とある店内、ある日の見学①
脚を大きく開き、スカートの中を露わにしている女の子。セーラー服姿の彼女の表情は笑顔ではあるが、作り笑いであることが隠せていない。
彼女はその姿勢のまま動かない。俺の目の前で、彼女は目線をキョロキョロと動かして深く息を吐く。それから彼女はぎこちなく体を捻り、次にお尻をこちらに向ける。しばらくしてまたこちらを向き、その場に体育座りをした。俺の目線の先には、ずっと彼女の履く下着が映り続けている。
俺はその様子を固唾を飲んで見守る。
「何かご要望ありますか?」
彼女の目線がこちらに向く。
「えっと」
声を出したところで、こちらの声はガラスの向こうにいる彼女には届かないことを思い出す。
俺は手元のスマホから「生着替え」の選択肢を選んだ。
すぐに彼女の横に置いてあったスマホが着信音を鳴らすことなく震えた。
彼女はスマホをすぐに確認して、再度俺に目線を向けて頷いた。そのまま立ち上がり、向こうの部屋の壁にかけてあったメイド服を掴み、俺の前まで戻ると、タイマーを押す。
ゆっくりとネクタイを外して、着ているシャツのボタンを外していく。ボタンを全て外し終わると、シャツを床に置いた。同時に、履いていたスカートもストンを床に落とす。
上も下も下着姿の彼女が胸をガラスに押し付けた。彼女の身につける淡い水色の下着を目の前に、決して目に優しくない色なんかではないのに、俺は目を何度も
俺の目が、ガラスに押し付けられた胸に釘付けになる。今度は俺の方がキョロキョロと辺りを見回してしまう。当然、ここは個室なので誰の目もない。
しばらくして、彼女は胸をガラスから離すと、メイド服のスカートを履いた。その後、またストンと何かが床に落ちる。
先程彼女が履いていた淡い水色の下着がそこにあった。
「えっと、これ、どうしますか?」
小さな声で彼女がつぶやく。一瞬ぽかんとしてしまったが、そこで俺は最初に設定したコースオプションに、プレゼントの項目があったのを思い出した。
あ、そうか。プレゼントってそういう……。
俺はスマホの画面を確認する。選択オプションの中に、プレイ中・後の二択が並んでいた。プレイ中と後ってのがよくわからない。俺はわからないままプレイ中とスマホに打ち込む。
また彼女のスマホが震える。彼女は画面を見ると、また深く息を吐き床に落とした下着を手に掴むと、ガラスの上の方にあった
俺はぼけっとその穴を見上げる。
──遡ること、一日前。
俺と美咲は古宮さんに誘われて、彼女のアパートを訪れていた。3Pのお誘いでしょうか? などとふざけたことを言う美咲を違うに決まってんだろ馬鹿、と小突き、古宮さんの部屋のインターホンを押す。
「いらっしゃーい。おうちはこないだぶりかな?」
「ああ、どうも」
俺は先日、古宮さんにこの部屋の玄関で押し倒された。それは美咲の差金だったわけだが、あの後もバイト先の仕事仲間である古宮さんとは顔を合わせるわけで、俺は未だに何となく気まずい思いを拭えずにいる。
「さあ、あがってー」
古宮さんの方は何も気にしていない様子で俺達を部屋の中に手招きしてくれた。
俺と美咲は居間の座布団に座る。古宮さんがすぐに俺達の前に湯気の立ち上る珈琲を置いてくれた。
古宮さんの淹れる珈琲の味はこの間と同じく格別で、少しだけ気まずい気持ちの残る心を落ち着かせてくれた。
「それで古宮先輩、今日は何でしょう。3Pですか?」
美咲の空気を読まないセリフに、珈琲を飲んでいた俺は咽せた。違う、つったろお前。せっかく落ち着いたのにふざけんなお前。
「違うよー。美咲ちゃんはホントに先輩くんの前だとはっちゃけるねー」
「恐縮です」
「褒めてないと思う」
俺は美咲の態度に頭を抱え、ため息をついた。
「二人とも、見学店って知ってる?」
「見学店? 住宅の内見とかってこと?」
「私、知ってます。マジックミラー越しに女の子を見学するのがコンセプトのえっちなお店です」
ピンと来ない俺と違い、美咲は知っていたらしい。
「何それ。動物園?」
「確かに発情する女子を動物と呼ぶことを否定はしませんが、先輩、流石にそれはスケベが過ぎるのでは?」
「違うよ!?」
なんで毎度毎度そういう捉え方すんのお前。
「美咲ちゃんの言う通りねー。お客さんがガラス越しに、ガラスの向こうにいる女の子の様子を見学するお店。直接話したり触ったりはできないけど、ガラスの向こうにいる女の子の様子を見て楽しむの」
「楽しいんですかそれ?」
説明を受けても正直なところ、いまいちわからない。
「あ、女の子がガラスの向こうで裸になるとか?」
「そんなわけないじゃないですか。うわ、流石に今のは引きました先輩」
「なんで!?」
しょうがねえだろ、何もわかんねえんだから!
