おれの猫
怪我をした猫を上着で包んできょろりとまわりを見回して不安そうにおれを見上げる幼女。
ちょっと会話をすれば、以前おじさんに連れて行ってもらった商店街のあたりに住んでいることがわかった。
おれが猫を抱えて、うろ覚えの道順をたどる。
「ネオンね、猫ちゃんがいたから追っかけてたの」
「怪我してるのにずいぶん遠くまできたんだね」
「うーうん。途中で追いかけてる猫ちゃんはねー、違う子にかわったー」
それって帰れなくなるよ?
危なっかしい子だな。
それがネオンへの感想。
ちょっと歩くのがしんどくなるくらいでネオンは見覚えのある場所に出たとかで猫を抱えて駆け出した。
「おにーちゃんありがと!」
で、振り返ったおれが途方にくれた。
無事に帰れるかわからなくて。
おじさんに連れてきてもらったことはある。ゆるりと夕焼けに沈む街並みは見慣れなくて。
「あれ。タイくん珍しい」
聞き覚えのある声にほっとした。
「みーくん知り合い?」
「とーさんのイトコ」
「ちっこいよ?」
「年下だし」
年上のみーくん(イトコの長男)が知らない子と会話している。
みーくんのおかげで無事に帰れてよかったけれど、姉がしばらく離してくれなくなった。
なんとなくネオンのことははなさないで済ませてしまった。
しばらくして姉が落ち着いた頃、みーくんに遊びに行った先にあの時の知らない子とネオンがいた。
「あ! おにいちゃん!」
知らない子に繋がれた手を振り払ってネオンはおれの方に寄ってきた。
知らない子が「おまえのにーちゃんはボクですが?」とため息を吐きながらわざとらしく頭を振ってみせていた。
「タカ兄、迷子になった時、おにいちゃんが送ってくれたんだよ」
「おまえは迷子になりすぎる」
兄妹仲はいいようでおれとみーくんは置いてけぼり。
「アレじゃあ、まるでタカが迷子になったみたいだよね。タイくん」
みーくんが笑っていた。
四人で遊んで。
そんな機会がたまにあって。
ネオンは時々虫や動物に惹かれてそのままついていって。そんなネオンをおれ達は探しまわった。
おかげでご近所の地理には詳しくなったと思う。
気がついたらいないのと同じくらいネオンは気がついたら横を歩いていて、あたりまえのように近況をしゃべって去っていく。
本当に猫のよう。
妹と喧嘩した。
タカ兄がうるさい。
両親の記念日にラブ時間を贈りたい。
おじさんに避けられて腹が立つ。
おじさん動物アレルギーで殺しかけちゃったヤバい。
動物園に行くの楽しみ。
爬虫類館もいいけど、やっぱりもふもふが好き。
プール行くからタイ君も一緒行こ。
またね。
携帯端末を持ったの! 連絡先交換しよ!
そこからは毎日、「おはよう」「おやすみ」と本当に日常に混ざってそんなモノになっていった。
特別な好きなんだと気がつかないけれど、特別になっていた。
だから。
「タイ君が好き」
そんなふうに告白された時。
「あ、うん。好きだよ。あ、ジュースこぼれてる。ペットボトルの蓋どこ?」
この反応が悪かったらしく、時々思い出しぽかぽか攻撃される(かわいい)。
好きなことがあたりまえになっていて、おれ的には『いまさら』だったんだと思う。
「言ってくれないとさびしい」
「ちゃんと言ってくれると嬉しい」
そう言ってくれるネオンが可愛くてしかたない。
「ネオンの素直さもわがままさも可愛くて大好きだよ」
でも、ネオンの交友関係の広さに時々嫉妬しそうなことは黙っとく。
愛される猫はたぶん、自由が似合うから。
はなさないで 金谷さとる @Tomcat
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