第十七話 初の冒険者適性検査の結果は……

 俺は転生して二日目にダンジョンへ赴くことになった。本当は断りたかったが目を輝かせるアカールを見たら出来なかった。


「はぁ……なんで俺断ることが出来ないんだろうなぁ」


 俺は動きやすい服装に着替えてから、携帯食料やナイフ等の道具を肩掛けポーチにしまっていく。持ち物の準備を一通り終えたことを確認した後、階段を降りる。


「準備が終わったようだね、二人とも」

「うん。僕は既に準備完了しているよ」

「俺もだ」

「そっか。なら、行こうか!」


 俺たちは明るい表情をみせるアカールを先頭に、ギルドへ向かうことにした。館内に入ると先日と変わらないほどの列が出来ていた。何人かは昨日見たことがある人物もいる。依頼を沢山こなしているのだろうな、と思っているとアカールがこちらに声をかける。


「今日は二人が初めてのダンジョンを体験するから、簡単な依頼を貰ってきたよ!」

「どんな依頼だ?」


 アカールは紙に書かれた内容を読み上げていく。要約すると、ダンジョンに生息しているスライムとゴブリンが増加しているから討伐してほしいとのことだ。


「今回は討伐依頼だね。そうなると、それなりに使える武器が必要になりそうだ。折角だし、適性検査を受けてから行くとしようか」

「えっ、そんな場所があるのか?」

「うん。あるよ。私についてきてね」

「お、おぅ」


 俺はヒサメと横並びになりながら、アカールの後ろを歩く。その道中、ヒサメが悪戯に笑いかけてくる。


「クロウくぅ~~ん。適性検査、自信あるぅ~~?」

「あるわけないだろ。おめぇが経験値横領したせいで無能力なんだから」 

「ねちねち過去のこと言うのは僕、嬉しくないなぁ」

「いや、言われても仕方ないだろ。俺のちょめちょめハーレム人生を奪ったんだから、これでも優しい方だぞ」

「そうかぁ……ならさ。何をしたら許してくれる? 例えば……僕が君に身を捧げる、とか?」


(何を言っているんだこいつは!?)


「こ、こら! ふしだらなことをいうなっ!」

「えぇ~~そんな風に言わなくてもいいじゃぁ~~ん。僕、こうみえて気に入っているんだよ?」

「残念ながら俺にそっちの気はない。あきらめろ」

「そっかぁ……なら、当分先になりそうだねぇ」

「あぁ、そうしてくれると助かる。最も、お前とそんな関係になる気はさらさらないがな」


 俺が頬を赤らめながらくすくす笑うヒサメに返事を返していると、アカールが足を止める。横側から目の前に広がる空間を確認する。マンションにあるリビングぐらいの広さがある部屋の中に、占い師のような衣装をまとった女性が立っている。長髪で目元は見えないが、かなりのべっぴんさんだと思っていた。


「ここが適正検査会場だよ。こちらの女性に潜在能力を調べてもらうと、適正武器が判明するからね。まずはクロウ君からやってみてくれ」

「あ、あぁ。分かった」


 俺は女性の前に置かれた椅子に腰かける。すると、女性は光る水晶玉に両手を回しながら何かを呟き始める。声は聞こえないが、桃色に染まった口から白色の歯が覗いていることから仕事はしているのだろう。


 俺が女性の前に座りながら一分ぐらい待っていると、目の前の人物が手を下げた。確認が終わったのだろうかと思っていると、女性が口を開く。


「まず、身体能力から説明します……」

「は、はい!」


 ごくりと唾をのむと、女性は一つ一つ口にしていく。その能力は、俺の予想以上に――低かった。5段階評価で、全て2なのだ。耳を疑いたくもなるだろう。


「本当にそんなに低いんですか?」

「えぇ……私が……間違えるわけ……ありませんから……それでは、潜在能力を伝えさせていただきます……」


 そういや潜在能力について聞いていなかったと俺は思った。ここで逆転するチャンスがあるのではないかと思いながら足をさわさわと動かす。


「あなたの潜在能力……それは、努力と根性……」


 しかし――返ってきたのは無情な返事だ。


「……それって、どういうことですか?」

「……あなたには……適正能力がほとんど……ありません……逆に言えば……無限に広がる可能性……ともいえるのではないかと……思い……まっ……w」

「あれ? すみません、あなた笑いましたよね?」

「笑っていません」

「え、でも確かに笑っていましたよね……?」

「次の方、どうぞ」

「はぐらかされた!?」


 俺が目を丸くしながら大声を出していると、後ろに立っているヒサメから声が聞こえてくる。首を後ろに向けると、憐れみながら肩を触ってくる。


「ドンマイ、クロウ君。君、センスないよ」

「な、なにをいうだっ! 無限の可能性が広がっているんだぞ!」

「いや、分かっているでしょ。努力と根性で必死に努力しないと、力なんて一つもつかないんだよ。まぁ、あれだ。ハーレム人生は諦めな、クロウ君」

「くっ……くそがぁぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は絶叫しながらアカールの下へと戻っていった。椅子に腰かけているアカールは嬉しそうにこちらのほうを見つめてくる。


「どうだった、クロウ君? 目指すべき道が見つかったかい?」

「すまん、アカール……俺には適正能力がなかったよ……」


 俺がしょんぼりとした表情を浮かべていると、アカールはニカっと笑う。馬鹿にされるのだろうかと数秒間思っていたが、彼の放った言葉は違っていた。


「……そっか。けど、大丈夫だよ! だってさ。初めて冒険者になったときに能力があったら胡坐をかいちゃうかもしれないでしょ? それなら、何もない所から積み重ねていった方が達成感がわくんじゃないかな?」

「達成感、か……確かに、そうかもな」


 確かに、俺みたいな人間はチート能力を貰っていたら力に甘えるだけで体を鍛えたり技を生み出したりしなかっただろう。そう考えたら、努力するチャンスを貰えたのはある意味チャンスと思えるかもしれない。


「それにさ。英雄っていうものは生まれつきからなれない。彼らはみんな、血の滲むような努力をしているんだからさ! 与えられた試練と思おうよ!」

「……アカール。そうだな。俺、一つ一つ積み重ねて頑張るよ」

「その意気だよ! さてと! ヒサメ君の適性検査が終わったら武器を見ようか!」

「おう! そうだな!!」

 

 俺は元気よく返事を返すと、後ろから足音が聞こえてくる。

 ヒサメが戻ってきたようだ。相変わらずこちらを馬鹿にする表情を浮かべているが、調子を保たせた方が冒険には役立つだろう。そう思いながら奴のあおりを受け流していると、アカールがパンと手をたたく。


 どうやら、これから装備を見に行くらしい。ここで煽りを聞いているのも面倒だなと思った俺はアカールの発言に便乗しついていくことにしたのだった。

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