Chapter16 帰省
「きゃははっははははっはは!!!」
八月に入り蝉が賑やかに鳴く。それに混ざりデーブルに置いたスマホから、割れんばかりの大爆笑が響く。もちろん、かのん様だ
相変わらず俺と零はその声に驚いて、のけぞってしまっていた。
俺は幽霊が視えるかのんに、佐倉家に出る座敷わらし(仮)の映像を見せたのだ。
するとこのリアクションである。
「ひぃーーーっっ!!! かわいいぃぃっっ!!!」
待て! 可愛くてこんな大爆笑なのか?? もう箸が転がって腹筋崩壊するレベルだな。彼女の笑いが落ち着くのを待って質問してみた。
「かのんが言ってた“もう一人”ってこの座敷わらしの事か?」
「そうそう! やっと出て来たね~この抱っこ人形や他のおもちゃで遊びたくてうずうずしてたみたいだけど、零に懐いちゃうとは! まさか……颯ちゃんと気が合うとはねへへへっ。へへへ…………」
形容しがたい笑いが始まってしまった。
えー……笑いがおさまった彼女に聞いたところ、俺とわらしの波長が合うらしく、それで俺は見えたらしい。ただ、それが一時的な物か永久的なものかは分からない。
座敷わらしは現れた家に富や幸運をもたらすと言われている。なので『大切にしてね♡』と言う事だ。
あれ? 呪物が禍々しくないのだが……そう言えばかのんが押入れから出した呪物は、こどもが遊べるようなおもちゃが多い
「かのんさん? まさかこの呪物達って……」
「そうだよ? わらしちゃんの遊び道具」
「えっっ!
「まぁ曰くつきだったけど……禍々しさが消えちゃったね。零のじいちゃんが大切にしてたから毒気が消えちゃったのかもね。はははっ!」
なんちゅーこった! 初日にかのんが念押しの確認をしたのはこの為か……
「まだニャンコ達とは仲良くなっていないみたいだね。まぁ、すぐに仲良くなっちゃうか!」
はぁ……怖くないけど……不思議な物が見えて大収穫か……しかし、わらしは見えても猫達は見えない。エロ怪異と同じ波長ってなんか複雑。
「教えてくれてありがとう。わらしともうまくやってけるよう頑張るよ」
「うん! 楽しみにしてるよ~。じゃあね~」
通話が終ると蝉の声が大きく聞こえた。
新しくチャンネルに仲間が増えたので零にイラストの見積もり依頼をしよう……収益化通るまでコツコツ頑張るぞ!!
するとテーブルに置いたスマホの画面が光った。おや? 大輝先輩からのメッセージだ。トークアプリを開きメッセージを確認する。
『お疲れ。盆休みの初日にそっち行ってもいいか? 仏壇の掃除だけしたくてな』
そうだ! 夏季休暇中はお盆と被る。家によってはご先祖様も帰省するのだ。佐倉家もそうらしい。
幽霊騒ぎで先輩夫婦は、奥さんが持っているマンションに避難するのが急だった為、大きな仏壇や遺影は運び出せず、徐々に運びだし、時々来ては管理する予定だったらしい。
しかし実際の所は零が毎日お供えしたり線香を上げていた。これもお祖母さんが、やっていた習慣を受け継いだらしい。
大輝さん曰く、法要も無いから休暇中も家を利用してもらって構わないと言ってくれた。ありがたいけどホントに良いのかな?? 俺はお盆に大輝さんたちが来ることを零に知らせると顔を曇らせた。
「颯太は実家に帰るの?」
俺も本来なら泊りがけで県外の実家に帰省するのだが、今年は見送ることにした。本来は帰って線香の一本でも供えて挨拶したほうが良いのだが。母ちゃん、ごめん。今年はこの子の傍に居たい。
「今年はここに居ようと思って。法要も無いし実家は兄貴家族が住んでるから、にぎやかで寂しくないだろうし」
「どうしよう……かのん達も帰省しちゃうからお店に避難できないな……ホテル借りようかな?」
「この時期ホテルの予約とれるか?」
「混んじゃうか~。二階に潜んでもいいけど私の部屋は万が一に入ってくる可能性が有るからな……」
「む~……俺が使っている部屋ならあの二人入らなそうだよな?」
「そうだね。颯太に貸しているし、あの二人は許可なく覗こうとしたりしないかも」
「俺の部屋に隠れてる? エアコンも付けておけるし、いざとなったら布団の中にでも隠れれば……」
―――はっ! 俺の布団だなんて
「颯太の布団……」
と言う事で、お盆期間中零は俺の部屋に隠れる事になった。佐倉家は先輩夫婦と零だけらしいので訪問客もいないだろうと言う事だ。
「お兄ちゃん達には、大学の友達の家を旅行しながら渡り歩いてるってメールするよ」
「いいのか? もしかしたら大輝さんや陽菜さんに打ち明けるチャンスだぞ?」
「確かにそうだけど……お兄ちゃんに悲しい思いさせるより自然消滅狙った方が平和だから」
彼女は悲しそうに笑った。言えない事も苦しいけど、言って悲しませるのも苦しい。そんな表情だ。八方塞がりで時間が解決する事に賭けている。
「わかった。でも、どうにもならない時は相談しよう。それだけは約束してくれ」
「うん。わかった」
俺の不安に反応するかのように、蝉の声はいつの間にか止んで雨が降り始めた。
ひっそりと息をひそめて、夕立が過ぎるのを待つかのような零が、雨雲と一緒に消えてしまわないか不安だった。
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