そ、それ掴んじゃダメ

 うっ…… 暑っ……

 

 それに何かもっちりしっとりしているような…… んんっ!?


「すぅ…… すぅ……」


 お、おい! 真野さん!? 何で俺の上に乗ってしがみつきながら寝ているんだ?

 しかも…… Tシャツはどこ!? あっ…… あぁっ…… ま、真野さんのムニュリが!


「んっ…… うぅん…… 暑い……」


「ちょ、ちょっと真野さん…… は、離れてくれない?」


「大…… 倉? あっ、大倉だぁ…… ふふふっ」


 目覚めたかと思えば更にギュッと抱き着いてきて、俺の胸の辺りに顔を押し付けてくる。


 うぅ…… 真野さん、柔らか…… 


「んふっ…… おはよ、大倉…… 朝から元気ね」


「そ、それは……」


 わざとじゃない! 朝だから仕方ないんだ! それに真野さんのせいというのも少し……


「ふーん…… じゃあ責任取らないと、ねっ?」


 へっ? そ、それ掴んじゃダメ…… あっ……



 …………

 …………



「さーて、シャワー浴びてこよーっと! ふふふっ」


 うぅ…… 今度は手で…… 

 真野さん、朝から過激だよ……


 でも初めて見ちゃった…… 真野さんの…… 


 感想? うん、まあ、デッカ…… って感じ。


 見つめられ、見せ付けられながら…… あぁ、思い出すだけで恥ずかしい。 

 そしてさっさと風呂場に向かっていった真野さんを横目で見つつ、起き上がって一人後片付けをした。


 あっ…… 真野さん、着替えを持っていったのかな? 昨日のTシャツが床に落ちてるけど。


 とりあえず洗面所の前に新しい俺のTシャツと、昨日お気に召さなかったジャージとは別のジャージの下を置いておこう。


 はぁ…… でも…… 


「大倉ー? ちょっとあたしのカバンから下着を取ってー?」


「へっ!? カバンの中? 触っていいの?」


「大倉なら見てもいいから! 早く早くー!」


 俺ならってどういうことだよ…… 『ごく薄♥️』は避けて…… うわっ…… これまた凄い下着だな、真っ赤で布が少ないような……


「まだー?」


「い、今行くから! ……うぇっ!?」


 真野さん!? ちょっと、そのまま出て来ないでよ! あぁ、見ないように、見ないようにしないと!


「何よ、さっきじっくり見てたくせに…… ふふっ」


「じっくりなんて…… はい! わ、渡したからね! それじゃ!」


「可愛い…… ふふっ、ありがと、大倉」


 可愛い!? やっぱりからかわれてるよ! 真野さん…… やっぱりビッチだ。


 そして真野さんと入れ替わるような形で俺もシャワーに入り、汗やら色々と流して気持ちを落ち着けてからリビングに戻ると、Tシャツとジャージをちゃんと着た真野さんがリビングのソファーでくつろいでいた。


「大倉ぁ、お腹空いたー」


「じゃあ昨日買った朝ご飯を……」


「持ってきてぇ、お願ーい」


 甘えたような声を出して…… 何というか、上手く使われているような気がするが


『んふ…… どう? 大倉ぁ……』


 昨日の夜とさっきされた『お礼』の事を思い出すと何も言えないよ!! 仕方ないな。


「今持っていくから、座ってて」


「ありがと、大倉」


 甘え上手なのか、俺みたいな男を手玉に取るのが得意なのかは分からないが、真野の頼みを断れない。


 それに…… 嬉しそうに笑う顔が本当に可愛いんだよ。


 いやいや、俺はただ真野さんにからかわれ遊ばれてるだけだ! でも、あんなことをされたら意識しちゃうよな。


 真野さん的には『童貞チョロい!』と思われているんだろうなぁ。


 そして真野さんが朝ごはんに選んでいた惣菜パンを軽くレンジで温めてから、ソファーでくつろぐ真野さんの前に持っていく。


「そうだ、コーヒー淹れようと思ってるんだけど真野さんも飲む?」


「うん、もらおうかな! 何から何までありがとね…… 大倉」


「つ、ついでだから…… 先に食べてていいよ」


「はーい! ふふふっ」


 からかわれているかと思ったら、こうやって素直にお礼を言ったりして…… 真野さんの事、よく分からないな。


 こんなよく分からない人をムニュリと頼まれたからといって家に泊めて…… お礼をしてもらっている時点で文句は言えないんだけどね。


「はい、コーヒー…… って、まだ食べてなかったの?」


「だって、せっかくなら一緒に食べたいでしょ? だから待ってたの、ほら早く座って!」


 分からない…… けど、真野さんから悪意を感じられない、どちらかというと……

 そんな事を考えつつ、真野さんの横に俺も座った。


「じゃあ、ふふっ、いっただきまーす」


「いただきます」


 ……あれ? 躊躇いもなく一緒のソファーに座っちゃったけど、一晩だけでこの距離感って…… 短いとはいえ普通の人付き合いよりも濃厚な時間を過ごしたから、俺も少し距離が近くなっているのかも。


「ふふっ、そっちのパンも美味しそう! ねぇ、一口ちょうだい?」


「えっ? ……うん、いいよ」


 そしてパンを手渡そうとしたら、真野さんは受け取ろうとはせずに


「あーん」


 口を開けて待っている……


「ちょっと、それは……」


 いや、どういう状況だよ! 一晩泊めただけで、まるで恋人のような距離感だよ!?


「早くぅ…… あーん」


 うっ…… 


 少し迷ったけど…… 断れずに仕方なしに真野さんの口元に俺が食べていたイチゴジャム入りのコッペパンをまだ口を付けてない方を向けて差し出した。


「あむっ…… んー! ふわふわで美味しいー! しかも結構大きくて、中身もたっぷり…… やん、ジャムが垂れちゃう!」


 口の端からジャムが垂れそうになったのを慌てて指で掬った真野さん。


「あっ、ティッシュを取るから待ってて」


「ねぇ大倉…… 舐めて?」


「へっ!?」


 ティッシュを取ろうとしたら、ジャムの付いた指を俺の顔に近付けてきた!

 しかも『舐めて』って…… 真野さんの指を俺が!?


「舐めて?」


「いや、それは自分で……」


「あたしは…… してあげたのになぁー」


 うっ! 昨日の夜の事か? 正確には指ではないけどね…… じゃなくて! あぁ、俺はどうすればいいんだ!


「もう! ……えい!」


 むぐっ!? あっ! 真野さんの指が俺の口に……


「最初からこうすれば良かったわね、ふふふっ」


 そして、俺の口から指を抜いた真野さんは、その指を自分の口元へ持っていき、見せ付けるようにペロリと舐めた。

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