第68話 親友のおかげ

「……ねえ、瑠璃ちゃん先生? なんでまたよくわからない男の人がいるんですか? ロリコンさんのお仲間ですか?」


 部屋に入るや否や、俺と迫中はいきなり正座させられた。


 理由はわからない。


 もみじちゃんから強制させられて、このザマだ。


 赤坂も目配せで『今は言うことを聞いてあげてくれ』という合図を送ってきたから。


 それに従った形。


 俺はいいが、もみじちゃんとさくらちゃんに初めて会う迫中は面食らってるようだ。


 同情するような気分になる。


「こいつは私たちの友人だよ。迫中っていう。悪い奴じゃないから安心して大丈夫だ」


 赤坂が警戒しているもみじちゃんに言い、迫中はニッと笑顔を作って自己紹介し始めた。


「どもっ! 迫中です! 赤坂……先生? と、こいつ! 橋木田とは小さい頃から友達やってるんで、安全性はバッチリ! 警戒せず、何でも話していいからね! 逆に俺も聞きたいことあるし!」


 迫中が喋り終えると、一転して部屋の中に沈黙が訪れる。


 もみじちゃんはベッドの上に腰掛け、ジト目でこちらを見つめながら、横に座ってるさくらちゃんの頭を撫でていた。


 何も言葉を返してもらえず、苦笑いしてる親友が不憫でたまらない。


 俺はフォローするようにして口を開いた。


「ま、まあ、俺からも言っとくよ。今日はたまたまこいつ、迫中と一緒にいたからついて来てもらったんだ。赤坂とも面識あるし、いいかなーと思って」


「この人は関係のない人ですよね? お友達だからといってホイホイ呼ばれても、こちらとしては面倒なだけなのですが? そんなこともわかりませんか?」


「っ……」


「瑠璃ちゃん先生にお願いして来てもらったのに、余計な人を増やさないでください。本当ならあなたとも関わりたくないくらいなのに」


 それはまあ、そうだろう。


 この子から見る俺は、妹の人間関係を勝手な都合で変えようとしてる男としか映ってない。


 何も言い返せない。


 でも、言われっぱなしで終わるわけにもいかない。


 俺は俺で、どうしても自分の考えを貫かないといけない理由がある。


「……ごめん。そこは俺も悪かったよ」


「まったくですね」


「だけど、何も迫中を呼んだことが無意味ってわけでもない。そこはたぶん、もみじちゃんが間違ってると思うよ」


「……は?」


 突然なんだ、とばかりにもみじちゃんは目つきを鋭くさせた。


 俺は彼女をジッと見つめ返し、目を逸らさない。


 そして続けた。


「今日、赤坂が何のために俺を呼んだのか、詳しいことはまだ聞いてないけどね、でも、俺にも少し考えがあるんだ」


「……何ですかいきなり? 別にあなたの考えなどこっちは求めませんし、今日呼んだのもこちら側の要求を呑んでもらうためだけだったのですが?」


「それもいい。でも、俺も……いや、俺たちも少し手を打たせてもらう」


「……?」


 もみじちゃんは睨んだような目付きで首を傾げた。


 さくらちゃんも同じだ。


 お姉ちゃんと一緒に首を傾げてる。


 こうして見ると、やっぱり可愛い。


 そんな可愛いさくらちゃん、そしてもみじちゃんに対して、俺は頭を下げ、


「お願いがある! もみじちゃん! さくらちゃんの可愛いところ、余すところなく隅々まで俺に教えてくれないか!?」





「…………………………」






 そこにいる全員が固まった。


 俺は頭を下げ続けたままで、





「は?」





 全員の疑問符を浮かべる声が重なった。


 いや、こういう反応だろうということはわかってた。


 俺は顔を上げて続ける。


「勘違いしないで欲しい。それはなんていうか、俺がさくらちゃんに目を付けて狙ってるとかそういう意味ではなくてね?」


「わ、わかっている橋木田成! 余計なこと言うな! その言い方だと二人がまた警戒をだな!」


 と、赤坂が声を上げるが、件の二人は既に警戒心マックスで俺を睨んでいた。


 もみじちゃんはさくらちゃんを抱きしめ、完全に防御態勢。


 その目付きも、変質者を見る目そのものだった。


「あ、あの、もみじちゃん……? とりあえず俺の話を……」


「うるさいです黙ってくださいこの変態! 自分の妹だけにとどまらず、遂に私の妹にまで手を出そうとし始めましたか!」


「おねぇちゃん……こわぃぃ……」


「大丈夫だよ、さくら! 何があってもあの変態からはお姉ちゃんが守ってあげるからね!?」


「ぅん……」


 ガチ怯えされる俺だった。


 さすがにここまで恐れられるとは思ってもなかった。


 申し訳なく思う。


 多少動揺はされるだろう、とそこまでは想像してたけど、まさかだ。


「ちょっと待ってくれ! 話聞いて! お願いだから!」


「お、おおぉ……! 一瞬、何言ってんだコイツ、とはなったけど、なんか考えがあるんだな、成!? じゃないとただのロリコンだぞ!?」


「橋木田成! もういいから早く言え! どういうことだ、さくらちゃんの可愛さを隅々まで教えろ、というのは」


 二人に言われ、俺は咳払い。


 改めて聞いてみても、自分がおかしな反応をされるようなことなんて言ってないと感じる。


 みんなオーバーになり過ぎだ。


 完全に俺イコールロリコンっていうスタンスでいやがる。


「要するにな、アレだよ。今のこの状況を全部丸く収めるには、さくらちゃんの魅力をテツ君に知ってもらえばいいだけの話だって気付いたんだ」


 さくらちゃんがピクッと反応。


 よし、食い付きは悪くない。


「テツ君とは、俺じゃなくて迫中に仲良くなってもらう。俺は奈桐と付き合ってるって思われてるだろうし、嫌われてるからな」


 言うと、赤坂は「ふむ」と納得したような表情をしていた。


「なるほど。近寄りがたかったテツ君という存在に、迫中を持ってくるってことか」


 俺は頷いて続ける。


「多少の人間関係操作はしてる感あるけど、これならまだマシなんじゃないかとも思うしな」


「っ……」


 もみじちゃんが少し悔しげに斜め下を見やった。


 さくらちゃんの反応はいい。


 それに気付いてるから、批判しようにもできないのだ。


 悪くない。


「……じゃあ、それについて詳しく話してください。話はそこからです」


「うん。聞こうとしてくれてありがとう。今日俺を呼んだ件についても後で聞く」


「……わかりました」


 とりあえずはそういうことになった。


 俺は礼を言って、話を続ける。

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