第二章 煩悩ばかり沸いてる二日目(ダンジョン要素あり)
第十六話 主人公、変態認定される
(拝啓、ご両親さま。私、クロウは大変なことに巻き込まれました)
俺は布団から上半身を出しながら顔を左に向けていた。俺の隣では、ヒサメが小さな吐息をたてながら眠りについている。淡い桃色に輝く艶めいた髪の毛は、男であると自負している彼の性別を疑ってしまうだろう。
いや、それにに頭を使う暇はない。問題は奴の服装だ。
(なんであいつ、上半身薄着なんだよ!?)
奴はトップスではなく、薄着を纏っていたのだ。その証拠に、布団の隙間から淡い肌色を持った肩が見えているのだ。
俺が少しばかり前かがみになりながら右往左往していた。俺の脳内に過ちを犯した記憶がないのは確かだ。だが、奴にメリットがあるとしたら別かもしれない。例えば――奴がハニートラップを仕掛けてお金を恐喝するとしたらどうだ。
(ありえない話ではない。現に俺は経験値横領されたからな……!)
俺は最悪のケースを創造すると同時に部屋中を物色しはじめる。だが、現れるのはアカールが使用していたと思われる装備や料理器具、本ばかりだ。アカールがそんな機械製品を置くわけが無いのだから、当たり前である。
(ねぇ、ねぇ!! まじでねぇぞ!!! どこにあるんだ!?)
俺は動揺しながら部屋の確認を行っていく。可能な限り部屋の中を荒らさないように気を付けながら探していると、可愛らしい声が後ろから聞こえてくる。俺が冷や汗を流しながら振り向くと、ヒサメが上半身を起こしていた。
(まずいぞっ!! このままだと悲鳴を上げられかねん! せめて、被害を最小限に抑えなければならない!! ならば、これだぁっ!!!)
俺は心の中で思いの丈を叫びながら膝から布団前に滑り込んだ。膝を擦ったことで痛みが生じているが、俺にはそんなことを考える暇はない。今はとにかく、奴の怒りを収める事だけなのだ。
「すみませんでした、ヒサメさん。一線を越えてしまったなら謝ります」
「………………なにをいっているんだい? クロウ?」
「へ?」
ゆっくり顔を上げると、ヒサメがゴミを見る視線を向けていた。胸の鼓動が五月蠅いと思っていると、ヒサメがにやりと口角を上げる。
「暑かったから薄着で寝てただけなんだけどなぁ~~もしかしてぇ~~クロウ君は僕と一線超えたって思っちゃったのぉ?」
ぷぷぷと笑いながらヒサメは言葉を続ける。
「僕がそんなことするわけないじゃなぁ~~い。あ、それともあれかな? 現実世界で出会いがなかったからドラマとか漫画とかに影響されたのかな?」
「う、くぅ、うるせぇなぁ!!」
俺は自らの考えを悔いた。奴がそんな事をするほど頭が良いわけがない。寧ろ今回の一件で俺が変態だとヒサメに明かしたようなものだ。俺が悔しがっているとヒサメは調子に乗らせることになった。
「さて、今日もよろしくね! 変態クロウ君!」
「誰が変態じゃゴラァ!!! このギャンブル中毒が!!」
「誰がギャンブル中毒だゴラァ!!! バトるかゴラァ!?」
「やってやろうじゃねぇかこの野郎!!」
俺とヒサメが一触即発の事態になっている中、木製の扉が開く。現れたのは、眠そうな表情をしているアカールだ。アカールはブリーフ一枚というとんでもない恰好のまま、俺たちにこう言ってきた。
「朝ごはん出来たから、二人とも静かにおりてきてね」
「お、おぅ……」
「分かったよ……」
「それじゃ、よろしくね」
扉が閉まった音が響いた後、沈黙が流れる。俺とヒサメは顔を見合わせながら同時に言葉を口にした。
「けんかをするの、馬鹿馬鹿しいかもね」
「そうだな。奴よりはましかもしれない」
「そうだね。後、ローキックしちゃってごめんね」
「デコピンさせてくれたら許してやるよ」
「分かった」
俺はありったけの力を込めて奴にデコピンを食らわせた。その後「服を着たいから先に行っててくれ」とヒサメから言われたので、俺は静かに降りて行った。
木製のテーブルには既に料理が置かれている。ぷりっと黄身が張った目玉焼きや温かな湯気を放っているスープ、緑と紫、白で彩られたサラダが置かれていた。俺が想定していた以上に現実の食事に近いようだ。
「うまそうだなぁ。食欲がそそるぜ」
「ありがとう。料理人として最高の言葉だよ」
俺は嬉しそうに微笑むブリーフ姿のアカールに微笑んだ後、視線を反らした。幾ら飯が美味いとて、裸体を毎回見せられたら食欲が削げるというものだ。俺がそう思っていると、ヒサメが欠伸をしながら降りてきた。
「おはよう、ヒサメ君。昔仲間が着たお古だけど、ちょうどよくて良かったよ」
「えへへへへ。僕もこんなに可愛らしい服が着れてうれしいよ!」
ヒサメは嬉しそうに笑みを浮かべながらくるりと回ってみせる。ふわりと回るスカートが俺の性認識を粉砕しようとしてきた。
「それじゃ、ご飯を食べるとしよう」
「そうだね」
「そうだな」
俺はヒサメが席に座ったことを確認してから、食事を始めた。料理に舌鼓を打っていると、アカールがふと声をかけてくる。
「そういえば、二人とも体の調子は大丈夫そう?」
「頬はひりひりするが、行動に影響はないかな」
「僕はもう痛みはないな」
聞いたアカールは元気よく「そっか! それはよかったよ!」と声を出した。彼が元気を出すときは様々なことが起きるので、俺は少しばかり身構える。
「実はね。冒険者として強くなるには依頼をこなすより効率よい方法があるんだ!」
「それはもしかして、昨日のカジノとか!?」
「う――ん……それもいいけれど、さらに効率が良いんだ!」
「それってなんなの?」
「ふっふっふ……よく聞いてくれたね!」
アカールは俺たちの顔を見つめながら、本題を切り出した。
「今日は僕たち三人で、ダンジョンへ向かおう!!」
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