Chapter 6 猫
この家に来てから撮った動画を編集してみた。
一本目は俺がこの家に来た経緯の説明と、『霊感が有る知人』から撮る取る事を勧められた呪物の紹介の動画。もちろん零の寝姿はカットしてある。
二本目は幽霊猫たちが戯れている動画。もちろん猫の姿は映っておらず音声だけ。どうやって猫のイメージを伝えよう?
悩みながら編集をしていると零がメールで何か送ってきた。本文には『よかったら使ってください』と書いてある。そしてファイルが添付されていた。
不思議に思いながらファイルを開くとそれはホラー漫画風の猫のイラストだった。
えええ!上手い!!
このテイストならイメージを崩さず怪音を表現できる。しかし彼女に猫の写真を送ってからそんなに経ってないぞ? 仕事がお早い! しかもご丁寧に背景まで透過されてる! 零様!?
感動しているとタブレットを持った彼女が二階から降りてきた。これは! 礼を言わねば!! 俺は和室から駆け出てキッチンで麦茶を飲んでる彼女の元へ向かう。
「零! 猫のイラストありがとう!! すっごくいいな。俺、あのテイストのイラスト好きだ!!」
零は俺に驚いたらしく
「面と向かって褒められると照れますね……そんなに喜んで貰えると思わなかったから嬉しいです。あのイラスト動画に使えそうでしたら使ってください」
何! この子! 天使!!
そう言えば、零の仕事って何やってるんだろう? 俺は浮かんできた疑問を彼女に問いかけた。
「なぁ、あのパソコンが“商売道具”って言っていたけど零って何者? 液タブ使ってるってことはイラスト関係の仕事?」
彼女は驚き、慌てふためきながら答える。
「……ええ。フリーランスのイラストレーターをしてます……」
あぁ、やっぱり! パソコンの周辺機器には詳しくないが、液タブを使う仕事ってイラストレーターか漫画家の印象が有った。
「それならイラストのクレジット表記はどうする? あとイラスト代も!」
動画を作るに当たり俺は著作権なども学んだ。それにあれだけのクオリティの物をタダで受け取るわけには行かない。今後も使わせてもらいたいので、ここはきっちりしなくては!
俺の言葉が意外だったのか彼女は目を丸くした。両手でタブレットを持ち、それに隠れるように悩みながらも、申し訳なさそうに答える。
「……じゃあ、概要欄に私のペンネームの記載をお願いしてもいいですか? 今回は私が勝手に描いたやつだからお代はいいですよ、ボディーガードの件も有りますし。もし次回正式な依頼もらえた時から見積もって請求しますね」
う~む……ありがたい申し出では有るが……俺の気がおさまらない。
「それは申し訳ないから……零が好きな食べ物ご馳走するよ。何か食べたい物有ったら遠慮なく言ってくれ!」
「ありがとうございます! じゃあ考えますね。 イラストを褒めてくれたり、そこまで考えてくれたりとても嬉しいです」
いやいや! 当たり前だろう……普段褒められていないのか? それとも謙虚なだけか?
「ちなみに……そのペンネームのSNSって俺も見ていいのか?」
「ええ、仕事用のアカウントなので……身バレだけ気を付けて貰えれば……」
零が持っていたタブレットでそのアカウントを見せてくれた。フォロワー多くね?プロフィールやヘッダーのイラストを見てさらに驚く。おいおいおい……
「待って!? 絵師じゃないか!……しかも“ママ”もしたこと有るじゃないか!俺、この配信者見たことある!」
とある人気の個人勢バーチャル配信者の“ママさん”だった。会社の同僚が少し前から気に入ってゲーム配信を見ていると言っていたので覚えていた。
「知ってるの??」
「同僚に詳しい奴がいて教えてもらった。イラストや漫画も詳しい奴だから……でもその絵師さんここ半年SNSの浮上が低くて寂しいって嘆いてたな……」
その言葉を言ってハッとして彼女を見た。一瞬彼女の瞳にも影が落ちる。まさか……SNSも制限されてたのか?? 驚く俺に気付いた彼女は、心配させないように優しく笑う。
「ははは……そうなんですよね。制限されてちゃって……みんなに忘れられてなければいいな……でも、これからは沢山描けますからね!頑張らないと!」
「大丈夫、みんな零のイラストを待ってるよ。これからはのびのびと仕事できるから頑張れ!」
「……うん!ありがとう」
彼女のイラストのお陰も有って動画のクオリティーが上がった。動画編集の分からない部分や、サムネイルの作り方も彼女に聞いて教えて貰ったり……もう彼女に足を向けて寝れない! 字幕、BGM、ナレーションを入れて動画が完成した。動画は二本とも短いものになったが……いいだろう。
動画をアップロードして、概要欄にも情報を打ち込んだ。動画用のSNSアカウントに投稿の予告をし、動画の公開日時を設定したので後は時を待つのみだ。
こんなに早くできるなんて! 公開時間までワクワクする。
休憩の為に一階に行くといい香りが漂ってくる。もう夕食の時間帯か……。零がキッチンで何か作っていた。
着物の袖をたすき掛けにして、前掛けを付けている。前々から思っていたが……古風な子だな。誰から着付けとか教わったんだろう?
ぼんやり考えていると俺に気付いた零が話しかけてきた。
「編集お疲れ様でした。豚の生姜焼き作ってるんですけど食べます?」
「いいの? 食べたい!!」
◇ ◇ ◇
俺はホクホクとしながら零の作った手料理を味わった。
「おいしい!! 零は料理上手だよね。料理好きなの?」
「ありがとうございます……祖母を手伝って料理してたので、ただ洋食は動画見ながら練習中です」
「着付けもおばあさんに教わったの?」
「はい! 祖母が着物好きだったので。でも祖母が見たらまだまだだって言われちゃうかも」
そう言って彼女はくすくす笑う。
「仕事も出来て料理も出来て、着付けも出来るなんて最強じゃん……」
「そんな! 褒め過ぎですっ……」
零は頬を赤らめて困った顔をした。目もうるうるして本当に照れている。
いやいや! ご謙遜を! でも恥ずかしがる顔が可愛い。
もっと困らしてみたいなと思ってしまったのは秘密だ。
「そうだ! 21時に動画公開するよ。零のお陰で思ったより早く編集できたから」
「そうなんですね! 私も見ます!! みんなの反応が楽しみですね!」
彼女は本当に楽しそうに笑う。……こんなにも俺の活動を応援してくれる彼女の存在がとても嬉しかった。……せめて食器位洗って片付けよう。罰が当たってしまう。
◇ ◇ ◇
今日も深夜を回る頃、和室のカメラを回して二階の自室でチャンネルの様子を見た。
再生回数はまだまだだけどパラパラと高評価やコメントをしてくれる人もいた
『猫っぽいw』
『どうせフェイクだろ?』
『怖くない』
『確かに食べてる音に似てる!』
『イラストがツボw』
俺はコメントを確認しながらgoodボタンを押して行く。想定とは違う方向へ行っているがこれも楽しそうだ! 明日は猫たちのおもちゃを買ってこよう。
色々とハプニングが多かったが充実感に満ちた休日になった。楽しかったな、これからもこんな生活が続くといいな……
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