第17話 一歩前進!!


 鍛練場から、宮殿の一室に場所を移す。


 今日はいろんなことがありすぎて、疲れた暁東シャオドンくんは途中で眠ってしまった。

 残念ながら、まだ姉弟は無罪放免とはならない。今回の件が解決するまでは、宮殿に留め置かれることが決まった。

 しかし、仔空さまの特別なはからいで、留置場ではなく(監視付きではあるが)別室に滞在させてもらえることになった。

 玲玲リンリンさんがリーさんのことをすごく心配していたから、「僕が付いているから、大丈夫です!」と言っておいた。

 

 椅子に座っているのは、腕組みをした仔空さま。そして、雲竜さん。

 後ろには、浩宇ハオユーさんが控えている。

 通常であれば、従者はみな主の前では立ったままなのだが、雲竜さんはおじいちゃんだから椅子に座ることを特別に許されている。

 雲慶さんは、今は刑部の取り調べに協力していて不在。

 僕は、狸さんの隣に立っていた。


「さて、おまえの処遇だが……」


「今回の件は、すべて私の一存で行ったこと。私は喜んで罰を受けますが、あの姉弟は関係ありません。何卒、お慈悲を賜りますようお願い申し上げます」


「仔空さま、狸さんたちを許してください! 許してもらえるなら、僕は何でもします!!」


 掃除だって、肩もみだって、僕ができることであれば何でも!

 だから、お願いします!!


「おまえがそれほど肩を持つのは、この者が善良なあやかしだからか?」


「狸さんは、優しいあやかしなんです。今回の件も、玲玲さんたちを救うためにしたことです。それに、魂が抜けてしまったのは一度に大量の蝋燭を使用したからで、狸さんのせいではありません」


 せっかく狸さんがわざわざ効力を弱めているのに、一度にたくさん燃やしたから効きすぎてしまったのだ。

 おそらく昏睡状態になり、魂が抜け出てしまったのじゃ!と雲竜さんも言っていた。


「雲竜は、どう考える?」


「畏れながら、儂もこの者を処罰するのは反対でございます。罰するのではなく、任務を与え国のために働いてもらうほうが余程有益かと愚考いたします」


「ふむ……」


 仔空さまが考え込んでいる。

 皇帝に対する反意ありと認定されたら、最悪の場合は処刑もあり得るのだ。

 でも、狸さんにそんな気持ちは一切ない。あれば、すでに皇帝は呪い殺されていたはず。

 だって、彼はそれを実行できるだけの妖術を持っているのだから。

 何かもう一押し、助命してもらえるような決め手がないだろうか。


「あの……」


「なんだ?」


「狸さんに、皇帝の魂を持っていると思われるあやかしを探してもらうのはどうですか?」


 半妖の僕より、妖気を感じ取る能力は高いはず。

 自分で自分の尻拭いをすることで、罪を許してもらうのだ。


「僕と違い、狸さんは『タヌキ』の姿にもなれますから、夜に宮殿内を捜索していても目立ちません」


 白い毛は、僕と同じように黒に染めたら闇に溶け込めるし。

 なかなか名案だと思うけど、いかがでしょう?


「たしかに、あやかしの捜索は、あやかしのほうが適任だな」


「あの姉弟の処罰を免除していただけるのならば、今夜からでもやらせていただきます」


「畏れながら申し上げます。そのまま逃亡される恐れは、ないのでしょうか?」


 浩宇さんが、もっともな懸念を口にした。


「……彼女たちの命が掛かっているのだ。おまえは、そのようなことは決してしないな?」


「もちろんです」


「もし狸さんに逃げる気があったなら、とっくに逃げていますよ」


 半妖の僕と違い、狸さんは正真正銘のあやかしだ。

 妖力だって強いし、動きは本当に素早かった。

 彼が本気を出せば、護衛官たちだって太刀打ちはできないだろう。

 ねえ、狸さん?


「私は、武力を行使することはあまり好きではない。それに、そんなことをしてしまったら……」


「玲玲さんや暁東くんを怖がらせてしまうし、下手したら嫌われてしまうかもしれないですもんね?」


「その通りだ」


 だから、僕もいざという時にしかこの力は振るわないと決めている。

 家族から怖がられたり嫌われたりしたら、もう立ち直れないからね。


「だから、心配しなくても大丈夫ですよ!」


「そ、そうだな……ハハハ」


「そ、それは良かったです」


 ん? 仔空さまと浩宇さんの顔が引きつっているけど、どうしたんだろう?

 雲竜さんも、珍しく苦笑いを浮かべている。

 まあ、とにかく、狸さんには頑張ってもらって、一日も早く見つけ出してもらいたい。

 

 僕は狸さんへ、あやかしの特徴を伝える。

 皇帝の魂を持っているのは、茶色の毛並みの妖狐で間違いないだろう。

 妖狐のときの仔空さまが、その姿だったからね。

 双子はお互いの影響を受けやすいから、それで仔空さまも妖狐の姿になっていたと思われる。


 狸さんは、さっそく出かけて行った。

 彼は、姉弟の罪を許してもらうために。僕は魂を返してもらうために全力をつくす。


 こうして、僕たちは力強い協力者を得て、解決に向けてまた一歩進んだのだった。


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