しっかり目に焼き付けてね?

 時間はあっという間に過ぎ、外はだいぶ暗くなってきた。

 真野さんは帰り支度を始め、着ていた俺のTシャツやジャージから自分の私服へと着替えていた。


「もう! そんなに見つめて! 大倉のエッチ! ……ふふっ」


 いや…… 俺の目の前で服を脱ぎ始めて、俺が寝室に逃げても後を追ってきたのは真野さんでしょ? そんなに着替えている所を見せて俺をからかいたいのか?


「しっかり目に焼き付けてね? ふふっ」


 真っ赤な下着姿で俺に向かって微笑んでいるけど…… 早く着ないと風邪引くよ?

 もう十分目に焼き付けたから。


 本当に何がしたいんだよ…… それにしても日焼けじゃなくて元々なんだなぁ…… 跡がないもん。


「ふふふっ、そうなのよ、お姉ちゃんは肌白いのにねー、両親は日本人なんだけど不思議よね」


「……でも健康的に見えていいんじゃない? 金髪にも合うし」


「ありがと! ……やっぱり大倉は優しいのね、あの時と一緒……」


「ん? 何か言った?」


「ううん、何でもなーい! 褒めてくれたお礼に…… えい!」


「うわわっ! や、止めてよ真野さん!」


 ムニュリさんを顔に押し付けたらダメ!


「ぷぷっ! 『うわわっ!』って…… あははっ! 大倉、面白ーい!」


「い、いいから早く着替えて!」


「はーい、ふふふっ」


 そして、ようやく着替え終わった真野さん。

 そろそろ帰るのかと思ったら……


「泊めてくれたお礼に一緒に晩ごはんを食べに行かない? 奢るからさぁ」


「えっ? だ、大丈夫だよ…… それにあまりお腹も空いてないし」


「いいから行こうよ! ねっ? 大倉ぁ、一人ぼっちでご飯寂しいよぉ…… ねっ? お・ね・が・い!」


 うぅっ、そんな可愛くお願いされたら…… 俺が断るのがあまり得意ではないのがバレちゃってるな。


 ……晩ごはんを食べるくらいならいいか。


「分かったよ、それなら俺も着替えるから待ってて」


「やった! ありがと、大倉!」


 そして、真野さんにじっくり見られながら着替えをして、二人で家から出た。



 真野さんは家に来る時と一緒で、俺の腕に自分の腕を絡ませるように組み、ムニュリとさせながら歩いている。


 色々あったから昨日のように心臓が飛び出るんじゃないかというくらいドキドキはしていないが、やはり普通にドキドキはしてしまう。


 ふわりと香る真野さんの香りから少し俺の家の芳香剤の香りがして…… なんか不思議な気分だ。


 そして辿り着いたのは…… ファミレスで、しかも『鬼島グループ』の系列店だった。


「ここなら社員割もあるし、大倉が気に病むことないでしょ?」


 一応俺に気を使ってくれてるのかな? ここ美味しいし、俺も一人でたまに来るくらい好きだから嬉しいんだけど…… ていうか社員割なんてあったんだ、初めて知ったよ。


「知らなかったの? 社員証を出せば少し割引になるのにもったいないわね…… ふふっ、でもこれで今度も来やすいでしょ?」


「確かにもったいなかった…… って、また今度?」


「何? 大倉はもうあたしと会いたくないの?」


「いや、そういうわけではないけど……」


「なら『今度』でいいじゃない! 何を遠慮してるのよ…… 色々見たりシたくせに」


 シてはいないというか、どちらかといえばされた気がするんだけど…… その話を出されると何も言えなくなっちゃう。


「ふふふっ」


 そして店内に入った俺達。

 店内に入っても腕を離してくれず、案内してくれた店員さんも少し驚いて不思議なものを見るように俺達を二度見していた。



「大倉は何にするの?」


「うーん…… ゲーム中にお菓子を結構食べたから…… この小さいドリアにしようかな」


「じゃああたしはカルボナーラにしよーっと、すいませーん! 注文いいですかー?」


 注文するために店員さんを呼ぶ真野さん。

 相変わらず腕は絡んだまま…… ボックス席なのに。


 普通向かい側に座ると思うだろ? 俺が腰掛けた途端、当然かのように隣に座ってきたんだよ。


「あたしの顔をそんなに見つめて、どうしたの? 我慢出来なくなった?」


「な、何を言ってるんだよ!」


「ふふっ、あんなにいっぱい出たのに、まだなんだぁ……」


「そ、その話は今やめようよ」


「ふふっ! もう、大倉ったらぁ……」


 腕にしがみつきながらもたれ掛かって笑う真野さん…… さっきから周りのお客さんにチラチラ見られていて恥ずかしいんだけど、真野さんは気にしてないみたい。


 周りのお客さんには俺達はどう見えてるんだろう…… バカップル? いや、流行りのパパ的なやつか? それとも……


「お、お待たせしました…… ドリアとカルボナーラです」


 店員さんも俺達を見て苦笑いしてるよ…… それはそうか、露出多めなギャルが俺みたいなやつにしがみついてニコニコしてるんだから。


「大倉、早く食べよ? いただきまーす」


「う、うん…… いただきます」


 真野さんはくるくると器用にパスタを巻いて食べ始めた。

 俺のドリアは出来立てで熱々だからよく冷まして食べないと……


「熱そう…… ふーふーしてあげよっか?」


「大丈夫だよ…… あっ!」


「ふー…… ふー……」


 ふー、とするたびにムニュっと…… 真野さん! 大丈夫だって言ったのに!


「ふふっ、大倉の反応、面白いね! ふふふっ」


 やっぱりわざとか…… 


「ほら、食べて食べて!」


 うーん…… 食べづらいなぁ。

 あっ、他のお客さんがこっちをまたチラチラ見てる! さっきの店員さんも!


 傍から見たら女の子にふーふーさせて食べている男に見えるよな…… さては真野さん、それが狙いでやってるな?


「早くぅー!」


 ……真野さんは気付いていないみたいだ。

 純粋に冷ましてあげようという優しさなのかもしれない。


 ええい! 食べるぞ! 食べるからなー! ……あむっ


「どう? 美味しい?」


「……うん、美味しいよ」


 いつもの味で美味しい…… でも、真野さんのおかげで更に…… 


「あたしにふーふーさせて食べるドリアがそんなに美味しいんだぁ! 他のお客さんも羨ましそうに見てるわね! ふふふっ」


 や、やっぱり気付いてたのか! そんな事をしてまでからかいたいのか……


「んふっ、じゃあ、あたしが食べさせてあげた方がいいかなー?」


「もう大丈夫だから! 真野さんこそ早く食べないと冷めちゃうよ?」


「ふふっ、そうだね…… 大倉と居ると楽しい! ふふふっ」


 うっ…… その無邪気に見える笑顔は反則だよ……


 そして、チラチラと他の人に見られながら二人で食事を続けていたが、真野さんは気にせずずっとちょっかいをかけてきて、何だかすごく恥ずかしかったけど、嫌な気分にはならなかった。

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