「裸にはならないけど、下着姿くらいまではなるかな。お客さんの要望に合わせて女の子がお客さんの目の前──って言ってもガラス越しだけど──生着替えしたり、自分のおっぱい揉みしだいたり?」
言って、古宮さんが自分の胸を持ち上げたので俺は目線を下げた。目を瞑り、珈琲を口につけて飲み込む。
「そ、その見学店がどうしたんです?」
「興味ある?」
「えっと」
「あります!」
困惑する俺と違い、美咲が食い気味に答えた。
「え、お前が? いけんの?」
「はあ。先輩、キャストとしてじゃないですからね。お店に興味があるって言ってるんですよ。全くいやらしい」
「理不尽だと思う。ホントーに理不尽だと思う」
こいつ、こないだのNTR騒動からそっち方面の弄りに躊躇がなくなってきたよな。
「あはは。美咲ちゃんならキャストでも全然歓迎だと思うけどね。ただその通り。私の高校時代の後輩が働いててね。ただ、指名が芳しくないから私の知り合いを誰か紹介できないかなーみたいな話になって、それで二人を思い出したの」
「素晴らしい慧眼です。我々であればいついかなるところにでも出向きましょう」
「俺を巻き込まないで?」
「何を言いますか先輩。何度も言わせないでください。リアリティですよ。創作にアンダーグラウンドな要素は不可欠。風俗関係の知識を持っておくことに越したことはありません」
「まあそれは確かに」
美咲の言うことにも一理ある。この間も暴力団組織のキャラクターを書いてみた時に、その辺りの知識があまりないものだから、ネットで散々色々と情報を探したせいで、執筆するよりもネットを見ている時間の方が長くなったのを思い出す。
「風俗店なんて男一人で行ってもいいわけですが、ヘタレ先輩は背を押してもらわない限り行かないでしょうし」
「いや、俺だって別に……」
「え? 行ったことあるんです?」
「ないです」
俺の答えに、美咲は勝ち誇ったように笑った。なんだこいつムカつくな。
「それにある意味人助けですからね。そうした立て付けがあった方が、未経験ヘタレ童貞の先輩も言い訳がしやすいでしょう」
ほっとけ。
「知り合いを紹介って、そういうの大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。わたし、店長さんとも知り合いなんだけど、むしろ変なことをしない信頼おけるお客さんは大歓迎って言ってた」
「変なことってたとえば?」
「うーん、個室の中で脱ぐのは別に良いんだけど股間をガラスに押し付けたりとか、店の前で出待ちしてストーカーしたりとか」
「逆に脱ぐのは良いんですね」
「だってそうしないとできないでしょ」
「できない?」
「そりゃ──」
──というわけで、俺と美咲は古宮さんの紹介のあった見学店に来ていたのであった。店前に着いた時の美咲のはしゃぎようはこれまでもあまり見たことがない感じで、店前の看板を見ながらこのオプションなんですかね? とか先輩はどれにします? とか興奮気味だったのを引っ張って、迷惑だからと店内に押し込んだ。
とは言え美咲の言う通り、こういう店に来るのは初めてだし、勝手がわからずにいたが、店員さんが色々と優しく教えてくれて助かった。古宮さんからは、できればスペシャルコースを頼んでくれると女の子へのバック率も高く給料も良くなるとのことだったので言われた通りにそちらを選んだ。
「こういうとこ、結構高いイメージあったけど思った程でもないんだな」
「オプション色々頼んだら高くなるんでしょうけどね。まあホントに言っちゃえば見学するだけですからね」
普通コースで10分1000円。俺達の選んだスペシャルコースも、一番短い40分コースで8000円から。決して安い金額ではないが、自分がイメージで思っていたよりも高くなかった。大体こういうのは頼むだけで一万円くらいはするものだと勝手に思っていた。
俺は古宮さんの後輩だという「すずか」というキャストを指名した。40分の見学のうち、一度の指名で10分パフォーマンスをしてくれるらしい。
「それじゃあ先輩また後で」
キャストを指名すると、俺と美咲は別々の個室に案内される。個室に入る前に軽い荷物検査をされた後に貴重品は店のロッカーに預けられ、代わりに専用のスマホ端末を渡された。追加のオプションや女の子との会話の補助に使うのだと言う。
また、個室の中に入る際に、紙袋を一枚と黒いゴミ袋を一枚渡された。何のためのものかと思ったが、部屋の中に入って納得する。部屋の中にはティッシュ箱が二箱に、その隣にゴムの箱や「千円/個」と書かれた籠の中に使用前のTENGAなどが置いてある。
「っていうかこっちも安っ」
こういうグッズも使ったことはないが、格安なのは間違いないだろう。
確かに、こういうのは実際に行ってみないことにはわからないこともたくさんあるのかもしれない、などと思いながら部屋の中を見回していると、
「し、失礼しますー」
と、上擦った声で女の子が部屋の奥から現れ、ガラス越しに俺の目の前に座って挨拶をした。
