Chapter21 直対

『青山さん、先日は家に入れてあげられなくてゴメン。俺達の今後について話したいことが有るから、明日の夕方時間取れるかな? 会社最寄駅近くの喫茶店で会いたい』


 青山さんは家に来た翌日も会社を休んでいたので、俺はこのようなメッセージを送った。秒で既読が付きスタンプとメッセージが届く。


『やっとわかってくれたんですね? もちろんです!』


 ◇ ◇ ◇


 当日、彼女は出社してきた。そして何事も無かったかのように平然と業務をする。

 俺は彼女とは業務以外の話はせず極力距離をとった。


 定時になり青山さんを見ると彼女はこちらを見てにっこりと微笑んだ。

 可愛いのだろうが今の俺には悪寒が走る。


 いや!怯えるな!!気持ちを強く持たねば!!


 俺はこの後、彼女と決戦をする。


 俺は会社を出て指定した喫茶店に入り席に着いた。アイスコーヒーをオーダーしてそれが届く頃、通勤服に着替えた彼女が遅れて店に到着し席に着く。


「先輩。お待たせしました」

「同じものでいい?」


 彼女は短く「ええ」と答えたので彼女のアイスコーヒーをオーダーした。

 彼女の飲物も届き、話し始める前に落ち着くために一口飲む。

 緊張して味が分からん!!


「やっぱり心配してくれた」


 彼女は嬉しそうに俺を見てアイスコーヒーを一口飲んだ。うっとりとしながら俺を見ている。あんなことが無ければ可愛いのだが……では直接対決しますか。


 対よろ《対戦よろしく》!


 俺は先手を打って話し出す。


「青山さん、告白してくれた事なんだけど……」

「先輩、あんな家に居ちゃダメです! 引っ越しましょう? 私の家に来てください」


 は!? 話を聞いていない! 彼女のペースに乗せられてしまう。

 だが俺も彼女の話を無視して話し続ける。


「ごめん、青山さん。俺、君の気持には応えられない」


 俺はある作戦に出る事にした。


 作戦名は「俺、蛙化計画」


 ふとした行動でカッコよさのメッキが剥がれ王子様が蛙になってしまうというアレ。

 だが些細な行動でメッキを剥がすには遅すぎる。俺は速攻で彼女に嫌われたい!

 なのでてっとり早く彼女の嫌いな物事について熱く語り出した。


「俺……心霊やホラーが大っ好きなんだ!!」


「……は?」


 彼女は心霊や怖い物が嫌いだ。彼女はいきなりのことで理解が追い付かず、素の低い声が出ていた。俺は気にせず淡々と語る


「心霊やホラーが苦手な子に俺は向かない。だから諦めて欲しい」


「そ…そのくらい私耐えられます! 私先輩が好きだからそれくらい……」


 彼女は声が震えて声が段々と小さくなっている!心が揺らいでるぞ!! この調子だ!!


「心霊動画を見ないと落ち着かないし……最近は大体の動画を網羅してしまったから初心に返って日本の昔話にも手を広げているんだ。それに心霊スポットを探索したり調べるのも好きなんだ。それにお化け屋敷やホラー映画も大好物で……」


 俺は子供の頃からの宝物である書籍を取り出す。繰り返し読んでいたのでボロボロだ。

 それを見ると彼女は小さく悲鳴を上げた。それもそのはず、心霊写真特集の本だ!ちなみにこれを見て真顔の零の感想は、『颯太って、部屋を真っ暗にして冷房懸けて心霊特集番組を見るタイプだったでしょ?』だ。良く分かるな。


「これ見てると落ち着くんだ……青山さんも見る? この写真とかいい感じなんだよ」

「ひぃ……ヤダ……見たくない」


「それに俺あの家が好きなんだ……幽霊が出るらしくて。だから最近わざわざ引っ越したんだ」


 猫の霊がな! ちなみに今も俺の周りにいる。肩が重いので猫達も特等席で高みの見物と決め込んでいる様だ。いいだろう……飼い主の勇姿を見るがいい!!


「特に好きなレイがいて……家の中で俺を困らせて、それが堪らないんだ……」


 俺は零とのハプニングを思い出しながら語った。きっと変な顔をしていたのだろう。青山さんはドン引きしている。


「……キモっ……」

 

 はい、キモい頂きました! どうだ!! さすがに蛙化しただろう? 俺の演技もなかなかだ。……演技と思わないと『キモい』と言うワードに俺の心がブレイクする。


 気持ち悪い物を見るかのように俺を見ていた彼女。俺の背後の存在に気付き肩がびくりと跳ねその後震えだした。顔を青くして金魚の様に口をパクパクとしてる


「ご……ごめんなさい……もういきません……! いやっ……」


 そう言って彼女は店から出てってしまった。

 店内の客が俺を見る……気まずい! 俺は周りに軽く謝りコーヒーを飲んだ。

 俺は何もしていない。ただ話しただけ……


 すると背後から誰か近寄ってきた

 白いワンピースを着た零だった。髪をおろし血色の悪いメイクをしている……

 薄暗い店内ではさぞ怖く見えただろう。零は店員に一言話しかけた後、俺の向に座る。


「零ありがとう。これで諦めてくれればいいんだが……」

「どういたしまして。彼女、私を見てすごく怖がってたね。不健康メイクの知識がここで役に立つとはね」


 俺は安堵のため息を吐きコーヒーを飲みこんだ。


「手伝ってくれてありがとう。一人で外に出るの怖かっただろ?」

「怖かったけど……大切なボディーガードを守る為ならこれ位」


 彼女は可愛くウインクしてみせる。


「会社にも相談して彼女は夏休み明けから別部署に異動してくれる事になった」

「そう。せっかく入った後輩が居なくなるのは残念だけど、物理的に離れられてよかったね」


 青山さんから家の写真が送られたその日、佐倉先輩に相談したら上司に掛け合ってくれた。メッセージが動かぬ証拠となり俺の話を信じてくれたのだ。ただ彼女も勤務態度がいいから同じ事務でも配置転換してもらおうと言う事に。彼女に部署移動を近日中に打診してくれるとのことだ。


 会社の計らいでストーカーと言う理由は伏せて配置転換を進めてくれるらしい。俺も迂闊に連絡先やり取りしてはいかんと注意された。まぁ彼女としても、蛙化した俺とは近くに居たくないだろう。


「ところで好きな霊が居るって聞こえたんだけど?」

「へっ!?」


 そんなところも聞いてたの? 俺は咳払いをして言い訳をする。


「佐倉家の霊はみんな好きだよ。さて、夕飯食べて帰ろう。ご馳走するよ」

「じゃあ霊らしく憑いていこうかな?」


 ◇ ◇ ◇


 翌日彼女は上司に俺の事を相談したらしい。

 どうやら俺の近くに居たくないからどうにかならないかと。


 事前に俺の話を聞いていた上司も彼女からの話を快く引き受け配置転換を打診したら食い気味で了承したとのことだ。


 実は三ノ輪の話だと……新歓の夜色々話したそうで、彼女は俺の他にも気になる人がいて心が揺れていたらしい。次はそっちにアタックするんじゃなかろうかと情報をくれた。お……おう!お幸せに!


 こうして青山さんとの直接対決は幕を閉じたのであった。

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