第61話 言えない奈桐の見た夢
夜が明けた、朝方の早い時間帯。
まだ夜闇がほのかに漂っている時だが、俺は右人差し指の違和感に気付いて目を覚ました。
何かに吸われている感じがする。
まさか、と嫌な予感を覚えつつ、部屋の電気を付けるのではなく、スマホの懐中電灯機能を使ってみることにした。
時刻は五時になったばかり。
さすがにもうひと眠りしたい時間だ。
何が起こってるのか、確認するだけして寝よう。
そう思い、懐中電灯機能をオン。
灯りを照らしてみると、そこには――
「…………おぉ…………」
まさかの奈桐さん。
いや、一緒に寝てたのはこの子しかいないから当然なんだけど、奈桐さん。
その奈桐さんが、俺の右人差し指を眠りながらチュウチュウ吸っていた。
半分寝ぼけていた意識が一気に覚醒する。
結構な衝撃映像ではあるのだが、俺はそれを振り払うわけでもなく、ただジッと見つめていた。
「……んぅ…………なる…………」
おぉぉ……なんか俺の名前呼んどりますな……。
「……はむ…………なる…………ちゅ…………ちゅ…………」
いやいやいやいやいや……えぇぇ~…………?
俺の名前呼んでたってことは俺関連の夢見てるってことでいいのか……?
いったいどんな夢見てるんですか、奈桐さん……?
めちゃくちゃ気になるんですけど……?
「…………なる…………おいしぃ……えへへぇ…………はむ……ちゅっ……」
お、お、お、美味しい……!?
何々……!? 俺、奈桐の夢の中で食べ物にでもなってるのか……!?
いや、それとも比喩表現……!?
気になり過ぎるんですが……!?
「……な……奈桐……? ごめん……まだ朝早いけど……ちょっと起きて……? 指離して……?」
朝の五時に起こすのはすごく心苦しいのだが、俺はいよいよ奈桐の頬をムニムニ突いて起こすことにした。
「お、おーい……奈桐~……起きてくれ~……指離してくれ~……」
ムニムニ攻撃と、咥えられてる人差し指を少々強引に抜こうとする。
「ん……んんん~…………?」
……が、しかし、指が離れない……!
両手でがっつりホールドし、大切そうにしながら、さらに吸い付きを強くしてきた。
嘘でしょ、奈桐……!?
「……くそ……こうなったらもう起こすしかないか……。お~~~い、奈桐~~~……? 起きてくれ~~~……?」
――ムニムニムニムニムニムニムニムニ。
さすがにこれだけやれば起きるだろうっていうくらい頬を突く。
その成果はすぐに出た。
むにゃむにゃ寝言を呟きながら、奈桐の目が開く。
「んんん~……? まふしぃ……」
「奈桐……? 起きた……? ごめん。まだ寝てていい時間なんだけど、ちょ~っと指だけ離してくれるか……?」
「ぇ…………? ゆ……び……?」
「うん。指。奈桐に舐められ過ぎてふやけてると思うから……」
「……………………?」
俺の指を咥えたまま、ぼーっとする奈桐。
やがて口の中に何かを入れていたことに気付き、ゆっくりと俺の指を離してくれる。
離したまま、寝ぼけた頭で情報処理を行っているらしく、しばらく一点を見つめた後、
「っっっ~~~~……!!!」
うん。
暗い中でも表情でわかるくらい恥ずかしがり、俺の顔をすごい勢いで見つめてきた。
口をパクパクさせて、首をフルフル横に振っている。
「え……えと……これは…………これは……ね……成……?」
「すごい吸い付きであった。いったい何の夢を見てたのか、めちゃくちゃ気になる」
俺が言った途端、頭上から湯気でも出てるんじゃないかと思うほど恥ずかしがり、静かに毛布へ顔を埋める奈桐。
すごく悶えてらっしゃる。
うーうー言いながら、俺の胸をペシペシ叩いてきた。
「寝言で『おいしぃ……』とかも言ってたな」
奈桐の小っちゃい肩がビクッと震える。
叩く力がさっきよりも強くなった。
どうも触れちゃいけないところだったらしい。
「気になる……うーん……気になる……」
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!」
仰向けの状態で目を閉じ、腕組み状態で頷く俺。
対して奈桐は毛布に顔を埋めて悶え声をひたすら上げていた。
朝の珍事。
早朝五時から面白いことに出くわしたもんだ。
もしかしたら、今日は一日面白い日になるのかもしれない。
「さてと、じゃあ奈桐の指チュパからも解放されたし、もう一回寝るか」
わざとらしく独り言ち、奈桐からのペシペシ攻撃を受けながらスマホの電源を落とそうとする。
そんな刹那だった。
「……ん……?」
二件のLIMEメッセージが入っていたことに気付く。
見れば、どうも二つとも送り主は赤坂。
昨日の夜、俺が眠った後に何か送って来ていたみたいだ。
「……どしたんだろ……?」
赤坂のチャットルームに入り、内容をしっかり読み込む。
「…………え…………」
そこには、なんともまあ意外なつながりを教えてくれるメッセージが書かれていた。
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