絶対に手を離さないで(KAC20245参加作品)
うり北 うりこ
第1話
強い力で引かれ、それでも私はこの手を離すものかと足を速めた。
後ろを振り向いてくれることもあるけれど、いつも私は早足で追いかけている。
「お願い、少し待ってよ……」
更に速度をあげられて、私は息が切れた。
待って欲しいという、私のお願いなんて届かない。叶えてもらえたことはない。
「レンってば!!」
ふらふらの足に力を入れて、地面を強く蹴る。
どうにか追いついているが、走るスピード自体が違うのだから、気遣ってもらわないと私の身がもたない。
こんな仕打ちを受けているのに、私はレンのことが好きで好きで仕方がない。
自分でもどうかと思うほどに。
友人のマナに相談したこともあった。
「はじめが肝心だからね。ビシッと言わないと」
「可哀想じゃない?」
「そんなんじゃ、いつまで経ってもナメられたままだよ」
「でも、レンのこと好きすぎて怒れないよ……」
この一言でマナは諦めたらしい。
私は一生、レンの尻に敷かれるのだと。
「時には厳しく言うのも愛情だよ。ずっと一緒にいたいのなら、尚更さぁ」
あの時のマナの言葉が身に染みる。
けれど、時を戻したとしても私はレンに強く出られないだろう。
私はこの世でレンを一番に愛している。レンに嫌われたくないし、レンのいない人生なんか考えられない。
レンのためなら仕事も休むし、レンのためならいくらでも稼いでくるつもり。
レンが私の生き甲斐なのだ。
突然、レンはピタリと足を止めた。
これはもしかしなくても、もしかするやつだ。
じょろ……じょろろろろろろ…………。
躊躇うことなく、レンは電柱に向かって放尿した。
いつもの光景を眺め、私はその場所に水をかけてキレイにする。
満足したようで、まだ水で流しているというのにレンは歩きだす。
「レン、待ってよ!!」
キレイにし終えて、私は慌ててレンを追う。
リードはしっかりと握ったまま。
万が一、離してしまったら大変だ。
リードは絶対に離さない。何がなんでも徹底しなくてはならないのだから。
絶対に手を離さないで(KAC20245参加作品) うり北 うりこ @u-Riko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます