一番大切なこと
「あわわわ……お、お姉ちゃん……なーくん……! ま、真っ暗……ほんとに真っ暗だよぉ……!」
俺の右手を握ってる葉桐ちゃんが声を震わせながら怯える。
無理もない……というか、俺は散々そうやって言ってたんだけどな。暗くて危険だって。
「だ、だから言っただろ? この辺、街灯一本も立ってないんだよ。む、昔は立ってた気がするのに……」
「や、やっぱり電力のコスト削減とか、そういうことなの? な、成の言ってた通り、本当に暗黒世界だよね……」
葉桐ちゃんに左手を握られてるであろう奈桐も、怖そうにしながら言う。
三人が三人とも声を震わせてた。
進む足取りも重い。
坂道ってこともあるけど、これは明らかに怯えてるせいだった。冗談抜きで怖い。
「し、しかしですよ、奈桐さん? き、肝試しの動画観て自分もやりたくなったって言ってましたけど、これ絶対後悔してますよね? もう帰った方がいいんじゃ? とか思ってません……?」
葉桐ちゃんを挟んで横にいる奈桐へ問いかけるのだが、これまた怯えと動揺を混ぜたどもりボイスで返してきた。
「べ、べべ、別にぃ? ここ、後悔なんてしてないけど? これくらいの怖さは織り込み済みだし、楽しいよ? あ、あは、あははははっ!」
「声震えてんじゃん……」
「ふ、震えてないよ! 仮に震えてたとしても、これは武者震いだから!」
「何に対する武者震いなんだよ……言葉の使い方間違ってると思うんだが……?」
「ゆ、幽霊と……戦わなきゃだから……それに対する武者震い……」
思わず引きつったような笑みを浮かべてしまった。
奈桐さん、幽霊と戦うつもりなんですか……。
「と、とにかく、帰りたいだなんて私は思ってないからね。廃小学校まで行って、肝試しをちゃんと遂行します。それは絶対です」
「何でそんな頑ななんだ……俺は既に帰りたい……」
「ま、守ってくれるんじゃなかったの、成!?」
泣きそうな声で訴えてくる奈桐。
葉桐ちゃんも、傍から「意気地なし!」と言ってくる。
「いやいや、守るよ。守る。だからその……守るという意味で今すぐ撤退したいんだよ。こんなの、廃小学校まで行っても危険なだけだろ? 校舎内とか入ったら戻れなさそうなんだし……」
「だ、大丈夫。校舎の中には入らないから」
「え、そうなの?」
「う、うん。グラウンドには入るけど……」
グラウンド……?
つい疑問符を浮かべてしまった。校舎内じゃなく、グラウンドで肝試しするのか?
「……成、今グラウンドで肝試しできるの? って思ったでしょ?」
「……俺の心を読まないでくれ」
「残念でした。お見通しです」
言って、クスクス笑う奈桐。
葉桐ちゃんは「何笑ってるの!」と一人真剣だ。いや、俺も真剣だけど。怖くて歩くスピードは相変わらず遅い。奈桐みたいにクスクス笑えない。てか、何がそんなに面白いんだよ、奈桐さん……。俺の心、お見通さないで。
「肝試しはね、廃小学校に行くまでだと思ってる」
「え……?」
「グラウンドに着いたら、後はとあるものを眺めるだけだから」
「とあるもの……?」
俺が頭上に疑問符を浮かべると、さっきまで怯えてた奈桐は一転して楽し気に頷いた。
「そこだったら、成もちょっとは勇気出るかもしれないしね」
「……???」
さっきから奈桐の言ってることがわからない。
わからないけど、俺はそれでもいいと思えた。
彼女が楽しそうにしてくれる。
これが、彼氏の俺からすれば一番大切なことだから。
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