第13話 金に物を言わせてみた
僕たちが訪れたのは、異国の商品を取り扱っている商店。
異国情緒溢れる店の中は少々薄暗いけど、見ているだけでうきうきした気分になってくる。
その中に、一風変わった品々が並んでいる一角があった。
掛け軸に描かれているのは、動物や魚などの様々な生き物。でも、すべてに『人の足』のようなものが付いている。
それが、墨で黒く塗りつぶされていた。
「足を塗りつぶすくらいなら、最初から描かなければいいのに……」
「……『
突然ぬらりと現れ僕のひとりごとに答えてくれたのは、恰幅のいい中年のおじさん。
この店のご主人さんだ。
「なるほど! そういう意味があるんだ」
これも願掛け商品なんだと納得。
「こちらを部屋に飾っていただきましたなら、相手から弱みを見抜かれることはございません。『足下を見られない掛け軸』、おひとつ如何でしょうか?」
「……店主、『足下を見られない』ではなく、正しくは『足下を見る』ではないのか?」
「ホッホッホ……まあ、そうとも言いますな」
仔空さまがやんわりと間違いを指摘したけど、全然気にしていないみたい。
たしかに、子供が間違った言葉を覚えてしまったら困るよね。
僕が次に目を留めたのは、木彫りの小さな人形たち。それにしても、めちゃくちゃ数が多いな。
全員が両手を上にあげているのは、なぜだろう?
「さすが、お目が高い! これは、商売繫盛の置物なのです。この人形たちは千名のお客様を表していまして、それが一斉に
「まさか……『
「正解です!! お客様の従者だけあって、なかなか優秀な方ですな。いやはや、わたくしは感服いたしました」
『千客万来』ならぬ『千客万歳』とは、面白い!
この人形を店に千体置いたら、本当に商売繫盛しそう。
仔空さまは呆れたような表情をしているけど、僕は楽しくなってきたぞ。
「店主さん、では、こっちの底が抜けた茶器───」
「坊ちゃま、そろそろご用件をお願いいたします」
「でも、なんで底が抜けているのか気になるから……」
理由を聞いておかないと、夜しか眠れないかも。
「……ご用件を」
後ろから、ものすごい圧を感じた。ちょっと怒っている?
仔空さまが怖いから、絶対に顔は向けないでおこう……
気付かないふりをしていたけど、やっぱり無理だったか。
あれもこれも気になる品がたくさんあって、まだまだ質問をしたかったのに残念だ。
「まあ、『信じるも
「それを言うなら、『当たるも八卦、当たらぬも八卦』だろう!」
僕が突っ込む前に、仔空さまが素早く突っ込んでいた。
◇
「実はね、僕は『願掛け蠟燭』を買いに来たんだ。この店の蝋燭は、他の店の物より効力があると聞いてね」
つい忘れてしまいそうになったけど、今日の目的はあの蝋燭の出所を探るためだ。
調書によると、この店で蝋燭を作っているのではなく、客と製作者の仲介をしているのだとか。
「あの蝋燭は、うちの人気商品なのですよ。少々値は張りますが、それだけの価値がございます。ただ、職人が一人で製作をしているようで、現在多くのお客様にお待ちいただいている状況でございまして……」
「その職人さんって、どんな人? どこに住んでいるの?」
「わたくしは、会ったことはございません。店には使いの者が来ますので、どこに住んでいるのかも詳しくは……工房が、都の外れにあることくらいしか存じません」
「今日頼んだら、いつ貰えるの?」
「今ですと、ひと月ほどは掛かるかと」
ひと月か。
後ろへ視線を送ったら、仔空さまが小さく頷いた。
「金を、通常の十倍払う。それで、納期を早めてもらうことはできるのか?」
「あの……かなりの金額となりますが、よろしいのですか?」
「心配は無用だ。必要ならば、今日支払う用意もある」
仔空さまが懐から取り出したのは、金の入った巾着袋。
結構重たいから「僕が持ちますよ?」と言ったら、「おまえは、うっかりどこかに落としそうだから駄目だ」と真顔で言われた。
いやいや、あんな重たい物だよ? 落としたら大きな音がするだろうし、さすがの僕でも気づくと思うけどな。
「そ、即金で頂けるのであれば、最優先で製作するよう使いの者へ申し付けます!!」
「では、よろしく頼む」
すんなり話がまとまって良かった。
蝋燭を待っている他のお客さんたち、僕たちが後ろから割り込んでしまってごめんなさい。
でも、国の一大事だから許してね。
「使いの者は、次はいつ来るのだ?」
「明日、納品に来ますので、その時に皆さまの願掛けをまとめて渡します。もちろん、お客さまのは早急に製作するよう伝えますので、ご安心ください。四日後にまたご来店いただければ、お渡しできます」
僕は、手渡された紙に願いごとを書いた。
何を書いたのか?と仔空さまから聞かれたけど、秘密です!
これを封書に入れて閉じる。職人以外には、願掛けの内容は見られないようになっているようだ。
まずは、作戦の第一段階が無事に終了した。
もちろん、僕はただ店の商品を見て楽しんでいただけではない。
きちんと確認をしたところ、店の中に妖気を感じるような怪しげなものは何もなかった。
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