はな、さな、いで

藤 ゆみ子

はな、さな、いで

「ねえ、葉奈」

「何? 沙奈」

「井出君からホワイトデーのお返し貰った?」

「ううん、まだ。沙奈は?」

「私もまだ貰ってない」


 葉奈と沙奈は双子の姉妹だ。双子あるあるなのか、たまたまなのか同じ人を好きになってしまった。

 お互いそれに気付いたのはバレンタインデーの少し前。

 一緒にバレンタインに作るチョコの材料を買いに行った時、本命はいるのかという話になり、話をしているうちに二人とも井出君のことが好きだということに気付いた。

 一時気まずい雰囲気が流れたが、ここは平等にいこうということで、それぞれバレンタインに手作りのチョコを渡し、ホワイトデーの今日まで井出君とはほとんど接触していない。


「そもそも本命チョコだって気付いてくれてるのかな」

「えっ? 葉奈、本命だって言ってないの?」

「うん。なんか言いにくくて。沙奈は告白したの?」

「いや、私も言ってない」


 井出君は一つ年下の部活の後輩だ。葉奈と沙奈は部活を引退し井出君との関わりはなくなってしまったが、卒業前にとバレンタインにチョコを渡した。


「明日、卒業式だね」

「だね。寂しくなるね」

「私に言わないでよ。毎日家で会うじゃん」

「でも高校別じゃん」

「葉奈が高校は別がいいって言ったんじゃん」

「だっていつも二人セットって思われるのなんか嫌じゃん」


 二人は誰もいなくなった教室の窓から体育館で明日の卒業式の準備をする在校生を眺める。

 

「葉奈、自分の教室に行ったら?」

「今うちのクラス、副担が黒板アートしてくれてる」

「ええ、いいなぁ。副担が美術の先生。見てよこのただ大きく書いただけの『卒業おめでとう』を」

「シンプルでいいんじゃない」


 窓枠にもたれ掛かるように黒板の文字を見ていた葉奈と沙奈は教室の後ろのドアが開く音して二人して肩をビクつかせる。

 視線を向けた先には少し汗ばんだ井出君がいた。


「佐々木先輩」


「「どっちも佐々木なんですけど」」


 もう何度言ってきたかわからないその台詞をいつものように口を揃えて言う。


「葉奈先輩、沙奈先輩」


 ゆっくり近づいて来た井出君は二人に小さな紙袋をそれぞれ渡した。


「ちょっと早いんですけど、窓から二人が見えたので」


 そう言い頭を軽く下げた井出君はまだ準備が終わってないからと言って戻って行った。


「早いって何?」

「ホワイトデーは今日だから別に早くないよね」


 渡された紙袋の中は同じ箱と同じメッセージカードが入っていた。


    『卒業おめでとうございます』



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