焼肉ー…… 大倉?」


「へっ? ど、どうしたの?」


「ふっふーん…… 何考えてたの?」


「いや、別に……」


「そっ、ふふふっ…… んー、大倉の腕、ふわふわして気持ちいい……」


 こ、こら! 顔をスリスリしないの! ……仕事終わりだから汗だってかいてるし。


「…………」


 止める気配はない…… はぁ…… おっ、着いた。


「真野さん、ここだよ」


「うん! さぁ、焼肉よー!」


 少し古い外観であまり広い店ではない穴場的な焼肉屋で、少し煙たく感じてしまうが七輪の上で焼いて食べるタイプの店だ。


 そして店中に入ると、まだ空席があったのですんなり席に案内された。


 家族連れが一組に、カップルっぽいのが二組、あとお一人様で席についてるのが二人か…… まあ平日だしいつもよりは少ないな。


 土日は仕事帰りのお客さんで埋まっていてお酒も飲んでいたりと入れない事が多いから良かった。


「こんな店が近くにあったんだ! 気付かなかったわ」


「大きい通り沿いじゃないし、普段あまり通らないような道を入っていかないと気付かないから、知る人ぞ知る店って感じかな?」


「さすが大倉ね! ……ふふっ」


 そう言いながら俺のお腹を軽くポンポンと叩く真野さん…… ちょっと、見られてるから早く席に座って! 


 店の一番奥のテーブル席につくとすぐに店員さんが七輪を持ってきてくれて、テーブルの真ん中に置いていった。


「ふふっ、何を頼もうかなぁー? 大倉は何食べたい? ……あっ、食事代は誘ったあたしが出すから気にしないで食べてね」


「いや、そこは割り勘にしようよ」


「そう? ……まあ、のこともあるし、そうしましょうか」


「……これから?」


「また一緒にご飯を食べる時に困らないようにね! 今のうちにそう決めておきましょ? ふふふっ」


 また今度があるのは真野さんの中では決定なんだ…… それはいいんだけど……


「ねぇ、何でそんなに俺と…… その……」


「んっ? ……だって大倉と居ると楽しいから、それじゃあダメ?」


 何故そんなにグイグイ来るのか、その理由を知りたかったんだが…… 元々真野さんが誰にでもフレンドリーな人という可能性もあるし、俺が一人で勘違いしていたら恥ずかしいから…… 今は詳しく聞かなくてもいいか。


「お、俺も真野さんと一緒に食事するのは楽しいから…… 嬉しいよ」


「大倉…… ふふふっ、でもぉ…… 食事だけなの? この間みたいのは?」


「あっ……」


 ちょっと…… 俺の太ももを撫でないでよ。

 それに、また向かい側に座らないで横に座ったね?


「……楽しいよ」


「んふっ! ……さて、注文しよっか!」


 そしてご機嫌になった真野さんが色々注文し、俺達は焼肉を食べ始めた。

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