第6話 捜索した結果……


「これで、西側も終了っと」


 額の汗を拭うと、僕は腰に下げている瓢箪で水を飲んだ。

 毎日毎日外廷の捜索を続けた結果、西側にも呪物は置かれていないという結論に達した。雲竜さんたちの捜索結果も同じ。

 となれば、置かれているのは残された北側しか考えられない。

 

「後宮か……」


 しかも、上級妃や中級妃たちが住まう場所に限られる。

 なぜなら、それ以外の場所は僕が見回りをしていたから。

 新入りの僕が任せられていたのは、下級妃たちの場所だけ。それ以外のところは、別の宦官たちの担当だった。


「う~ん、これは困ったな」


⦅何を困っているんだ?⦆


「ワァ!! 仔空さまでしたか。急に現れて、驚かさないでくださいよ」


 しんぞうが、口から飛び出るかと思ったよ。


⦅おまえが一向に戻ってこないから、浩宇ハオユーがヤキモキしているぞ⦆


「あっ、すみませんでした! いつの間にか、日が暮れていたのですね」


 夢中になっていたから、全然気づかなかった。

 早く戻らないと、執務の続きができないもんね。

 妖狐になった仔空さまが、僕を探しに来てくれたようだ。

 お手数をおかけしました!

 

 とりあえず、僕は急いで私室へ戻った。



 ◇



⦅それで、さっきは何を困っていたんだ?⦆


 いつものように二人の執務を手伝っていた僕へ、仔空さまが先に声をかけてくれた。

 執務のキリがついたら、僕から話をしようと思っていたんだけどね。


「呪物の置かれている場所が、どうやら後宮のようなのです」


⦅……それは、確かなのか?⦆


 仔空さまの顔が険しくなる。浩宇さんの顔も引き締まった。


「外廷は、すべて捜索しました。あと残されているのは、後宮の一部だけです」


⦅『一部』とは、具体的にどこだ?⦆


「僕が見回りをしていたのは、下級妃がお住まいのところでした。ですから──」


⦅おまえの目が行き届いていない場所、ということか⦆


「上級妃、もしくは中級妃の宮がある場所……」


 さすが仔空さま。そして、筆頭補佐官の浩宇さん。

 最後まで言わなくても、僕の言わんとしていることが二人にはわかったみたい。


⦅でも、なぜ困るのだ? おまえは宦官だから、後宮にはいつでも出入り可能だろう?⦆


「該当の場所を、新入りの僕が見回ることはできません。宦官たちに顔も知られていますし」


 それなりの身分の方々の宮があるところだから、新参ではなく古参の宦官たちの担当になっているんです。


⦅なるほど。そういう事情があるわけか……浩宇は、なにか良い策はないか?⦆


 僕が仔空さまの言葉を伝えると、浩宇さんは少し考えたあと口を開いた。


鼬瓏ユーロン君は、そこそこ腕が立つそうですね? だから、新参ながら見回りの担当になった」


「はい」


「髪を染めて、別人として後宮へ潜入するのはいかがですか? 信頼の置ける人物からの斡旋で、かなり腕が立つ者だと紹介状を偽造します」


⦅それで古参連中が納得すればいいが……⦆


「そうして頂ければ助かります。僕としては、他の宦官に正体を気付かれずに捜索ができればいいので。あと、単独行動ができるようにだけしてほしいです」


 二,三日もあれば終わるだろう。

 それまでの間、別人として後宮内に滞在できればいいのだから。

 

 最終的に仔空さまから許可が下りたので、さっそく手続きを進めてもらうことが決まった。


⦅では、残された問題は一つだけか⦆


「残された問題?」


 何かありましたっけ?


⦅あるぞ、大きな問題がな⦆


 仔空さまは自信満々に豪語したけど、僕には何のことかさっぱりわからない。


⦅それは『(おまえが)どんなに見目を変えようとも、喋ればおまえだとすぐに気付かれてしまう』ことだ!⦆


「……はい?」


 長い理由を説明された。

 見た目が変われば、そんな簡単に気付かれることはないと思うけど、いったいどういうこと?


⦅ハハハ……やはり、気付いていなかったか⦆


 仔空さまいわく、僕の喋り方はいろいろと独特なのだとか。

 話す速度。発音や発声の仕方。言葉遣い……

 数え上げればキリがないらしい。

 浩宇さんに話したら、彼も「たしかに、仔空様のおっしゃる通りですね」と大きくうなずいている。

 どうやら、気付いていないのは僕だけだったようだ。


⦅これは、練習で身につけていくしかあるまい⦆


 仔空さまが⦅俺が直接指導する!⦆と、ものすごくやる気になっている。

 僕としても鼬瓏だと周囲に知られては困るので、ここは全面的にお任せしようと思う。

 

 こうして、僕は仔空さま指導の下、別人になりきるための特訓を受けることになった。


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