【KAC20245】イケメンがいる喫茶店
麻木香豆
☕️
私は喫茶店に行くのが習慣になっていた。
職場の近くにあるし落ち着いた雰囲気だから気に入っているんだ。
仕事もずっと座り仕事で落ち着かないけど喫茶店はアンティークな家具と落ち着いた照明で気分が変わって昼からも頑張れる! って気持ちになる。
職場の人たちはなぜかここに来ないしね。
そしてお目当ての言葉数少ないイケメンマスター。推定年齢30前後。指輪も無いし独身であろう。
私も30になって昨年別れた五年付き合ってた同僚との恋の癒やしになったのもこの喫茶店とマスターのおかげだ。
「いらっしゃい」
「ご注文は」
「お待たせしました」
いつものように甘い声で。私はいつもの定位置に座り通い詰めた。
半年近くになるけど今日はトライしたいことがあって。
マスターの前のカウンター席に座ること、だ。
定位置の席も落ち着くけどいつかはマスターの前に座って食べたい。
昼はたまに座っている人もいるけどなかなか行こうとは思えない。緊張してしまう。
座ってる人たちもおじさまばかりだし。なんか落ち着いた雰囲気のね。
私に相応しいのだろうか。でも半年ほぼ毎日通ってるし。
でも今日は朝の占いで
『思い切ってアタックしてみよう』
って牡羊座アドバイスがあってね。
私はいつもの席を案内されるけどそれを断ってカウンター前に座った。意を決して。
「いらっしゃい」
とマスターは私の目の前に常にいる。本格的なコーヒーの装置がゴポゴポ。
ついに目の前にしたマスターと何度も目があった。
私は勇気を持って声をかける。
「あの」
「はい?」
「その、ここ半年通っててマスターと話したいなぁと思ってカウンターに来ました」
するとマスターははにかんだ。かわいい。目尻の皺とかも。
「話すと言ってもですねぇ」
「すいません、無茶振りして」
ううん、と彼は首を横に張った。
「妻にね、あんたは料理うまいけど話すと馬鹿がバレるからって話さないでって言われてたんです」
「え」
妻がいる、の?
話してほしくなかった。
終
【KAC20245】イケメンがいる喫茶店 麻木香豆 @hacchi3dayo
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