第4話 名誉のための第一歩

計画を立てた翌朝、甚九郎は新たな決意を胸に工房を出た。壇鉄の名誉を回復させるためには、まずその技術の素晴らしさを広く知らしめる必要があった。甚九郎は、地元の工芸品市に参加することを決めた。壇鉄の簪を展示し、その物語を人々に伝えるのだ。


「壇鉄さんの技術をみんなに見てもらうんだ。」


工芸品市の開催までには数週間あった。その間、甚九郎は壇鉄から習った技術を駆使して、さらに多くの簪を作り上げた。それぞれの簪には、壇鉄の技法が生きている。そして、彼は壇鉄の物語と、無実の罪で苦しんだ過去も一緒に伝える準備をした。


市の日、甚九郎は早朝からブースを設営し、壇鉄が生み出した簪と、その背後にある物語を紹介するパネルを並べた。最初は訪れる人も少なかったが、簪の細やかな美しさが人々の目を引き始めた。


「これは誰が作ったの?」興味深そうに簪を手に取る女性が尋ねた。


「これは、江戸時代の飾り職人、壇鉄さんの技法を用いて私が作ったものです。彼は非常に才能のある職人でしたが、不幸な運命により、その名誉が汚されました。今、私は彼の技術と物語を伝えるためにここにいます。」


話を聞いた人々は、壇鉄の物語に心打たれ、簪への関心も高まった。中には、壇鉄の技術についてもっと知りたいという職人もいれば、単純に美しい簪に魅了される者もいた。


その日のうちに、壇鉄の簪と物語は市内で話題となり、多くの人々が甚九郎のブースを訪れた。甚九郎は一人ひとりに丁寧に話をし、壇鉄の名誉回復のための最初の一歩を踏み出したのを感じた。


夕方になり市が終わる頃、甚九郎は疲れていたが、同時に深い満足感を味わっていた。彼が壇鉄のためにできることを始めたこと、そして人々がそれに耳を傾けてくれたことが、甚九郎にとって大きな意味を持っていた。


帰り道、甚九郎は空を見上げた。夕焼けが空を染めている。彼は心の中で壇鉄に語りかけた。


「壇鉄さん、今日は多くの人にあなたのことを伝えられました。これが、私たちの旅の始まりです。」


甚九郎の心には希望が生まれ、壇鉄の名誉回復への長い道のりが、今始まったばかりだと感じていた。

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