第十話 【悲報】初心者クエスト、嘘だった
お昼ごろ、俺たち四人は馬車に乗りながら目的地へ向かっていた。
今日の目的は、キノコを採集することだ。日陰に生えているとネットで見た覚えがあるので、重点的に探せば簡単に見つけられるだろうと推測を立てる。
(今回は吐かずに仕事を終える事が重要だな)
時折ぎゅるると音を鳴らす腹を撫でていると、ヒサメが声をかける。
「ねぇ、クロウ君……僕、ちょっときつくなってきたんだけれど大丈夫そうかい……?」
「……まぁ、今は大丈夫そうかな。走ったりしたら厳しいかもだけど」
「そうかい……そりゃまた、賭けの内容は厳しいねぇ……ふうっ……」
ぎゅるるると音を鳴らしながらヒサメは顔を青くしていた。よくよく思い返すと、ヒサメは昼飯にピザに乗せられるような皿にぎりぎり入るような大きさのオムライスをにこやかに食べていたのだ。あれをたった一人で食べきれば、俺よりも苦しくなるのは当然だろう。
「……ちょっとやばかったけど、凌いだよ」
「なぁ、ヒサメ。こんなバカげた勝負はやめないか? 誰も得しないぞ」
「得するしないじゃないよ。博打ってのは、勝ったっていう快楽を最も簡単に得られるからやるんじゃないか」
「じゃぁ、どちらかが負けるまで勝負を続けるか?」
「いいね、それ。僕にとっては燃えるシチュエーションだよ」
俺の質問に対し、ヒサメは威勢の良い返事を返した。初めてのクエストは難易度がそこまで高くないのだから、一つぐらい勝負を入れたほうが楽しめるだろう。
俺がクエストと関係ないことに頭を使いながら腹を擦っていたころ、馬車が停止した。どうやら目的地の場所に到着したようだ。俺は前傾姿勢を取りながら受付の女性が下りた方向から地面に降りる。
ゆっくり顔を上げると、そこに広がっていたのは寝床や箱、調理器具などが置かれたキャンプのような場所だ。ギルドが準備した冒険者支援施設だろうか。
俺がそんなことを思っていると、受付の方が話し始める。
「本日はアカールさん以外がこの施設を初めて使用されるので説明のほど始めさせていただきます。まず、こちらがみなさんの寝床です。あまり素材は良くありませんが、最低限の睡眠をとることが出来ます。最大五人収容可能です」
俺は女性が指さした方を見る。ベッドの形をした家具が置かれている。少しばかり布が汚れてはいるものの、それなりに睡眠が出来るかもしれない。最も、トコジラミとかがいないことを前提としているが、異世界でそんなのはいないと思うしかない。
「あちらにあるのが支給品ボックスです。強いモンスターを討伐する際、道具が足りなくなってしまう可能性があると想定されます。それを防ぐため、アイテムを常備するようにしています。例えば、回復薬や銃弾が入っていますよ。隣にあるのが、納品ボックスです。依頼書を入れると、そこに書かれている場所に仕入れたものを転送するという便利なものですよ」
はえ――と思いながら俺は話を聞きつつ、支給品ボックスを開く。緑色に発光する怪しげな液体が入った瓶やネット検索で見たことがある銃弾が入っていた。謎の文字が書かれているが、やはり文字が読めないのが厳しい。今日勉強でもするべきかと考えていると、受付の方が最後の説明を始めようとしていた。
「そして、こちらにあるのが簡易的な洗い場です。蛇口をひねるとお湯が流れてくるのでそれを用いてください。最大三人収容可能ですが……まぁ、二回に分けたほうがいいでしょうね」
俺たちを眺めながら受付の方が言葉を濁すと、ヒサメが元気よく手をあげる。
「はいはいはい! 僕は男だよ!!」
「あっ、そうなんですか! いや、あまりに美人な方だったので女性かと思ってしまいました。申し訳ございません」
「別に大丈夫だよ! それに僕はムサイ男たちと一緒に入らんしね!」
俺たちを指さしながらヒサメは景気よく言葉を放つ。腹がパンパンなのによくそんな大声を出せているなと思っていると、少しばかり表情が変化している。無理して喋っているようだ。やはり馬鹿なのか。
「これで一通り説明が終わりました。今回の依頼に関しては一時間ぐらいで終了した後、納品するようにしましょう」
「了解しました!!」
俺たちはそう返事をした後、目的の山菜が生えている場所へ向かう。傾斜のある獣道を一列に並びながら慎重に進んでいく。聞こえてくる虫の羽音や鳥の囀り、アカールが持つ大剣が鳴らす音に耳を傾けていると、ひらいた場所に出る。
そこには膝元まで伸びた草木が生い茂る草原が広がっていた。円形状に広がった草原だ。歩いてきた道以外はすべて森に囲まれており、傾斜があるように感じられる。もし足を踏み外せば命はないだろう。そう思っていた俺の耳に、受付の方から信じられない発言が飛んでくる。
「ここ以降の傾斜がある森に本日見つける必要があるケイシャキノコは生えています。皆さん、気を付けながら探してくださいね」
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