その様子に、流石の俺もなるほどと思う。古宮さんが言うには、この“すずか”さんは練習などは特に問題ないのだが、いざ客の前に出るとぎこちなくなってしまう緊張癖があるのだと。そういうのが好きな客もいるからいいけど全部それで行くわけにはいかないからね、とも言っていた。
俺は部屋の中にあるホワイトボードを手に取ると「古宮さん」と書く。
ホワイトボードをガラスにくっつけると、すずかさんは顔を近づけてボードに書かれた文字を見た。すずかさんはそれを見て、露骨にホッとした表情になった。
それから大きく深呼吸をして、目の前で大きく開脚をしてガラス越しに身につけている下着を見せた。
──そして今、である。
俺の鼻先に下着が乗っている。心臓がばくばくと鳴るのが自分の耳にも聞こえてくるような気がする。俺は震えながら顔に落とされた下着を親指と人差し指で摘むと、店員に渡された紙袋の中に入れた。
「なるほど、紙袋はこの為のものだったか……」
思わず独りごちる俺。俺はプレイ前の彼女に倣い、深呼吸をして心を落ち着けた。大丈夫大丈夫、俺は頼まれてここ来ただけだから。
下着を
「えと、すみません」
すずかさんは部屋の奥から何かを持ってくる。それを申し訳なさそうに広げると、足元に持って行った。
それを見て俺は「あ、そうか」と理解する。すずかさんが持ってきたのは、新しい下着だった。さっきまで履いていたものは俺が今持っているわけでさっきスカートを履いてくるくる回っていた時、彼女は下着を履いてなかったわけだ。
「んっんー」
俺は余計なことを考える前に咳払いをして自分を誤魔化す。
すずかさんは新しい下着を履くと、改めてスカートの端っこを持って回る。そしてそのままちょこんと座り、お辞儀をした。メイドとしてのパフォーマンスということだろうか。
「そ、それではご主人様。何かご要望は?」
言いながら、すずかさんの目線がまた空を向いている。
俺はホワイトボードに「好きにしてていいよ」と書き込み、すずかさんに見せた。
すずかさんはそれを見て、困ったように首を傾げた。
「で、できれば何かあった方が」
そりゃそうか。俺は店の専用スマホを見る。追加のオプションの中に「棒アイス」と言うのがあったので、頼んだ。
すずかさんは注文を確認すると、部屋の中にある冷蔵庫から棒アイスを取り出す。多分これあれだよな……と俺はまた咳払いをし、「無理しないで普通に食べていいよ」と書いて彼女に見せた。
彼女はそれを見て、小さく笑った。その笑顔は、さっきまでの作り笑いとは違っているように見える。
すずかさんは棒アイスを上に掲げると、先っぽに下を突き出して舐めた。そのまま舌を小さく動かす。ポタリ、とアイスの滴がメイド服の上に落ちた。
そのままアイスを咥えて、口からゆっくりと抜いていく。俺はまた咳払いをする。
すずかさんがまたアイスを咥えると、アイスが根元からポキっと折れた。
「あ」
俺は思わず自分の股間を手で押さえた。
すずかさんは目を大きく見開き、こちらを向いて何度も頭を下げる。
──ピピーとタイマーの音がした。
それからコンコン、と個室の扉の向こうからノックの音が鳴る。
「お時間になります。紙袋はお持ち帰りくださり、それ以外はお部屋のゴミ袋の中にお捨ていただいて構いません」
「あ、はい。わかりました」
店員さんから呼びかけられ、俺は慌てて紙袋を持つ。頭を抱えるすずかさんを見て、俺はホワイトボードに「あんま気にしないで」と書いてガラスに近づけてから外に出た。
「どうでしたか、先輩! すごかったですね!」
美咲は俺が個室を出て、店の前で待ってから20分後に店内から現れた。
……こいつ、もしかしなくても延長したな?
「プロはすごいですね。何を恥じることもなく体をアピールして。こちらがどんな無茶振りをしても応えてくれて! 先輩、また来ましょう。是非来ましょう」
「プロねえ」
俺は先程のすずかさんを思い出す。ああいうのがグッとくると言う御仁もそりゃあいるのだかろうが、演技していたというわけでもなさそうだった。
「お、先輩ももらったんですね、それ」
「あ、ああ」
美咲が俺の持つ紙袋を指差す。
「スペシャルコースのオプションの中に元から付いてたっぽいな」
「後々店員さんに聞いてみたのですが、こういうの古物商ということで届出を出すそうですよ。衛生の問題もあるので中々昨今難しいところもあるそうですが」
「お前が楽しそうで良かったよ」
「はい!」
満足し過ぎて俺を弄ることも忘れてるだろこいつ。
俺と美咲は駅で別れると、それぞれの帰路に着いた。
俺は自室に戻り、紙袋を床の上に置く。
「で、どうすりゃいいのこれ」
俺は改めて小さくため息をつき、とりあえず紙袋の中身を取り出すことなく、取っ手の部分から何度か折って封をして、部屋の奥に閉まった。
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