ねぇ、しようよ……

「…………」


 今日は土曜、明日は休み…… 夜更かししても多少は大丈夫。


「ふふふっ…… ねぇ、しようよ……」


「ダ、ダメだって……」


「お願い……」


「し、仕事で疲れてるから……」


「大倉…… しよう?」


「わ、分かったよ……」


「ふふっ…… じゃあ……」


 そして俺達は…………




 ……………



「あぁん! ヤダぁっ! えい! えい!」


「くっ! なかなか手強い…… これならどうだ!」


「あん! それはダメぇっ!」


「じゃあ…… これなら!」


「キャッ! ……ふふっ、隙あり!」


「うわぁっ! ま、負けた……」


「やったぁ! あたしの勝ちー! ふふふっ!」


 くそぉ…… 真野さん、意外とゲーム上手いな。


 仕事で疲れているから早く寝たかったのに、真野さんにどうしてもとおねだりされて、仕方なくゲームで遊ぶことになった。


 ……ゲームだよ? 家庭用のテレビゲーム。

 何種類ものミニゲームが出来るゲームを俺がたまたま持っていたのを知った真野さんが、どうしてもやりたくなったみたいだ。


 そしてゲームに熱中した真野さんが俺にグイグイくるもんだから、ムニュリとね? うん…… シャツ一枚しか阻むものがないからそっちに気を取られた結果、ゲームは俺のボロ負けだった。


 まあ楽しかったからいいんだけどね……


「ふぅぅっ…… 楽しかったー! ふふふっ、大倉も楽しかった?」


「うん、楽しかったよ…… で、真野さん? そろそろ離れてもらってもいいかな?」


 もう寄りかかるというか、抱き着くに近い状態になってるんだけど。


 一応再確認するけど、高校ではほぼ接点はなく、しかもついさっき久しぶりに再会した高校の同級生だよね、俺達。


「えぇー? だって大倉、大きくてふわふわして気持ちいいんだもん! 減るもんじゃないしいいでしょー?」


「だ、だからって……」


「んー…… ふわふわ、大きなぬいぐるみみたい……」


 更にギュッと抱き着いて…… いやいや、この状態だと悶々としてしまう!

 このまま押し倒せば真野さんだったら…… と一瞬頭をよぎるが、俺にはそんな勇気もない。

 せいぜい真野さんが帰ってから今日のことを思い出しながら一人でファイトするしか出来ないよなぁ。


「ふわぁぁ…… はしゃいだら眠くなってきちゃった…… ねぇ、大倉ぁ…… 買ってきた歯ブラシは?」


「えっ? ……洗面所にあるよ?」


「……歯磨きしてくるね」


「えっ? あっ、うん……」


「大倉も歯磨きしないの?」


「いや…… 真野さんが終わったらするよ」


「……一緒に歯磨きしちゃおうよー」


 ……何故? ……うーん、どうせ歯磨きするから、別にタイミングは今でもいいか。


「分かった」


 そして何故が二人で洗面所の鏡を見つめながら歯磨きをする……


 真野さんが歯磨きするために手を動かすたびにプルプルするのがチラリと目に入ってくるが、なるべく見ないようにしていると


「んふっ……」


 わざと身体を細かく揺すってプルプルを激しくしてる! そして真野さんの目線は俺の下の方に……


 バレてる!? ……いや、気のせい! 気のせいってことにしないと余計にマズい!


「んふふっ、ぷはっ…… んー…… あっ、マウスウォッシュもある! これも使っていい?」


「んっ…… う、うん、好きに使って……」


「ありがと! …………」


 うっ! 口をゆすぐために真野さんが前屈みになると、貸している俺の大きくてダボダボなTシャツの胸元が!


 くっ! 見ちゃダメなのに…… 悲しいかな、男の性というものなのか、ついつい目がいってしまう!


「……んっ? どうしたの?」


「い、いや! 何でもないよ!」


「ふーん……」


 そう言いながらもニヤニヤしながらTシャツの胸元を指で摘み、伸ばすようにしながらまた前屈みに…… うぅっ、見ちゃダメなんだって……


 何故そんな事をするの? もしかして誘ってるとか…… いや、俺の反応を見て楽しんでいるんだ、そうだ、きっとそうに違いない!


「…………ふふっ」


 そして、悶々としながらも俺は何も言わずに寝ることにした。

 客用の布団なんて持ってないし、仕方ないから真野さんにベッドを譲って、俺はソファーで寝ようかと思っていたんだけど……


「せっかくこんなにベッドが大きいのにもったいないわよ、一緒に寝ればいいじゃないの、あたしは気にしないわよ?」


 俺が気にするんだよ…… だけど、またしても強引な真野さんに根負けして、俺達は一緒のベッドで寝ることになってしまった。


「うーん、やっぱりふかふかで気持ち良い……」


 ベッド…… だよね? ちょっと距離が近いというか、俺の足に真野さんのスベスベした足が絡んでいるんだけど……


 本当にどうしてこんな事に……

 怪しいと疑わない俺も俺だが、真野さんもあんまり面識のない男の家でこんなにくつろいで…… スキンシップも多めだし、友達以上の距離感だよ。


 何か狙いがあるのか? もしかして…… この後怖い人が乗り込んで来たりして! いや、俺が寝ている隙に金目の物を盗んだり…… 


「んー…… 温かぁい……」


 この様子じゃその可能性は少ないけど。


 どうして俺はこんなに疑わないのか…… 何か理由は…… 思い付かない。


 まあ、何かあったら諦めるか。

 真野さんとこうして寝れただけで、少し恋人が出来た気分を味わえたと思えば……


 うん、とにかく疲れてるし寝るか…… 真野さんのことは明日考えよう。


 そして目を閉じて眠ろうとしたら……


「ふふっ…… 大倉は優しいんだね…… んっ、しょっと……」


 んっ? 真野さんが布団の中でモゾモゾと…… あれ? 何をして…… あっ!!


「ま、真野さん!?」


「ふふっ、お礼…… 忘れてたね」


 布団の中、しかも腰の辺りから真野さんの声が聞こえ…… なっ! ズ、ズボンが! えっ? ひゃっ! な、何!? はぅっ!


「ありがと、大倉…… お礼、するね?」


 …………

 …………


 そして…… 俺は真野さんに……

 お礼という名のマウス…… ウォッシュをされた。


 …………

 …………


「ふぅ…… ただいまー、ふふふっ」


「あ、あぁ…… おか、えり……」


「じゃあ、今度こそ…… おやすみ」


「お、おやすみ……」


 ヤバかった……

 あっという間だった……


 真野さん…… 


 一度口をゆすぐためにベッドから出ていったが、また戻ってきて…… 今度はさっきよりも密着して、抱き着くように真野さんは眠りについていた。


 そしてすぐに真野さんの可愛らしい寝息が聞こえてきて……


 ど、どうしてそんな普通に眠れるんだよ…… 真野さん。


 初めての経験ばかりで困惑しているが、気持ち良い疲労感を与えられたせいで、俺もいつの間にか眠ってしまったみたいだ。

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