第二話 ある日、森の中。ふんどし男に出会った(4/13 改稿済み)
「お、お前……男だったのか!?」
俺は動揺しながらあそこを抑える神に質問する。彼は端正な顔を醜悪に歪めながら掠れた声を出した。話を聞く限り、本当のようだ。本当に男なのかと思ったがまじまじ眺めると男らしい特徴がある。まず、喉仏。
女性の場合、軟骨が鈍角になるためそこまで目立たないが、男は突出部が出来る。目の前にいる神には男が持つ特徴が表れていた。だがそれだけだ。
それ以外の身体的特徴を確認するには、如何せん不味すぎる。社会的にも倫理的にも許されちゃいけないのだ。男とも女とも断定出来ないシュレディンガーの猫状態だ。
「駄目神様よ」
「僕の名は……ヒサメだっ……! 名前で呼べ! もし僕に何か問題があったら他の神が許さないぞっ!」
「なんか高圧的だな……というか、問題があったからここに呼ばれたんじゃないのか?」
「う”っ……」
ヒサメは苦い顔をしながら地面に体育すわりで座り込む。目を細めながら、彼女は細々と言葉を口にしていった。
無茶苦茶話が長かったが、要約するとこういう事らしい。ヒサメには自分よりも上司の神様がいるらしくそいつに今回のミスがばれた。罰則として、俺と共にこの世界で世界を救うまであの世界に帰れないとのことらしい。
「追放されたあんたは俺と共に冒険に出るってことか」
「まぁ、そうだね……僕としては不服だよ。君みたいな変態と仲間なんて」
「ふざけんな! 実害もたらすギャンブル狂いには言われたかねぇよ!!」
俺は目の前で頬を膨らませるヒサメに怒鳴りつけた。経験値を全てとかされたのだから、怒鳴る権利だってあるだろう。そう思っていると、ヒサメが不敵に笑った。
「まぁまぁ、そう怒りなさんな。それに、君にとって僕は重要なはずだよ?」
「そりゃ、なんでだ?」
「僕にあるのは、神様として生まれ持った力と博識な才、美貌があるのさ。君にあるのは、転生したことで手に入れた美貌だけ。冒険するとしたら、最適なパートナーだと思わないかい?」
なるほど、クソガキだと思っていたが意外に利口らしい。実際問題、神様がいるといないとでは冒険する際にかなりの進度差が発生するだろう。
「……そうか。じゃあ、そうだな。ともに世界を救うとするか」
「そう来なくっちゃね! これからよろしくね、クロウ!」
俺は差し伸べられた手を握り、固い握手を結んだ。
悪戯心が芽生えていた俺は握り手に強い力を込める。
「いたたたたたっ!! 緩めてよぉ~~」
「これで、お互い様さ。とにかく、悪いことはするなよ」
「は――いっ。僕様お利口だから、安心してね!!」
本当に信用できるのだろうか。バカそうだし心配だ。
「さてと……これからどうするんだい? 森にいても死ぬだけだよ?」
「言われなくてもわかってるよ」
俺は返事を返した後、数回周りを見渡した。すると、遠くの方に門のような建造物が見える。もしかしたら、町があるのだろうか。
「とりあえず、あそこに行こう」
俺が指をさすと、ヒサメは目を丸くしながら声を荒げる。
「なんだって!? 僕さまに歩けと!?」
何を言っているんだこいつは。俺は呆れながらそう思った。
「嫌ならいいぞ。そうなったら二人とも死ぬだけさ」
「い、い、い、いくさ! 僕は死にたくないしね!!」
面倒くさい神様だなと思いつつ、俺はともに行動することにした。コツコツと後ろを歩きながら、俺は改めてヒサメの体に視線を向ける。何度見ても女にしか見えなかった。唯一違うとすれば胸がすらりとしているところだけだ。
男だとすれば、この体系も合点がいくだろう。
しかし、奴の見た目は若い。このことから考えるに、まだまだ成長途中の神様なのだろうか。だとすると、奴が女性である可能性はまだまだゼロだと考えられない。
とにかく奴が男という証明はできていないのだ。想像するのは自由だろう。そう思いつつ歩いていると、一つの疑問がわいてくる。
「なぁ、ヒサメさんよ。あんたは何の神様なんだ?」
奴が使える力についてだ。仮に俺が力を持たなくても、戦術次第ではボスを楽に倒せるかもしれない。そう考えたら、事前に使える力を聞くのは重要だろう。
俺がそう思っていると、ヒサメは右足を軸にして百八十度回転し、こちらを見つめてきた。可愛らしく微笑み「いいよ!」と発言した。
「僕はねぇ~~神様の中で~~水を司る神様なんだぁ~~! 因みにぃ~~君を転送した魔法は上司から借りただけだからぁ~~もう使えないよぉ! だからぁ~~歩きたくないよぉ~~」
(なるほど、水の神様なのか。最悪ウォーターサーバーにできるな)
相槌を打ちながら脳内でそんなことを考えつつ、質問を振る。
「せっかくだし、水魔法を見せてくれないか?」
「いいよ! 折角だし見せてあげるよ!!」
ヒサメは元気良く頷いた後、手のひらを俺の前に出す。
「
一言口にした、一瞬にして人の頭はある青球体が生み出された。透明な膜の中に無数の水が入っているらしい。ぶつけられれば相手は怯むだろう。そんなことを思っていると、ヒサメが突拍子もない発言をした。
「クロウ。これを飲んでみなよ」
「はぁ!? ばっちぃし飲みたくねぇよ!!」
「し、失礼だな!! こう見えて身体には気を使っているよ!」
「全くそう見えないけどな。博打のせいで俺は苦労してるし」
俺が皮肉をたっぷり込めて言うと、ヒサメは嫌なオーラを発しながら睨みつけてくる。てっきり右手に生成した水球体をぶつけてくるかと考えていたが、そういうことはしてこなかった。
最低限の理性はあるのだなと思っていると、ヒサメが止まれと指示を出してくる。
「……ちょっと待ってくれ。声が聞こえる」
ヒサメの発言から察するに、敵対生物を見つけたのだろうか。俺は両耳をすますようにポーズを取りながら目を閉じてみる。しかし、聞こえてこなかった。
「もしかしたら、困っている人かもしれない。助けたほうがいいよ」
「でも、もし危険な生物だったら?」
「殺して食べるだけだね!!」
「あ――はいはい、そうだね」
俺はヒサメに適当な返事を返しながらともに声が聞こえたほうへ向かった。本当ならすぐに街へ向かうべきだ。しかし、下手すればヒサメ以外の神からペナルティを受ける恐れがあるため、逃げることはできなかったのだ。
数十分程度歩いたころ――少し開けた場所に出た。崖の上から静かに水が流れている。滝のような勢いはないものの、それなりに飲める水だろう。そんなことを感覚的に思いつつヒサメに視線を向けた。
「ここ、中々よさそうだね」
「う、うん。そうだね。僕様もそうおもう、よ……」
「ヒサメ?」
「どうしたどうした、そんな風にしゃべるのを……止め……て……」
「う……後ろ……」
「後ろ?」
俺はヒサメの言葉を聞いた後、後ろを振り返った。
そこにたっていたのは――
鍛え上げられた肉体を持つふんどし姿の変態だった。
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