第二十話 ダンジョンボスとの戦い
俺たちはダンジョンの最深部に到着した。最深部は一本道になっている。奥の方が拓けた場所になっていることから、ダンジョンボスがいるのだろう。俺がそんなことを考えていると、アカールが右手で何かを指さした。
視界に入ったのは、宝箱と似た形状を持っている箱だ。俺が首を傾げながら「 これ何だ?」と質問すると、返事を返す。
「転送ボックスだよ。ダンジョンで手に入れたアイテムを入れると、後でギルドから渡してもらえるんだ。早速、クロウ君が持っているお金を入れてみよう」
「 わかった。この袋を入れてみるわ」
俺は宝箱から得たお金を詰めた袋を箱の中に入れた。しゃんと音を鳴らしながら光った後、箱を開ける。中には金の袋一つ残されていなかった。
「ちゃんとお金が送られたようだね。さてと。ヒサメ君も入れようか」
「えっ、僕も入れるの!?」
「当り前じゃないか。戦闘する際、持っておくわけにはいかないだろ?」
「…………ぐぅっ! わかったよぉ!!」
数秒間間があったものの、じっと見つめ続けるアカールの圧に根負けしたようだ。ヒサメは眉間にしわを寄せながらたんまり入った袋を箱にしまう。音を鳴らしながら消えると同時に、ヒサメは俺の下へ近づいてくる。
「クロウ。もし盗んだら……わかっているよね?」
「わかっているよ……盗まん盗まん」
俺は妙に圧力のある視線を向けてくるヒサメに動揺しながら返事を返した。いらない荷物をどかし終えた俺たちは灰色の石レンガで構築された通路を一列並びで歩く。妙な緊張感が訪れている中、アカールが口を開いた。
「それにしても、今回のダンジョンは運がよかったね。私が最初に向かったときは敵ばっかりで宝箱を回収する暇もなかったよ」
「そりゃ大変だなぁ……」
それだけ大変なダンジョンに挑んでいる時点で、元々技量があったのだろう。俺にチートがあったら、もしかしたらアカールと同等の場所へ挑まされたかもしれない。命大事に主義の俺からしたら、今回の状況はまだましなのだろう。そんなことを思いながら足を進めていると、音の反響が消える。顔を上げた途端、視界いっぱいに闘技場の様に広々とした空間が映った。
「かなり広い空間だね。僕、少しだけ楽しみになってきたな」
「まぁ、俺も少し楽しみかな」
「おっ、珍しいね! クロウって面倒くさがり屋だと思ってたから驚きだよ」
「まぁ大変なことは嫌いだけど……燃えるものは燃えるしね」
俺がそんな風に返事を返していた時だ。ぐらぐらと地面が揺れ始める。
一瞬、地震かと思われたが、すぐに音の発信源が露になる。それは三メートルを超える巨大な竜の姿だった。体は緑色の硬質な鱗で覆われており、長い首の先端には大きな尖った牙を持った口があいている。四本の太い足で大地を鳴らしながら黄色の瞳を動かすさまは、化け物というほかないだろう。
もし現代に恐竜が現れたらこれだけ恐怖心を感じるのだろう。俺はそんなことを思いながら相手を観察していると、突如顔を上にあげる。そして――
「ヴォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
龍は大きな口を開き、雷のような咆哮を上げた。耳を劈くような破壊音で、思わず両手で耳を押さえ込む。直後、龍の尻尾が俺へ飛んできた。避ける動作を取っていなかった俺は攻撃への反応が一歩遅れる。
(よけきれねぇ!! 当たっちまう!!)
防具を着ていない俺が命を危機を感じながら顔を両腕で塞いでいると、鈍い金属音が響く。ビビって両目を閉じていた俺の前には、大剣を地面に突き刺しながら防御するアカールの姿があった。
彼は相手の尻尾をいなすと同時に、大剣を軽々と振り下ろす。直後、尻尾の先端がざくりと音を鳴らしながら切断される。痛みを感じた龍が唸っていると、敵を見つめながら声をかけてくる。
「大丈夫か、クロウ君!!」
「あ、あぁ! 大丈夫だ!! ありがとう!!」
返事を聞いたアカールは大剣を持ちながら「無事層で良かったと」一息つく。
「ただ、あの龍が出てくるとは予想していなかったね」
「知っているのか?」
「私が中級者向けのダンジョンをふんどしで周回していたときに現れた敵さ。しっぽ以外気を付ける箇所がないから、大分楽な部類だね。けど、初心者向けに出るとは思わなかったな……」
「……毎回思っているが、お前本当に初心者向け選んでいるのか?」
「私基準ではあるけれど、選んでいるよ」
バカ真面目に答えるアカールの声を聞いた俺はため息をついた。今度ダンジョンや依頼を選択するときは、俺たちがちゃんと見ることにしよう。そんなことを思いつつ俺は指示を仰ぐ。
「俺はどのように立ち回ればいい!?」
「そうだね……なら、こうしてもらおうかな」
俺はアカールから指示の内容を端的に聞く。
「出来るかい?」
「あぁ、やってみせるぜ!!」
「頼んだよ!!」
俺はそう言ってからアカールの右横から飛び出した。直後、龍の視線がこちらへ向きそうになる。だが、生物的な本能から目標を変更しなおした。強者と対峙する本能が龍の認識を鈍らせる。
俺は生まれた隙を利用してヒサメと合流することに成功した。攻撃方法を悩んでいる彼に、俺はアカールから貰った指示内容を伝える。
「本当にそんなことをするの!?」
「あぁ。リスクはあるが、やる価値はあるはずだ!」
「……分かった! やってみるよ!」
ヒサメはこくりとうなずくと、杖を取り出し魔法を詠唱する。杖を用いて生成される水魔法は龍の頭を見事に包み込んでいく。俺たちの狙い。それは龍に溺死させる恐怖を与えることだ。
「けど……これ、かなり疲れるし難しいよ!」
「大丈夫だ! 二分ぐらい保ってくれれば、なんとかできる!!」
俺はそう伝えてから攻撃体勢を取る。「はっ!!」と声を出しながら俺は気を取られている龍の腹部に潜り込んだ。うろこが生えていない腹部に到達した俺は、勢い良く刀を一突きする。銃剣より切れ味の良い刀は相手の皮と肉を裂き、傷を負わせる。
直後、竜の苦しそうな悲鳴が水中で木霊する。予想外の攻撃を受けた龍は尻尾をバタバタと動かすが、そこには誰もいない。龍は動転している。
故に――今が最大火力をぶつけるチャンスだ。
俺は龍が倒れたときに当たる可能性のある範囲から離脱しながらアカールのほうを見た。彼は龍の首下へ大剣を構える。鈍い皮が避ける音が響いたかと思うと、龍の鋭い鳴き声が響いた。龍は窒息しないように頭を動かし続けているが、ヒサメの魔法がそれを逃がさない。
アカールは目にもとまらぬ速度で剣を振るい続けた。龍は首からおびただしい鮮血を流し続けたあと――ずずんと、音を鳴らして倒れた。
それが、勝利の合図を表していた。
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