Chapter13 新入リ

 猫達が慌てて走っていたのだろう。猫のおもちゃが定位置からだいぶ離れた和室の入口に転がっていた。

 

 俺はそれを拾い和室に入ると今までない異変を感じた。テーブルの上に置いてあった呪物こと抱っこ人形が床に落ちていた。

 猫達は今までどんなに暴れてもテーブルの上のものには触ってこなかったが……とうとう呪物で遊びだしたのか? それとも猫以外?


 俺がテーブルの上に置いてあったカメラを手に取り観察するようにその抱っこ人形の撮影を始めた。よく見ると人形の髪に着けられてたリボンがほどけている。一通りカメラに収めた後人形を手に取った。


「あれ? リボンが解けてる……しっかりと結んであったんだけどな……」


 そう言って彼女はリボンを結び直してくれた。


 俺は昨晩の呪物が並んだテーブルを撮影していたスマホの映像を再生する。

 すると……あーーーっ!!! 映ってる!


「零! 見てくれ!! 子供の霊が映っている!!」


 零も驚きスマホを覗くが……リアクションがかんばしくない。


「ほら! 今映ってる! 座敷童子みたいなの!!」

「……ごめん颯太、何も映ってないよ?」


 え?


 映像には猫達が驚いたで有ろう音の後に、着物を着た3歳くらいの透き通った子供が映っていた。

 何というか……座敷童子っぽい。俺にだけ見えているのか?

 俺の見間違い?


 部屋を見渡すと白いもやのような物が仏間に続く襖の隙間から見えた。

 俺は目を凝らして睨むように見ると、白い靄は輪郭を得る。

 あの動画に映っていた子供だ!


「へっ!? 視える……」

「わらしちゃんが?」


 わらしちゃん……座敷童子は俺達と、猫のおもちゃが有る辺りを見ている。猫が怖いのかどこか困っている。こちらの部屋に入りたくても入れないと言った感じだ……


「あぁ……“ちゃん”じゃなくて“君”だな……」

「えっ男の子なの?」


「そうだ……今仏間の襖の陰からこっちを見てるんだが……猫が怖くてこの部屋に入れないらしい」

「あー……猫ちゃん達にまだ慣れてないか」


 すると何を考えたか、零は襖の前にぺたんと座って両手を広げた。そして優しく笑って彼に向かい話しかける。


「わらしちゃん、怖くないよ? おいで」


 確かに猫達より零の方が親しみやすいかもしれない。

 わらしは零の行動に驚きながらもゆっくりと彼女に近づく。


 何か悪さするならすぐに塩を撒いてやろうと思ったが……そのような不穏な動きは無かった。小さい子供が母親に甘えるようにわらしは座る零の膝の上に乗り彼女に抱きついた。ほっこりする絵面じゃないか!


 しかしそのほっこりは音を立てて崩れた。


 あろう事か大胆に零の胸に顔をうずめている……羨ましすぎる。


 いや、落ち着け! 相手は座敷わらしだ! だが、その埋もれ方は邪念が無いか? 煩悩にまみれては居ないだろうか?? お前、本当に姿と中身は合っているのか? 中身は大人とか無いよな? 否!!


「あああッ!! お前! それはライン越えだ!! 零から離れろ!!」


 わらしを持ち上げようとするが、彼の体には触れず掴めずで手は空振る。その間も楽しそうに埋まっている。……零はその自覚が無いのか、きょろきょろと自分の体と俺の顔を見ている。


「わらしちゃん何してるの?」


 うっ!……『ぺえおっぺえに顔を埋めて幸せそうにしている』なんて言えない……


「そのっ……零の膝に乗って……抱きついてる!!」


 彼女も自分の胸元を見て驚くが……少し考え込んで俺をさとす。


「わらし君は小さいでしょ? それくらい普通じゃない。そんな大声出されたら驚いちゃうよね?」


 そう優しくわらしに話かけると、彼はキャッキャと嬉しそうに笑い、俺の方を向くとあっかんべーをして羨ましいだろと言わんばかりに零の胸に頬擦りしている。しかもその手つきは……お前! 柔らかいだろ? 柔かいだろうなぁ!


「???……なんかくすぐったいかも? 甘えん坊だなぁ〜。いいなぁ! 颯太は視えて〜」


「くうっ〜零の母性を逆手に取って!! 零! そいつただのエロ怪異だ!! ぶふっ!!」


 俺の顔にぬいぐるみが直撃するこいつ〜!! 何こいつ! ポルターガイストも起こせるの??


「わぁ……ぬいぐるみが飛んだ……ほら! 大声出すから驚いたんだよ。怖かったね〜。よしよし」


 零よ……甘やかすな……。

 わらし、お前がそんな態度ならこちらにも考えが有る。俺は猫じゃらしを手に取り猫を零に誘導するように向けると、わらしは猫に驚いて零から離れた。猫達の猫じゃらしに対する情熱にお前は勝てまい!!


 ふふっ! 悔しかろう!!


 わらしに勝利の笑みを浮かべながら猫じゃらしを振っていると。


 ―――つん。


 何かに当り猫じゃらしの動きが止まる。

 えっ? 猫じゃらしの先を辿ると……それは零の胸に当り止まっていた……


 はぁぁぁぁぁっっ!! 思わず息を呑む!!


「 ご、ごめん!!」


 顔を赤くして恥ずかしそうに零は俺を睨んで一言つぶやく


「颯太の助平……」


 彼女はひらりと和室から逃げていった。

 アアアアッ!! やってしまった……

 わらしはそれを見てキャッキャと笑っていた……俺が項垂れると猫達がここぞとばかりに俺に乗って来て頭と肩が重くなった。


 ごめんなさい、反省します……


 こうしてまた新しい住人が増えるのであった。

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