【KAC2024】巻き戻し探偵神宮寺那由多は巻き戻す 死神の手を離す

白鷺雨月

第1話 死神の手を離す

田沢ゆかりは手をつないで歩いていた。

見上げるとその女性の顔はまったく知らない人物であることに気づいた。

この人はママじゃない。

さっきまでママと一緒に歩いていたのに。

「君が悪いんだよ。私は仕事で君をあるところに連れて行かないといけない。そこにはゆかりちゃんのお婆ちゃんがいるから安心するといい」

赤い髪の女の人はそう言った。

その赤い髪の人はゆかりと手をつないで歩く。


お婆ちゃんにあうのは久しぶりだなと思った。ママに連れられて病院に行ったときぶりだ。

「ねえ、ママは? パパは? ゆかり明日から小学校に行くんだよ」

ゆかりはきいた。

せっかくお婆ちゃんに会えるのなら、ママとパパも一緒にきたらいいのに。

ゆかりはそう思った。


赤い髪の女は首を左右にふる。

「ママもパパもここにくるにはまだ早いんだ。お婆ちゃんと一緒に待とうね」

そう言い、赤い髪の女はゆかりを連れて歩き出す。

ゆかりはママにもパパにも会えないなんて嫌だと泣いたが、赤い髪の女は手を離してくれない。

「ゆかりちゃん、仕方ないんだよ。君がママの言うことをきかないから、ここに来ることになったんだよ」

その女はそう言い、さらに歩きだす。


その時、ゆかりのもう一つの手を誰かが握った。

「すまない、死神エルザ。この子は返してもらう」

その声は神宮寺那由多のものだった。

「那由多、また仕事の邪魔をするのか。あまり人の運命に干渉するのはよくないぞ」

あきれた口調で死神のエルザは言った。


「さあ、ゆかりちゃん。ママとパパのところに戻るよ」

神宮寺那由多がそう言うとスカジャンのポケットから銀の懐中時計を取り出す。時計の針がぐるぐるとまわりだす。


ゆかりが気がついたときには、赤い髪の女も那由多と呼ばれた女もいなくなっていた。

大好きなママと手をつないで信号が青に変わるのを待っていた。

「手をはなしちゃだめよ」

ママがそう言うのでゆかりは大きな声で返事をした。

「うん、ゆかりもうママの手を離さない」

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