第二十一話 俺の隣には、堕落させる天才がいる
日が暮れ始めているころ、俺たちはギルドへ到着した。馬車に揺られながら休めた脚を動かしながら、重たい上半身を動かしていく。ギルドの扉を開けるといつも通り様々な冒険者が列をなす姿が確認できた。
「あぁ~~~お金がもらえるぅ~~~~脳が! 震えるぅ!!」
「やめてくれよ……なんでお前そんなにハイテンションなんだよ」
「まぁまぁ、クロウ君。ヒサメ君はいつも通りじゃないか」
「いやだよ、こんな風に毎回ハイテンションになる仲間なんて」
俺はため息をつきながら依頼を達成したことを報告しに向かう。俺たちが戻ったことを確認した受付の女性は目を丸くしたあと、笑みを浮かべた。
「どうぞ。こちらが今回のダンジョンで手に入れたお金ですよ」
「やったぁぁぁぁ! カジノ! ギャンブル! 勝利!」
「友情努力勝利みたいなテンションで言うなって」
俺がジト目になりながらハイテンションになっているヒサメを見つめていると、受付の女性の方が手招きをしてきた。どうしたのだろうかと思いながら近づいて耳を貸すと、小さな声でこう言ってきた。
「お二人とも、よく無傷で戻ってこれましたね。初心者が防具を持たないでいったら、指を失ったり片足失うってことは割とありますよ」
「そんなに大変なんですか!? アカールが「簡単だから、防具はいらないよ」と言ってたのでそのままにしたんですけど……」
「……実をいうと、それなりに依頼をこなした人向けなんですよあそこ。だから、基本的に防具をつけていくことが基本なんです」
俺は目を丸くしながら神速の速さでアカールを見る。首をかしげながらニコニコしている彼の表情からは悪意を一切感じることはできなかった。
(……こいつ天然か? 悪気なしで縛りプレイさせているのか?)
俺は普段通りの顔をしているアカールを見つめながらため息をついた。
(……そういえば、経験値を確認してもらっていなかったな)
そんなとき、思い浮かんだことが一つあった。経験値を確認する作業だ。
「すみません、経験値ってどこで確認できますか?」
「あぁ。それでしたら今確認できますよ」
「えっ? そうなんですか?」
「はい。ギルド関係者なら誰でも確認できますから。それではこちらの紙に手を合わせてください」
俺は言われるがまま、右手を差し出した。染み色の紙に手を置いた途端、鈴の効果音が鳴り響き紙に文字が現れる。
「どうやら、経験値が500になっているようですね」
「え、そんなにたまっているんですか!?」
「はい! 溜まっていますよ! 凄いですね!」
「でへへ~~それほどでもぉ~~」
俺は後頭部を擦りながらでれでれと顔を溶かす。そんな俺に対し、ヒサメが後ろからローキックを飛ばしてきた。
「いってぇ! 何すんだヒサメ!」
「クロウがずっと談笑しているからでしょ! 最初に肩叩いてあげたのに全く気が付かないしっ……!!」
「だからって、蹴る必要はなくないか!? いてぇし!」
「蹴られても当然でしょ! 早くいかないとカジノで勝負が長くできないじゃん!!!」
俺がヒサメの発言を鬱陶しく感じていると、受付のお姉さんが「特典交換はまた今後にいたしますか?」と声をかけてきた。特典交換と聞いた瞬間、俺の意識はお姉さんの方へ向けられる。
「と、特典交換できるんですか!?」
俺は鼻息を荒くしながら早口に質問した。もしここでチート能力を得られたら努力なんてしなくて済むし、何より戦闘が楽になる。余った時間を使って、男磨きに時間を当てることもできるだろう。
(ハーレムちょめちょめライフの夢がかなうかもしれん!!)
俺が両腕でガッツポーズしながら感情を爆発させていると、お姉さんが優しい声で返事を返した。
「今の時点だと……お店の割引券と交換できますね!!」
「…………………はぁ?」
俺は開いた口が塞がらなかった。
「ちょっと待ってください。そこは能力強化とかじゃないんですか?」
「能力強化系は経験値がもっといりますね。最低でも5000からです」
「5000………からぁ!? 噓でしょぉ!?」
俺は後頭部をわしゃわしゃと搔きながら背筋を後ろにそらした。5000もためるとなると、あのダンジョンを10週はしないといけない。しかも能力強化なしでだ。アカールやヒサメがいたから何とか勝てたが、あれを倒すのには相当苦労するだろう。
「……どうします? 交換しますか?」
「……すみません、しません」
「そうですか! 交換したくなったらまた声をかけてくださいね!!」
俺は受け付けの方に頭を下げてから後ろを向く。腹を抱えながら爆笑するヒサメがそこにはいた。
「ギャハハハハッ! 経験値がw お店のクーポンw おかしぃ―ひっひっw」
「笑うなっ! 俺相当悔しいんだぞ!! 本当に笑うなぁ!!」
俺は右手でヒサメの口を塞ごうとする。そんな俺の攻撃をヒサメは軽やかな足取りで避け続ける。
「当たらないよぉ~~」
「てめっ……このクソガキがぁ!!」
「まぁまぁ落ち着きなって。クロウく~~ん。この世界だと楽に稼ぐ方法あるじゃない。カジノだよ、カ・ジ・ノ」
頬を赤くしながら口角を吊り上げるヒサメは俺にそう言ってくる。
それを聞いた俺は――納得してしまった。
言われてみればそうなのだ。無茶苦茶大変なダンジョンを周回するより、カジノで大勝したほうが楽に経験値を稼げる。もしかしたら、アカール以上に強くなることも夢じゃないだろう。
もともと楽することが大好きな俺に立ち止まる理由は、残っていなかった。
「そうだな。行くかヒサメ! 俺たちの夢へ向けて!」
「そうだよクロウ! 行こう! 僕たちの
俺とヒサメと肩を組みながらカジノへ向かうことを決意したのだった。
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