とある店内、ある日の見学②
「先輩、昨日のショーツを使った感想はどうでした?」
「使ってねえから」
その日の講義を終え、サークル棟の文芸サークル部室に入って開口一番にとんでもないことを言い出す美咲に若干イラっとした。
そんな俺に対し、美咲はまるで信じられないものを見た、とでも言いたげに目を見開き、俺の頭からつま先までを見る。
「え? 使ってないんです?」
「そうだが」
「それはキャストに失礼では?」
「お前どの立場で物言ってんの?」
「でもオナニーはしたんですよね?」
「してない」
「え? してないんですか」
「……いや、したはしたけど」
深掘りすんなそこは。
「先輩、実はかなり潔癖症だったりしました?」
「違うが」
「そうなんですか。因みに私はショーツを持ち帰った後に自分で履いてみまして」
「何してんのお前」
マジで何をしてんの?
「履いてみて感じる妙な背徳感に胸を震わせました」
「何か特殊な性癖が開花してる」
「ブラの方も一応つけてみたのですが」
「ブラももらったの、お前?」
「え? 先輩は貰っていない?」
「ない」
「そっか。ブラの方は延長した時にオプション追加したんでした」
やっぱり延長してたよ、こいつ。
「ブラの方は、うおーおっぱいでっけーとなるばかりで、ちょっと別の興奮の方が増しましたね」
「そうか。昨日も言ったが、楽しそうでなによりだ」
「先輩、少し感動が薄くありませんか? せっかくの取材なのですから、もっとしっかり味わわないと。全く、先輩が楽しめる為に、また行きますからね?」
一人で行けよ、と言いたいところではあったが、古宮さんの元後輩だという、すずかさんのその後の動向は正直なところ気になる。古宮さんの言う通り、客の前での緊張癖があるのは確かなようだったし、あれであの店を続けられるのだろうか?
「まあ俺も? 全然興味ないってわけじゃ」
「ですよね!」
食い気味な美咲に少し引いたが、こいつがこういう態度だと俺も付き合いやすい。
「それじゃ次のお休み、早速行きましょう」
「でもほら、あれだぞ。古宮さんの頼みもあるわけだから、できれば前の子がいる時の方が」
「大丈夫です。その子の出勤日は私も古宮先輩に聞いているので」
そんなわけで、俺はすずかさんの出勤日だという次の休みの日に、美咲と例の見学店に行くことになったのだが。
「すみません、先輩。急用ができまして、私は私で行ける時行きますので、先輩は先輩でお楽しみください」
と、前日になって美咲から連絡があった。
美咲が行かないからと言って俺も行かない、というのもどうかと思ったので、一人で性的サービスの店に行くという羞恥心は増したものの、古宮さんの頼みだからと自分に言い聞かせて店を訪れた。
俺は先日プレゼントとしてもらった下着を持って来ていた。
処分にも困るし、返せるものならと思って受付で話してみたのだが、返品は受け付けていないと断られてしまった。そうは言っても、また使用済み下着を隠し持って家までを往復するのも恥ずかしい。それならそれで処分してもらってもいいですか、と無理を言ってお店のゴミ箱に捨てることを了承してもらった。
何故か少しだけ残念な気持ちになったのは気のせいだと思うことにする。
というわけで店内に入り、すずかさんが空いていればすぐ指名しようと、キャストが待機している様子を見て俺はぎょっとした。
「何やってんだあいつ」
──キャストの中に、美咲がいた。
お店指定のセーラー服を着こなし、スマホ片手に他のキャストと何やら談笑している。
その日は急用ができたってこのことかよ。
俺は思わず大きく溜息をついた。
俺は改めてガラス越しにキャストの様子を確認する。美咲と談笑しているキャストの端に、すずかさんがいた。こうして見ると特段、緊張しているような様子も見えない。美咲の周りは何やら人が集まってはいるが、そもそも待機室では一人でスマホを弄ったりしている(その間も体育座りをしたりシャツを着崩したりして下着が露出しているキャストも少なくない)のが大半で、その子がキャストの中でどんな扱いなのかを客の目線で判断するのは無理だ。
俺は一瞬迷いはしたものの、流石に突っ込んでやる必要はあるだろう、と美咲を指名した。コースは10分のスタンダードコースを選ぶ。
しばらくして、美咲が俺の前までとてとてと歩いてきた。
「ありさです。よろしくお願いします」
個室のカーテンを閉めるなり、にこりとした笑顔をこちらに向ける美咲。何その可愛らしい笑顔。部室でそんな顔滅多にしないだろお前。
美咲はお辞儀をしてその場に座ると、四つん這いになる。その笑顔のまま胸元に手をやって、胸の谷間を俺に見えるようにシャツを引っ張った。
