【混沌】混沌、平安時代に引き摺り込まれる
「よっし。それじゃあ始めますかねー」
読み通り
「【観測者】に宝貝作らせなきゃいけないわけだし、神力は多めに設定しといたほうがいいよねー。となると4つは動作を止めて1つに力を集中させるか」
とりあえず通常の5倍の力を持つ観測者に、宝貝の作成を命じてみたけどやっぱり結構ごっそりと容量持ってかれるなー。これだけで残りは1割くらいか。
無理に他の条件いれる必要もないけど、余った以上はそのままってのも、もったいない。なんせいつもの感覚ならまだ半分残ってる状態だしね。
ま、この神力量なら距離や時間の単位と暦くらいは世界で揃えるように動いてもらうかな。
「――よし、それじゃ稼働!」
大体1回のシミュレーションは10分程度で終わるし、うまくいかなかったらすぐ次に移ればいいだけだよねっと。
*
8分ほど経過――
気楽に見守ってた目の前の球体が黄色に染まり、警告の文字が画面いっぱいに広がる。
「え……? なにこれ。こんなこと今まで1度も」
そんな事言ってるうちに黄色から赤へ。文字だけじゃなくビービー、ビービーやかましい警告音をかき鳴らす!
え、本当になにこれ。こんな機能がついてるとか知らないんだけど!?
助けを呼ぶことも出来ないしここは――――…………。
「…………よし、起きよう」
こういう場合は再起動しかない。1度起きてまた寝ればなんとかなってるでしょ。なってなきゃそりゃもうお手上げってやつだ。
がしッ――――
おやおや? なんか真っ赤に染まった球体から黒い腕が延びて腰をロックしてるだけど? そしてそして~? なんか球体の方にズルズル引き摺られてるんですけど~?
――――なんて、のんびり実況してる場合じゃないっての!!!
「ちょッ! なになになになになに!? 誰か助け――――」
いや、助けなんて来るわけないってわかってるけどさ! こういうホラーな展開は安全圏にいるからこそ楽しいんであって自分の身に降りかかるのは――――
*
「へぶぅ――!!」
痛い痛い痛い痛い! マジで痛い!!
腰をロックされた上に伝わるこの後頭部の痛み、さらには肩を地面に押し込まれてる感触。考えられるとしたらジャーマンスープレックスホールドだなこれ、いや食らったことはないから確かなこと言えないけど。
てゆーかほんと洒落にならないくらい痛い! とにかく今は回復の術を使って痛みを取るのが最優先。
「えーと? 大丈夫……?」
え、誰かいるのかい。
声の方に目をやると、曇り空を背に心配そうに見下ろす人間の姿。
顔は中性的で目は大きくツリ目がち。男性、女性どちらとも取れるけどポニーテールにした髪を黄色いリボンで纏めてるから女性か?
黒を下地とした着物は肩口に灰色の雲の刺繍がされ、そこから下方に稲光が走っている。派手な柄の上着とは対称的に袴は淡い黄色で柄はない。
「ええ、無問題です。大丈夫じゃないとしたらただ1つ――」
がっちりとホールドされ、Tシャツがめくり上がったこの状態で下半身に伝わる圧倒的な開放感。
「どうもお見苦しいものをお見せしてしまってるようなので、ショーツの1枚でも頂けたらってとこですかねー」
寝た時の服装そのままで仮想未来に引きずり込まれたことで初めて出会う人の前で醜態さらしてるってことだよね。
……よし、戻ったらこの世界は消そう。そのためにもまずは無事に戻るため、エラーの原因を調べないと。
「しょーつ……?」
ははーん? キョトンと小首をかしげるその動作、さてはこの人も穿いてないな?
着物の訳だし時代的にまだ普及してない頃か。
「えーと……。つかぬことお伺いしますけど、ここってどこですか? ついでに何年かも教えていただけると助かるんですけど」
ジャーマンスープレックスホールドから抜け出して質問。
明らかに町中の路地にいるのにここがどこかもわからないとか怪しいにもほどがある。そんなことは百も承知だし、どこぞの空間から引っこ抜かれるの見られてただろうし今更知ったことかっての。それよりとにかく情報収集しないと。今わかってるのはこの人間が話してるのが日本語ってこと。なんで観測者が海をわたってるのかは知らん。
「平安京の東市の外れよ。何年かと言われると……私の生まれが
おう全く聞いたこと無い暦出すのやめろや……。そりゃ、大化とか応仁とか言われてもピンとこないだろうなとは覚悟してたけどさー。それにしても2009年で平安京?
「えーと、鴻鈞暦……ですか? それっていつから使われてるかわかります?」
「たしか昔大陸にあった【殷】っていう国を滅ぼした【周】って国の王様が、力を貸してもらった鴻鈞道人っていう偉い仙人様を称えて建国1年目を鴻鈞元年って定めた……とかそんな感じ?」
仮に観測者が忠実に封神演義のロールプレイをしたとするなら、殷が滅ぶのは西暦なら紀元前1050年くらいでいいのかな? そこから逆算して960年くらい。割と派手に手を加えたつもりだけど、日本の時代とかはそのままなんだな。
そもそも誰だよ鴻鈞道人ってやつは。そいつせいで年号がややこしく―――って私じゃん! 宝貝作って配るだけってはずなのにガッツリ戦争に関わってたのかこいつ……。もしかして今ここにいるの大陸にいられないからか?
睨みつけた私の視線を避けるようにふいと顔を背ける観測者。安全な結界の中から世界を観測してるだけでいいのに、なに積極的に首を突っ込……んで……。
「?」
いやいやいやいやいやいや、おかしいおかしい。え、何で? この世界の観測者の持つ神力は普段の5倍、その分張られてる結界も普段より遥かに強力。
これだけの密度の結界なら
――じゃあ今ここにいるこいつはなんやねん?
おいおい、人畜無害そう顔してるけど、こいつとんでない化け物か? あの警告音とエラー画面は間違いなくこいつのせいじゃん。ってゆうか真っ先に疑うべきだったじゃん。何探偵気取りで聞き込みしてたんだ私。
かたかたと小刻みに震える私の左肩を【観測者】の手ががっちり押さえつける。
「私がここで何をしていたかとのことでしたが、それにつきましてはこちらの上司から説明させていただきます」
え、喋った? てゆうか丸投げ? 上司からだけじゃなくて観測者からも丸投げされるんかい。
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