はぁ……ドキドキして疲れる
いつもより少し遅くなった晩御飯を食べ終え、俺はリビングのソファーに座り、一人でボーっとテレビを眺めている。
『ねぇねぇ! そのお肉も美味しそうだから一口ちょうだい?』
『あん! 焼肉のタレが谷間に…… ふふっ』
『ふぅ…… 美味しかった! 見て見て、お腹がパンパンになっちゃった』
…………
色々と無防備というか、真野さん…… 絶対俺の反応を見て楽しんでるぞ。
はぁ…… ドキドキして疲れる。
そして今、俺は更にドキドキしている。
リビングには俺一人…… 風呂場からはシャワーを使っている音…… テレビの内容なんて頭に入ってこないよ!
すぐそこでは真野さんがシャワーを浴びている…… あの真野さんが……
シャワーから上がってきたらどうなるんだ? お礼っていうのも気になるし……
シャワー、お礼、からかうように見せ付けるあれこれ…… 導き出される答えは一体何か。
期待しているわけじゃないぞ!? でも…… あの噂があった真野さんだ。
もしかしてだけど、これって…… 卒業式目前か?
いやいや! 俺みたいなブタ…… でもワンチャン…… いや、ダメだ! そういう事を期待して招き入れたわけではないし、そもそもそういう事をするのに必要な、大切な物を準備してないじゃないか!
それはない…… んっ?
真野さんが持っていたバッグが開いているぞ? そして中身の一番上に……
『ごく薄♥️』と書いた新品の箱が…… ミリってなんだよミリって!
ああ、準備万端じゃないか! えっ? でも何でそんなもの…… いや、真野さんくらいになるといつでも戦闘準備をしているのかもしれない。
それなら……
更にドキドキが強くなり、手に汗までかいてきた…… ど、どうしよう……
「はぁ…… サッパリしたぁ、お風呂場もちゃんと綺麗にしてるのね! 大倉もさっさと入っちゃえば?」
あ、上がってきた! そして俺にも風呂に入るよう促してきたぞ!?
「あ、あぁ…… そうするかな…… うぇっ!? ま、真野、さん!?」
声をかけられて振り向くと、風呂場から出てきた真野さんの格好が目に入ってきてビックリしてしまった。
俺の貸した大きめのTシャツ…… のみを着た真野さんが頭にタオルを乗せて出てきたからだ。
一応ダサいけどジャージの下も渡したんだけど穿いてない!!
ダボダボの白いTシャツ…… 上手くお尻はすっぽり隠れてはいるが、ムチムチの太ももは丸見え…… それに胸の部分…… ポッチがうっすらと…… 何で!?
「んー? 何を…… ああ、あたし寝る時は付けないというか、基本あまり服を着たくないタイプなのよね、ふふっ、そんなじっくり見ないでよ」
「ご、ごめん! お、俺もすぐ入るから!」
「ゆっくり入りなよー? あと…… ちゃんと洗うのよ? ふふっ」
「は、はいぃぃっ!!」
そして逃げるように洗面所へ駆け込んだ俺は、急いで服を脱ぎ風呂場へと……
んっ? 洗濯カゴになんか豹柄の物が…… あぁっ!! な、な、なんで片付けてないんだよぉぉぉ!!
豹柄の三角な布…… しかも上下セットで俺の洗濯カゴの一番上に、しかも目立つように綺麗に並べられて入ってる!
さっきまで真野さんが身に付けていた…… ダメだ! 早く風呂に入らねば! 見ていたら色々想像して、オークビッツがオークキングビッツに進化してしまう!
……セルフファイト一発しとくか?
そして蛇口を捻りシャワーを出した。
右手は添えて動かすだけ…… そうだ、あの背中や腕に当たった感触を思い出して……
「大倉ー?」
洗面所のドアが開く音と共に声が聞こえてきた。
ひゃあぁぁっ!! ま、真野さん!?
「ど、ど、どうしたの!」
いきなり入ってこないでよ! 添えてたじゃないか!
「……ジュース、もう一本もらってもいい?」
「……へっ? い、いいよ!」
「ふふっ、ありがと…… あっ、パンツ、使ってないんだぁ」
使う!? な、なんのことやら……
「せっかくそのままにしておいてあげたのに…… まっ、それは大倉にあげるから、好きにしていいよー、ふふふっ」
いらないよ! ……うん、いらない。
いらない…… よね? いらないかもしれない…… 考えておくか。
「…………」
あの、いつまでそこにいるの? 気まずいんだけど。
「…………」
「あの、真野さん? 早く洗面所から出てってくれないかな?」
「えー? もうちょっと見てようかなぁーって思ったんだけど…… ぷふっ! すりガラス越しでも意外と分かるものね」
な、な、何を言ってるの!? 何の事…… 何? 何ってナニ…… いや、すりガラス!? えっ? み、見えて……
「ちょっと! で、出てってよ!」
「ふふふっ、はーい! ……しっかり洗うのよ? リビングで待ってるからー」
うぅ…… もうヤダぁ…… 真野さんのエッチ! ……いや、ビッチ!
仕方ないから俺は大人しく身体を洗うことにした。
また覗かれても嫌だし、気になって集中出来ないから諦めた。
ただ、いつもより少しだけ念入りに身体を洗ったのだが、別に何かを期待しているわけじゃないぞ? うん……
「長かったねー? ……スッキリした? ふふふっ」
「うん…… うん? スッキリ……」
待て! ここで『スッキリしてない』と答えると、ちゃんと身体を洗ってないように聞こえるし、『スッキリした』と答えると…… 別の意味に捉えられてしまう!
これは真野さんの巧妙な罠だ! 引っ掛かる所だった……
「ふーん…… まあいいわ」
ソファーに座っていた真野さんはそう言って、身体を少し動かしてもう一人座れるだけのスペースを空けた。
そして空いたスペースを手でポンポンと叩いて
「とりあえずこっちに来て座ったら? 一緒にテレビを見ましょ?」
えっ? ……いや、二人掛けのソファーだし、身体のデカい俺が座ったら窮屈になるから。
「狭いから俺は床でいいよ……」
「いいから、はーやーくー!」
更にボフボフとソファーを叩いて俺に座らせようとする真野さん……
あまりボフボフやられるとうるさいし…… し、仕方ない……
「わ、分かったから…… 夜も遅いし静かにしてよ……」
「ふふふっ、さっさと座って、ほら!」
恐る恐る、真野さんに触れないように腰かけると……
「さっ、一緒にまったりテレビを見るわよ……」
ソファー座った瞬間、真野さんは俺に寄りかかるように身体を預けてきた。
さっき一緒に買ってきた物だと思うが、真野さんの髪からふわりと香る、嗅ぎ慣れない良い香り……
心臓がバクバクしているのを悟られないよう、俺はテレビの画面だけを見つめ続けた。
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