美咲の側からは、俺が見えない。だから、今接客しているのが俺だとはわかっていない。
美咲は180度回転して、今度はスカートの中の下着を露わに、お尻をガラスに押し付けた。美咲の履いている純白の下着が、俺の視界に広がる。
俺は咳払いをして、店内用スマホで「おはなし」の選択肢を選ぶ。
「あ……」
着信音と共に、美咲が小さく喘いだ。
下着をガラスから離して、こちらを向くとスカートの端を摘んで口に咥えてたくしあげる。
美咲の下着の中にスマホが差し込んであった。美咲はそれを抜き出して、口を大きくあけて、また四つん這いになると、こちらを向いて「はああ」と息を吐いた。ガラスが美咲の吐息で曇る。
「ヘンタイ」
美咲はそうつぶやき、にこりと笑う。
何やってんだこいつ。ふざけんなよお前。すずかさんより余程こなれた動きしやがってからに。
「んっんー」
俺はまた咳払いをした。
部屋の脇にあるホワイトボードを手に取り、『みさき』と書いてガラスに押し付ける。
美咲はそれを見て「お」と小さく声を出した。
「ぶっは」
その後、美咲は馬鹿にしたように噴き出して、さっきの笑顔とはまた違う笑みを顔に浮かべた。いつもの顔だ。俺はその顔に、少しだけ落ち着きを取り戻す。
「先輩のえっち」
反射的に美咲のことを大声で詰りたい衝動に襲われるが、店の迷惑になるので我慢する。平常心平常心……。
「そんなに黙って私の下着を舐め回すように見て、どうするつもりですか? へんたーい」
結果、一方的に美咲が俺を詰る展開になっている。こいつ、ほんとこいつ。
「時間もないですから、後輩のえっちな姿、しっかり堪能してください」
美咲はそう言って立ち上がると、後ろを向いて背中に手を伸ばす。シャツ越しにブラジャーを外して、胸の方からそれを取り出すと、床にポトリと落とした。
「オプション追加でシャツも脱ぎますけど、どうします?」
それ店的にアウトじゃない?
「あー、エロい想像しました? 全く、困りましたね。当然乳首は見せませんよ?」
美咲はそれから今度はスカートの中に手を伸ばし、するすると下着を脱いだ。
美咲はそれを拾い上げた後、ガラスの前まで持って来て揺らす。
「これ、私物なんです。お店で用意してもらうこともできるんですけど、私物だとバック率が上がるんです。面白いですよね。ありさちゃんの生下着、欲しくないですか?」
美咲は口をへの字に曲げて首を捻った。
素で絶対にそんな表情しねえだろお前。
美咲はちらりと床に置いたスマホを確認する。俺は何も注文していないので当然、特に反応はない。
「はあ」
美咲はわざとらしくため息をついて、その場に正座した。
「後で後悔しても知りませんよ?」
美咲は
お前マジでさあ。
ちろちろと美咲の舌先が俺の目の前で動く。
俺は小さく咳払いをした。その瞬間、美咲の顔が笑顔に歪む。
「何我慢してるんですか? 良いんですよ? ほら、ちゅーしましょう?」
美咲は口を尖らせて、唇をガラスに押し付ける。ガラスが美咲の唾液と吐息で濡れて、ガラスの向こう側を滴がつたって滴り落ちていく。
唇をガラスに押し付けたまま、美咲は舌を突き出してガラスを舐めた。
──ピピーとタイマーの音がした。
美咲は肩をビクッと震わせて、物足りなさうな顔でタイマーを止めた。
俺はスマホで「延長」と「チェンジ」のオプション項目を同時にタップする。通知が美咲のスマホにも届き、美咲は急いでスマホを拾い上げたが、通知の内容を見てまたわざとらしくため息を吐いた。
「先輩のヘタレー」
言ってろ。
美咲は床に落ちた下着を拾い上げると、俺の前から待合室まで戻ろうと向こうを向いた後、何か思い返したようでこちらに戻ってきた。
「サービスです」
美咲はそう言って、手に持っている下着のうち、下の方をガラスの上の
俺の目の前に、ポトリと美咲の純白の下着が落ちる。
お前、ふざけんなよ。
美咲は俺を馬鹿にしたように目を見開いて、べーっと舌を突き出した後、来た時とは違って普通に歩いて待合室に戻っていった。
流石にこの場合、追加料金は取られないよな。というか、オプションにないことを勝手にして怒られるのは美咲の方なのでは?
色々と考えた結果、美咲が俺のせいで怒られるかもしれないのもなんか嫌だったので、目の前に落ちた下着を指で摘んでゆっくりと持ち上げた。今回はスタンダードコースを選んだため紙袋は受け取っていないので、ゴミ用のビニール袋に下着を放り込んだ。
後で洗って本人に返そう。
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