第十四話 男の娘な神様、賭け対象に選ばれちゃったよ
時刻は夜。俺たちはアカールの家で少しばかり休んだ後、ギャンブルをするために賭場へ向かうことになった。あまりギャンブルしたことがない俺が緊張している中、隣では満面の笑みを浮かべながらウキウキと体を揺らしているヒサメがいた。
アカールから貸してもらった水色のショートパンツと半袖の白シャツが白肌を見事に引き立たせている。すれ違う輩たちがヒサメに下品な視線を向けていることから、完全に女性に見えるのだろう。
残念ながら、ギャンブル大好きな男の娘である。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「おいやめろ。顔を赤く染めながら艶やかな声を出すな。通報されたらどうする」
「大丈夫だよぉ……僕、男だし……手を出してくる人間なんてぇ、いないでしょう? それにぃ、今はギャンブルのことしか頭が回らないよぉ!!」
「……ごめん、クロウ君。私、あまりヒサメさんのことを知らないんだけどさ。毎回こんな感じなの?」
俺は心配そうな表情を浮かべるアカールの目を見ながら縦に一回振った。ここまで行動が激しくなるとは思っていなかった。まぁ、流石に問題は起きないだろうと、俺は思いつつ歩いていた。
数分間歩いていると、スーツ姿の大人たちが闊歩している姿が多くなってきた。目的地に近づいているのだろうかと思っていると、アカールが指をさす。
「ほら、あそこがこの地域で最も有名なカジノだよ」
「すげぇなぁ……無茶苦茶ピカピカしてらぁ」
俺の視界に入ったのは、東京駅と同じ大きさを持った金色の装飾が施されている建物だ。華やかな雰囲気に包まれた街の雰囲気と人々の楽しげな声がどこか大人な雰囲気を感じさせる。
「それじゃあ、行こうか」
「お、おぅ!!」
「かっじっのっ! かっじっのっ! かっじっのっ!!」
俺は小学生みたいに可愛らしくはしゃいでいるヒサメを眺めながら回転扉を抜ける。直後、喧騒が一層濃くなるとと共に内装が露になる。見たことがない文字で構成された場所にバニーガールの衣装をまとった豊満な体の女性たちが笑顔を浮かべる。
見覚えのあるゲームから無いゲームまで各所で行われており、至る場所で歓声が沸いている。中央奥には黄金色に輝く手すりが付けられた大理石の階段があり、そこからまっすぐ赤色のカーペットが敷かれていた。その前にはVIPしか入れないような扉が設置されているようだ。
「すげぇなぁ。これが上流階級って奴か」
「チッチッチッ……甘いなぁ、クロウ君。実に甘いよ」
俺が目を輝かせていると、ヒサメが横に指を振りながら舌を鳴らしてきた。ムッとしながら質問すると、「フッフッフッ……ギャンブラーの僕から、無知でおバカな君に教えてあげよう!!」と返事が返ってきた。
「例えば、あそこにいる髪を短くまとめた男性。彼はギャンブラーじゃないよ」
「えっ? あんなにスーツ姿がかっちりとしているのに?」
「スーツ姿でかっちりしている人は、緊張している証拠だと言ってもよい。現にほら。相手の不正を見抜けていないじゃないか」
「不正……?」
俺は疑問に思いながらその男性たちのカードゲームを眺める。ババ抜きだろうかと思っていると、引こうとしている男性が違う方向を見ていることに気が付いた。男性の顔先に視線を向けると、そこには右手で数字を表す男性が立っている。なるほど、これは無茶苦茶初歩的な技だ。
「うぇ――いっ!! 俺のかちぃ!!」
「くっ……負けたっ……」
「ほらほら、有り金おいてけぇ!!!」
男は舌を出しながら負けた方からお金を奪い取る。高笑いしながら、「個々のギャンブラーはみんなよわっちぃなぁ!! 簡単な戦略で負けてら!!」と不正していないような発言をしてみせる。俺が苛立ちながら男を見つめていると、ヒサメが不敵な笑みを浮かべているのが見て取れた。
「ヒサメ。いったい何を見て笑っているんだ?」
「何って言われてもね。いや、ここのカジノっておもしろいなって思ってさ」
「面白い要素あるか? 人の欲深さしか見て取れないんだが」
「何言ってんだい。そういうのがいいんじゃないか!!」
ヒサメはニタニタ笑いながらこちらを振り向く。
「僕たち神様にとって、人間ってのは一番面白い生物だよ。感情任せに合理性を欠いた行動はするし、人をあぁやってバカにしたいがために非行に走ったりする。なんともまぁ、馬鹿らしくてねぇ……笑えてきちゃうよぉ!!」
ヒサメが腹を抱えながら大声で笑っていると、後ろから一人の男がやってきた。先ほど不正して勝利した男らしい。目を血走らせていることから察するに、相当図星だったのだろう。
「ガキィ……まさか俺に言ってんのか?」
男はヒサメに顔を近づけながら睨みつける。
そんな男に対しヒサメが取った行動は――金的だった。
「がっあっは……あっ……てめ……っえっ!?」
「失敬。これは自己防衛ってやつだから許してほしい。責任は彼が持つから」
「あ、えちょ、はぁっ!?!?」
ヒサメは申し訳なさそうな表情を浮かべながら俺に責任を押し付けてきやがった。
(なんなんだこいつは!? いったい何を考えていやがるんだ!?)
「上等だゴラァ……てめぇの彼女が俺の息子を傷つけたんだ! 責任取ってもらうぞゴラァ!!!!」
「知らねぇけど……分かったよ……」
こうして俺は、初めてのギャンブル勝負へ巻き込まれることになった。
「その前に……一つ決めることがあるよなぁ?」
「何を決めるんだ?」
「決まってんだろ? ギャンブルに使う対象だよ……!」
男は「はぁ、はぁ」と汚らしい吐息を漏らしながら指をさした。
「もし、俺が勝ったらこいつをいただくぜ!!」
ヒサメは目を丸くしながら「えっ、えぇぼくぅ!?」と大声を出している。確かに対象としては最適かもしれない。見た目的には美少女にしか見えないのだから、買い手も多いだろう。
相手が指定を先に行ったことで、俺はむしろ有利になった。選択する際、どれだけ不条理だったとしても条件を押し付けられるからだ。
故に、俺はこう提示するのである。
「……なら俺からも一つ提示させてもらおう。俺が貰うのは、てめぇの経験値だ」
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